「―――■■■■」
「ララン!? 理性を失っているのか……?」
妖精を接収した姿は煌びやかな装いをしていた。しかし完全な接収をマスターしていないラランには全身接収は負荷の高すぎる魔法であった。かつてのエルフマンがビーストに理性を奪われたように、ラランはジュエル・エレメントに精神を乗っ取られてしまった。
「動かない……? どうしたというのだ」
ジュエル・エレメントを接収したラランは背中から翼が生え、背には結晶輪と結晶柱を浮かべているが、羽は身体を覆うように閉じ、身体は宙に浮いたまま、四肢が項垂れるように下を向いている。
「動かないならば、今の内に斬る!」
「■■――!! ■■■■■―――――!!!!!」
もはや妖精とは言い難い怪物の咆哮にエルザですら威圧され、地面から足が離れない。エルザは耳を塞ぎ咆哮に耐える。しかしその一瞬、ラランから目を離してしまう。そして反撃の機会を伺おうと再びラランがいた方向を向くと、既にそこにはラランの姿は無い。
「■■■――!!!」
「速い!」
上空から襲いかかる結晶柱の雨を剣で弾いていく。しかしスコールのように激しく降り注ぐ結晶柱は留まることを知らずエルザを物量で押し潰した。
「ぐあっ!」
「■■■■―――」
「くっ……目を覚ませ! ララン!」
4つの結晶柱を中心に円を描くように回転させながら動かしていく。中心の円には魔力が集まっていき、ラランが魔力を押し込むジェスチャーを取ると、集中した全ての魔力が光線となってエルザへと一直線に向かっていった。
「金剛の鎧!」
あの魔道収束砲ジュピターすらも受け止めた金剛の鎧を換装したエルザはラランの魔力砲を受けきる構えを見せた。そして両手に持った大盾を合わせ、魔力砲と衝突した。
「■■■―――!!」
「お、重い……!」
「■■――――!!」
更に勢いを増した魔力砲の威力がエルザを襲う。しかしエルザも一歩も退くことなく魔力砲に立ち向かっていく。しかしエルザの金剛の鎧が1枚上手だったのか、魔力砲を上空へ受け流した。その魔力砲の行方は神鳴殿のラクリマの一つに直撃し粉砕した。それに呼応して生体リンク魔法が発動。ラクリマを破壊したラランに強烈な雷が降り注いだ。
「■■■■――――――!!!!」
雷が身体を燃やし尽くした焦げ臭さが漂う。そしてラランの身体からは煙が発生し、帯電している様子が分かる。相応のダメージが入ったのか動きも鈍くなっている。
「よし。これなら……」
「あ、エルザー! ただいまー!」
ぶんぶんと手を振って街へ帰ってきたのはラランの計らいによって街の外に出されていたルーシィとロロナ。そしてホム達だった。この帰還の速さはラランが想定していたものよりも速く、そして今のエルザとしては最悪のタイミングだった。
「待てお前たち! こっちに来るな!」
「え?」
「■■■――――!!!」
「えぇ!?」
「くっ……奴は今弱っている。いったん逃げるぞ!」
「う、うん。ってかあいつ何者!?」
「マスター……?」
一行は裏路地に逃げ込む。ホムちゃんが呟いたことをエルザは聞き逃さず、ルーシィとロロナに例の怪物の説明、そして今この街で何が起こっているのかの説明を始めた。
「奴の正体はラランだ。謎の石を砕いて現れた魔物と接収した」
「え!? あれがララン!? でも何でエルザと戦ってたの?」
「ラクサスとその親衛隊である雷神衆、そしてラランが蜂起を起こした。ギルド最強を決めるバトル・オブ・フェアリーテイルだのと言ってな。ラクサスの狙いはマスターの座だ。私たちも戦い、雷神衆は全て撃破した。残るはラランとラクサスのみだ。だがこちらの精鋭も私とナツ、ガジル、そしてミストガンのみだ」
「のみって人数的には倍もいるじゃない」
「ラクサスに勝てる者がいるかどうか。更にはラランもあの状態で私一人では厳しい。勝率は五分だ」
「わ、私も戦うよ! ララ君は多分本心でこんなことやらない。何かに悩んでこんなことをせざるを得ない状況になってるんだと思う」
「ロロナさん……うん! あたしも戦う! 三人でラランを止めよう!」
「よし! 奴は今も私たちを追っているはずだ。こちらから仕掛けるぞ!」
妖精の尻尾の強き女性三人は拳を合わせた。
「こっちだ!」
まず最初に戦っており最も印象に残っているであろうエルザが細い路地裏へと誘い出しラランの注意を引いた。猛獣と化し理性無きラランはそれが罠であるとも知らずエルザに向かって一直線に襲い掛かった。
