FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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終幕 バトル・オブ・フェアリーテイル

 酷い脱力感と倦怠感。今すぐにでも嘔吐しそうだ。意識ははっきりとしないもののぼんやりと戻った。誰に肩を支えられて運ばれていることだけは分かる。

 覚えているのは精霊石を解放をしてジュエル・エレメントとテイクオーバーしたところまでだ。恐らく失敗したのだろう。

 何せ付け焼刃の酷い完成度の魔法だ。ストラウス姉弟のような本職とは訳が違う。あの時は負けたくない気持ちだけで何でも出来そうな気がしていたが、やはり俺はこの程度。

 今では何故あんなに必死になっていたのか分からない。ギルドで平和に過ごしていればよかったものを。唆され誑かされ超えてはいけない線まで超えてしまった。もう俺には戻るギルドはないだろう。

 

「負けたよ。もう煮るなり焼くなり好きにしろ。俺はもう破門は決まってるようなもんだ」

 

「……起きたか。貴様の処分はマスターが下す。まずはギルドまで貴様を運ぶ。話はそこからだ」

 

 エルザの声だ。やはりテイクオーバーをしてもエルザには敵わなかったようだ。だがその声は前方から聞こえた。少なくとも俺を運んでいるのはエルザではない。じゃあこの二人は誰だ。

 

「ララン。あたし達を街の外に避難させてくれてたんだよね。女の子たちが人質に取られるって知ってたから」

 

「……そうか。帰って来てたのか。ファンタジア直前までは帰れないようにしてたんだけどな。俺がやったことに変わりはない。好きに解釈してくれ」

 

「ララ君が次元流の種を蒔いてたのは目的の場所に行ってすぐ気づいたよ。だって森から出れないんだもん。解除するのにちょっと時間かかっちゃったけどね。あはは」

 

「やるじゃん。ロロナ。まさかこんなに早く帰ってくるとは」

 

 ロロナとルーシィが帰ってきているということは、俺を運んでいるのはホム達だ。そう言っている内にギルドに着いた。エルザを先頭にギルドに入り、床に寝かされた。

 

「む、マスターはどうした」

 

「そ、それが実は……」

 

 ギルドに残っていたレヴィは歯切れが悪い。確かにギルドにはマスターの姿が見えない。さっきまではナツとマスターがここには残っていたはずだ。しかし今ここにはレヴィしかいない。エルザが気にしていない辺りナツは正攻法でここを出て行ったんだろう。

 

「マスターは持病が悪化して今は医務室で寝てるの。さっきポーリュシカさんが来て、ラクサスを呼んで来いって。もう長くはないって……」

 

「何!?」

 

「……俺に行かせてくれないか」

 

 自然と声が出た。一人で立つこともままならない状態だが、それだけは自分が行きたいと思えた。

 

「ラクサスがどこにいるのか知っているのか!?」

 

「ラクサスはカルディア大聖堂だ。今はミストガンと戦ってる」

 

 エルザは情報量の多さに優先度を考えていたが、まずはラクサスを呼び戻すことを最優先としてギルドを飛び出していった。普段は冷静なのにこういう時は周りが見えなくなるのは変わっていない

 

「ミストガンでもラクサスには勝てない。恐らくナツもラクサスの所へ行っただろうが二対一でも勝てるかどうか。それほどにラクサスは強い」

 

「そ、そんなに強いのあいつ……」

 

「マスターが危篤か……親に迷惑かけて、命の危機にまで晒して、俺のやったことは何と愚かなことだったんだろうな。後悔してもしきれない……」

 

「そ、そうだ! ララン! まだ貴方に出来ることがあるの! 外に浮いてる神鳴殿。あれどうにかして止められない!?」

 

 レヴィがそう言った。確かに神鳴殿を作ったのは俺だ。だがそのストッパーの全権はラクサスが握っている。俺が出来ることは限られている。だがこうなってしまったことも己が責任。その責任を果たす時なのかもしれない。

 

「あぁ止められる。発動まであと何分だ?」

 

「ほんと!? あと10分くらいしかないよ!」

 

 10分か。どうにかしてギルドの皆と連絡が取れれば早いのだが。

 

「ウォーレンはどこにいる。念話を使って街に散らばったメンバーと連絡を取りたい」

 

「さすがにどこにいるかは……」

 

「そうか。ルーシィ、外に出るぞ。まずはウォーレンを探す」

 

「うん!」

 

 重い足を引きずってギルドを駆けだした。メルクリウスの瞳を装着し、微小な魔力を嗅ぎ分けていく。ウォーレンは確か街の中で傷を癒した覚えがある。そこから動いていなければいいのだが。

 

「ここの路地を入ったところにいたはずだ」

 

「見てくる!」

 

 ルーシィが先行して探しに行く。すると道の先からウォーレンの声が聞こえた。良かった。まだ動いていなかった。俺が治した時はまだ気を失っていたから俺の顔を見たら驚くかもしれないな。

 

「うおっ!? ララン!? お前、俺はもう……!」

 

「違う。今は念話が必要だ。広げられる範囲でいい。ギルドのメンバーに繋いでくれ。」

 

「な、何がどうなってんだよ!」

 

「上を見ろ」

 

 神鳴殿のことを説明する。エバーグリーンが負けた後のこと。今の状況。そして俺にもう敵意がないこと。ウォーレンは全てを聞いて納得した上でこう言った。

 

「一発殴らせろ」

 

「……どうぞ」

 

「ふん!!」

 

 ウォーレンの魔力の籠っていないただの腕力に任せたパンチが俺の肩に炸裂した。純粋な痛みが肩に走る。顔じゃなくていいのかと聞いてはみたが、ウォーレンは何も答えず、にやっと笑ったあと人差し指を額に添えて念話を繋いだ。

 

「おい! 皆聞こえるか! 一大事だ。空を見ろ!」

 

 そこまで言うと、俺に変わった。神鳴殿の仕組みを説明してどうやって解除するかを話せばいいのだろう。

 

「空に浮かぶラクリマに魔法をぶつけて破壊しろ。あのラクリマには生体リンク魔法が仕込まれていて、破壊した人を雷が討つ仕様になっている。今から1分後、その生体リンクを切る。その瞬間にありったけの魔力をぶつけるんだ」

 

 そこまで説明すると念話を通じて話を聞いていたギルドのメンバー達が次々と反応を返してきた。大体が俺やラクサスへの怒りだったが、皆の協力してくれる意思は受け止めた。

 

「女性たちは既に解放されている。俺への怒りをぶつけるのは神鳴殿を破壊した後だ。全員相手に俺をタコ殴りにしやがれ! 皆は南方面のラクリマを破壊しろ。北の200個は俺がやる。魔法の準備はいいか!?」

 

 俺達も大きな路地に出て、ラクリマ破壊の準備をする。念話を通じて俺のカウントダウンが減っていき、0になった瞬間、街の各方向から魔法がラクリマに向けて飛んでいく。

 

「バルフラム!」

 

「サジタリウス!」

 

 ルーシィのサジタリウスによる弓矢、俺は風船上の爆弾を大量に解き放ち、円状に浮かぶ神鳴殿は300個のラクリマ全てが破壊された。

 

「やったね! ララン」

 

 俺の身体に電気が走った。最初は静電気のようなビリビリとした感覚だった。これが前兆なのだろう。そして一気に300個分のラクリマの雷が俺に降り注いだ。

 

「ずぁああああああああああ!!!!」

 

「嘘……ララン!?」

 

 ルーシィが駆け寄ってくる。最初から生体リンク魔法を切るなんて言うのは嘘。ただ破壊したラクリマの生体リンクをすべて俺に繋いだ。

 

「敵だった俺の言葉を信じて、よく破壊してくれた。ありがとう」

 

「敵なんかじゃない! ラランは敵じゃないよ!」

 

「ありがとうルーシィ。俺はカルディア大聖堂へ行く。バックから絨毯を出してくれ」

 

「え、でも今って……」

 

「あぁナツとガジルが戦っているはずだ。さっきミストガンの反応は消えた。何らかの理由で立ち去ったんだろう」

 

 ルーシィは黙って頷くと俺のバックから空飛ぶ絨毯を取り出した。俺は絨毯に這い上がり、カルディア大聖堂へ向かった。ほとんど魔力が残っていないからスピードが全く出ていないが、この状態でスピードが出ても振り落とされるだけだから丁度いいのだが。いやそれだと決着までに間に合わないかもしれないジレンマ。

 

「ん? この光は……」

 

 暖かい光。だが前に受けた光とは違う。この光は妖精の法律。使用者はまさかラクサスか。使用者が敵と判断した者すべてを対象とした圧倒的な制圧魔法。俺は目の前に見えたカルディア大聖堂に魔力を振り絞って急いだ。

 

「待てーー!!」

 

 カルディア大聖堂に入ると既に決着はついていた。それはラクサスの勝利。ナツもガジルも、そしてエルザも地に伏している。

 

「ラランか……不甲斐無い姿だ。こいつらと一緒でな。雷神衆もお前も使えねえ。危篤のジジイが死ねば俺の時代だ。俺が一から最強のギルドを作り上げてやる!」

 

 ラクサスが集中させた魔力を解放しようとする。地面が割れ、その魔力の強大さを印象付ける。こんな魔法が発動してしまえば、この街の誰も生き残れない。

 

「やめろーーー!!」

 

「ふはははは! 妖精の法則発動!」

 