「■■■―!」
「掛かったな! 換装! 天輪・繚乱の剣! 今だ。ルーシィ、ロロナ!」
大量の武具がラランに向かって降り注ぐ。咄嗟にガードの構えを取ったラランも直撃は免れずその場に足止めされた。そしてその背後から現れたルーシィ、ロロナが追撃を仕掛ける。
「開け! 人馬宮の扉・サジタリウス!」
「風操車!」
降り注ぐされる矢の雨と身体を切り裂く風の攻撃。三方向からの攻撃をラランは為す術もなく受け続けた。そして攻撃が終わり、立ち込める煙の中からラランの姿は何一つ変わることなく現れた。
「何!?」
「全然効いてないの!?」
「うぅ……」
「■■■―――!!!」
ラランの咆哮と共に煙は一瞬にして吹き飛ばされ、反撃の時間が訪れた。ロロナとルーシィの腰を掴み、エルザの方へ投げつける。急なことにエルザも二人と衝突し、隙が生まれる。その間にラランはエルザに繰り出した結晶柱からの光線攻撃の準備をしていた。すぐに察知したエルザだったが、上に二人が倒れている状態ではすぐには動けなかった。
「■■――!!!」
「「人工魔法・シールドスタイル」」
その窮地を助けたのはホム達だった。魔力で作り出した盾で光線を防ぐ。エルザがやっと一人で受けきった光線をホム達は二人で受け止め切った。しかしそれ相応の魔力は消耗したようで受けきった直後に盾は消えてしまった。
「助かったぞ」
ルーシィとロロナが立ちあがり、エルザも自由が利くようになった。いの一番に飛び出したエルザは再びラランに勝負を挑む。すぐさま天輪の鎧に換装し、両手に剣を握る。ラランは結晶柱を操りエルザと幾度も鍔迫り合いを繰り広げている。
「ルーシィちゃん! 一番強い星霊はアクエリアスって言ってたよね」
「え……そうだけど水が無いとアクエリアスは呼び出せなくて……」
「じゃあこれ使って。湧水の杯」
ロロナが取り出したのは透き通る水が並々と注がれた銀に輝く杯だった。この水ならばアクエリアスも不機嫌になることなく呼び出せるだろうと鍵を水面に差し込んだ。
「あっ綺麗な水。よーし。開け!宝瓶宮の扉・アクエリアス!」
鐘の音と共に星霊界の扉が開き、見目麗しき人魚アクエリアスが召喚される。しかしその表情は何故か怒りに満ちていた。
「てめぇまた金魚鉢から呼び出しやがったなぁ!?」
「ひ、ひぃ! ごめんなさいぃ!!」
「で、相手はあのバケモンか」
「そ、そうなの。実はあれ魔物と融合したラランなんだけど理性を失っちゃってて……思いっきりやって目を覚まさせてやって!」
ルーシィは拳を握ってアクエリアスにエールを送った。アクエリアスはそれを見ると、プイっとラランの方を向いて、ラランを睨みつける。一つ舌打ちをして水を放つ甕を脇に抱える。
「ふん、あたしの見込み違いだったか。小さい男だね。吹き飛びなぁ!!」
「■■―!? ■■■―――!!」
エルザとの競り合いを繰り広げていたラランの元へ水流が飛んでいく。エルザとの戦いに気を取られていたラランは水流に気づくことが出来ず、エルザが緊急回避をした直後に水流に飲まれた。
「■■■―――!」
「ちぃ! 本当にバケモンだね」
「不味いな。我々五人相手でもここまでやるとは。私も魔力があまり残っていない」
「あたしもあと一人星霊を召喚するのが限界かも」
「わ、私はそもそもあんまり戦えないし……アイテムもさっきまでの冒険でほとんど使っちゃったし……」
襲い掛かる結晶柱の破片の雨が五人を襲う。それを避けながら作戦会議をする。幸いにも単純な攻撃であり、ラランとも距離があったため近くの路地に身を隠した。
「奴の弱点は恐らく雷属性だ。偶然神鳴殿の雷を奴に当てることが出来た。その時奴の動きが一定時間止まった。それ以外の攻撃ですぐさま反撃をしかけてくる」
「雷って言っても……あたしの星霊には雷を出せる星霊なんていないよ」
「雷……あっ! みんなこれ使って!」
「これは石……?」
「これをね……武器に擦り付けて……ほら!」
ロロナが取り出したのはビリビリと静電気を発生させている平たい紫色の石だった。ロロナはエルザの剣を一つ借り、砥石の容量で研いだ。すると剣に雷が移った。
「これはね震える結晶って言って武器に雷属性を加える石なの」
「助かった。これであいつにダメージを与えられる」
「どうしよう。あたしは武器とか無いし」