 ラクサスが魔法発動の為に合掌の構えを取ると、集まった魔力が炸裂し街を光が包み込んだ。だが痛みは無かった。その瞬間に全てを悟った。俺達のやっていたことは結局意味のないことだったんだと。心の底ではこのギルドを愛していることを。

 

「馬鹿な!? 何故誰もやられてねえ!? 妖精の法則は完璧だった」

 

「それがお前の心だよ。ラクサス」

 

「ギルドのメンバーも街の人も無事だ」

 

 もう一つ、外から一人入ってきた。声の主はフリード。ミラジェーンに負けたことで傷を負い、服もボロボロだが、ここまで歩いてきたようだ。

 

「お前がマスターから受け継いでいるものは力や魔力だけじゃない。仲間を想う心。妖精の法律がそれを示した。魔法は嘘を憑けなかったんだ」

 

「俺達の負けは決まってたんだ。ラクサス。この戦いが始まった時から」

 

「違う! 俺の邪魔をする奴等は全員敵だ! ジジイが死んだってどうでもいいんだよ!」

 

 ラクサスは投げかけられる言葉を振り払うように叫んだ。

 

「違う……違う! 俺はラクサスだ! ジジィの孫じゃねえ! ラクサスだぁぁぁーーー!!!」

 

 怒りに火が付いたラクサスは更に魔力を爆発させる。圧倒的な魔力にその場の全員の動きが硬直する。しかしその中でただ一人立ち上がった者がいた。

 

「血の繋がりごときで吼えてんじゃねえ! ギルドこそが俺達の家族だろうが!!」

 

 立ち上がったナツの言葉はラクサスに向けられた言葉だったが、それは俺にも刺さる言葉だった。ナツの言う通り、俺達ギルドは仲間で家族だ。その家族を裏切り反逆を起こした。改めてこの反逆の意味を思い知らされる。

 

「分からねえことがあるから、知らねえからお互いに手を伸ばすんだろ! ラクサス!」

 

「黙れえぇぇぇぇ!! ナツウゥゥウ!!」

 

 炎の滅竜魔導士と雷の滅竜魔導士のぶつかり合いは凄まじかった。確かに力はラクサスの方が圧倒的に上だ。だがナツは何度倒されても吹き飛ばされても飛び上がり、ラクサスへ向かっていく。ラクサスにとってはナツは弱者であり手玉に取れる相手だ。そのラクサスが今はナツと本気で戦い、本気で倒し続けている。

 

「てめぇごときが俺に勝てる訳……」

 

「ギルドはお前のもんじゃねえ。よーく考えろラクサス」

 

 ナツは地に伏しながらラクサスへ抵抗する。その言葉に激昂したラクサスはナツの腹を蹴り飛ばす。ナツはそれでもなお立ちあがり続ける。当に魔力は空のはずだ。たった数分前にガジルと共闘してもラクサスには勝てなかった。だが今まさにその壁を越えようとしている。

 

「ガキが……跡形もなく消してやる!」

 

 ついにラクサスはナツを潰しにかかった。ラクサスは方天戟を雷で具現化する。ラクサスの持つ魔法の中でも最上位の魔法だ。あれをまともに食らえばナツとて無事ではいられない。

 

「待て! 今そんなをぶつけたら……!」

 

「雷竜方天戟!!」

 

 無慈悲にも魔法は放たれた。真っすぐに進む雷の方天戟は今まさにナツを捉えようとしていた。しかしその直前で何かに引き寄せられるように直角に曲がった。

 

「ガジル!」

 

 雷竜方天戟が曲がった理由はガジルが己の鉄に雷を引き寄せたことが原因だった。自らが避雷針となり雷竜方天戟を受けたガジルは吹き飛ばされ戦闘不能になったが、残るナツはその闘志を受け継いだ。

 

「おのれ……おのれぇぇぇぇ!!!」

 

 それがラクサスの最後の言葉だった。残る魔力を爆発させたナツによる滅竜魔法の連撃。滅竜魔法の言い伝えを思い出す。その魔法、竜の鱗を砕き、竜の肝を潰し、竜を魂を刈り取る。怒涛の攻撃は遂にラクサスを青天させた。こうしてラクサスが倒れるまで、心のどこかでラクサスの勝利と思っていたのは俺の悪い所だろう。

 

「負けたか……」

 

 ナツの雄叫びと共にバトル・オブ・フェアリーテイルは現ギルド側の勝利で幕を閉じた。俺とフリードはラクサスを支えて立たせる。向かうのはアトリエだ。そこで傷の治療を行う。今はどうにもギルドには顔を出しづらい。というか出して良い状況ではないだろう。治療はアトリエにある薬を用いて行う。ビッグスローやエバーグリーンも同様だ。フリードも普通に歩いているように見せているがすぐにでも治療しなければ。

 

「処分は治療を終わらせてから受ける。そうマスターに伝えておいてくれ」

 

 俺はそう言って、振り返らずにアトリエへ向かった。




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