「星霊でも出来るんじゃないかな」
「そういうことなら。愛の戦士参上!」
呼んでもいないのにどこからともなく現れたのはルーシィの持つ星霊の中でもトップクラスの戦闘力を誇るロキ。このピンチに勝手に門を開いてやってきた。
「だってラランは僕の命を救ってくれた恩人さ。僕も彼を救わなくちゃ」
「うん! 手出して」
ルーシィはロキの主武器である拳に震える結晶を使い、電気を帯びさせる。こうして全員が電気属性を付与しラランに立ち向かった。
「行くぞ!」
5対1での戦いは一方的なものになった。エルザを中心にロキとホム君が近接戦闘を繰り広げ、遠距離からはロロナとホムちゃんがアイテムで援護する。ラランも反撃を見せていたが、突っ込みすぎないヒット&アウェイ戦法に決定打を与えられないでいる。
「■■■――!?」
「動きが止まったぞ! 今だ!」
「あぁ!」
「かしこまりました」
度重なる弱点を突いた攻撃にラランの動きはついに止まった。そこへ一斉攻撃を仕掛けるべくエルザの掛け声でロキとホム君が動いた。
「天輪・循環の剣!」
「獅子王の輝き!」
「人工魔法・ソードスタイル」
エルザによる大量の剣の投擲攻撃。ロキの拳による獅子の如き聖属性攻撃。ホム君による換装された剣による斬撃。すべての攻撃がラランへ直撃した。そのすべての攻撃には弱点である雷属性が含まれており、その場にいる皆が勝負はあったと感じた。
「……」
立ち込める煙が晴れ、攻撃を受けきったラランの姿が現れる。片翼は折れ、四本の結晶柱はそのすべてが欠損し、背負う結晶輪も半壊している。しかし尚もテイクオーバーは解けない。
「……これは勝ちってことなのかい?」
「――危ない!!」
「■■■■■■!!!!」
エルザが声を上げた時にはラランは目の前から消えていた。欠けた結晶柱を両手に握り、エルザ、ロキ、ホム君の前衛を一瞬にして突破した。そして何も気づいていないルーシィ、ロロナの目の前に結晶柱を振りかぶって現れた。狂化されたラランのスピードは皆の知るラランのスピードを遥かに超えていた。回避のタイミングが遅れた二人をラランの握る結晶柱が貫こうとした。
「避けろ!」
「■■■■―――――!!」
エルザの声も届かず、結晶柱は二人に向かって振り下ろされた。その瞬間に避けることを諦めたルーシィ、ロロナは思わず目を閉じ、腕で頭を覆う。しかしそこから音が響くことは無かった。
「あれ?」
「止まった?」
ラランの攻撃が二人に痛みを与えることは無かった。結晶柱は二人の頭に当たる寸前で止まっている。その直後、手に握られた結晶柱、そして背の結晶輪が粉々に砕け散り、翼も消えた。徐々に体が元のラランに戻っていき、そのすべてが失われた時、ルーシィとロロナの目の前に卵の形をした黒い石がコロンと音を立てて落ちた。ラランは力が抜けたように前のめりに倒れた。
「これで本当に終わりみたいだね」
「あぁ。だがもう私たちの魔力も空だ……ラクサスを倒すのはナツ達に託すしかない」
「で、ラランはどうするの?」
エルザは少し考えた後、上空を見上げた。マグノリアに円状に広がる神鳴殿。首謀者の一人であるラランならば神鳴殿を止める方法を知っているかもしれない。そう考えたエルザは答えを出した。
「ギルドに連れていく。そこで神鳴殿を止める方法を吐かせる」
「わ、分かった」
「すまんな。主人を手荒に扱うことになる」
「ホム達は良きマスターの従者。現在のマスターは囚われております。解放されるならばホム達も本望でございます」
ホム達はラランを両側から持ち上げるとギルドへの歩みを始めた。こうしてビッグスロー、フリード、ラランのラクサス派が全滅。一方でエルザ、ルーシィも魔力切れによる実質的脱落となった。
神鳴殿発動まで残り15分。残る敵はラクサス只一人。
登場した錬金アイテム
湧水の杯
何度でも水を湧き出す杯。時を待つ必要こそあれど無限に水の素材を湧き出す便利アイテム。どこかでは湧水の杯から湧き出すアイテムを売り、お金を稼ぐ方法が流行しているらしい。
震える結晶
アイテムではなく素材の一つ。この石を素材に武器の元となる鋼鉄を錬金すると武器に電気属性を帯びさせることが出来る。今回は一時的なエンチャントとして直接使用した。
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