FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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また会う日まで

 バトル・オブ・フェアリーテイル終幕の翌日。俺が目を覚ましたのは昼頃だった。既にラクサスの姿も雷神衆の姿もアトリエの中には無かった。しかし机の上には彼等からの置手紙が二通残されていた。一通目は朝早く書かれたラクサスからの手紙、二通目はさきほど書かれたフリードからの手紙。

 ラクサスからの手紙にはこれからギルドへマスターに会いに行くこと、そこでこの件の全ての処罰を被ることが記されていた。それと巻き込んで申し訳ないという謝罪の言葉と共に戦ってくれてありがとうという感謝の言葉が添えられていた。

 フリードからの手紙にはその後の顛末が記されていた。その後、マスターはポーリュシカさんの尽力もあって一命を取り留めた。そしてそのマスターからラクサスに下された処罰は破門。マスターも泣きながらその処罰を下したと言う。そして俺と雷神衆への処罰はマスターの強い意向もあって中止ではなく翌日夜に延期されたファンタジアへきちんと参加し、ギルドメンバーと絆を育むこと。たったそれだけだった。いつものフリードの字は綺麗だが、この手紙の字は震えた筆跡でところどころ水滴でインクが滲んでいる。この手紙を書いているフリードの表情が頭に浮かんでくる。

 

「俺もギルドに行くか……」

 

 ホム達に錬金の依頼をした後、いつもの恰好に着替え、いつもの杖を持って、いつもの道を通ってギルドへ向かった。全てがいつもと同じなのに何か違和感があった。街の人が俺を変な目で見ている訳ではない。俺の中の罪悪感がそう感じさせるのだ。苦しいながらも歩いているといつの間にかギルドに着いていた。

 

「……」

 

 ギルドに入ると全員が一階ロビーに集まっており、一斉に視線が集中した。

 

「……」

 

 言葉が出なかった。何と言えばいいのか分からなかった。こんにちは? ごめんなさい? どんな言葉も薄っぺらいようで黙ることしか出来なかった。それでも下を向くことはしなかった。横を向いたり、目が泳いだりはしていたが下は向けなかった。多くの罵詈雑言を覚悟していたが、皆からの反応は声一つ無かった。

 

「処遇は聞いた。ファンタジアの準備、やるよ」

 

「その前にマスターに会っておけ」

 

 メンバーの中心にいたエルザが前に出てきた。確かにマスターには会っておくべきだ。ラクサスも会うのには相当の勇気が要ったはずだ。今もその勇気が出ずにマスターのところへ歩くことが出来ていない。

 

「……そうだな。マスターはどこに?」

 

「奥の医務室だ。」

 

 黙って指さされた医務室へ入った。そこにはベッドに横たわったマスターがいた。服も病人の着る服だ。こうしてみればただの老人だ。聖十大魔導の一人だとは到底思えない。

 

「……お前は自分が何をしたか分かっているのか」

 

「俺は己の欲望に任せてギルドの皆を傷つけてしまいました。今は後悔しています……」

 

 つい横に目を逸らしてしまう。

 

「ワシの目を見ろ。本来はお主も破門にするつもりじゃった。じゃがラクサスはお主を必死に擁護していた。それにギルドの皆からラランが傷を治してくれたと多数の証言もあった。それにお主の事に関してはワシにも責任がある」

 

「いえ、そんな……すべて俺の責任です。皆の傷を癒していたのは罪悪感からの罪滅ぼしにもならない行為に過ぎません」

 

「ワシも錬金術についてはよく知らん。噂に聞いた程度じゃ。それももはや失われた技術だという噂じゃよ。それを使いこなす者が現れた時は腰を抜かしたわい。しかし魔法界には失われた魔法というものがある。あまりの強力さ、そしてその代償の大きさ故に太古に封じられ使う者がいなくなった魔法。ワシはその類だと最初は考え、皆に錬金術の習得はしないように言った。じゃがな、お主がギルドに馴染み、ワシも錬金術に触れる内にそうではないと気づいていった。じゃが、ワシはそれでもお主と錬金術を心の底から信じ切ることが出来なかった。すまん」

 

「マスターの地位を考えれば当然のことです。とはいえ俺は皆を裏切ってしまった。ラクサスは破門という形でこのギルドを出ることになってしまいましたが、俺もこのギルドを離れようかと思うのです」

 

「何、そんなことをラクサスが聞いたら悲しむじゃろう。お主はこのギルドで皆を助けてやればよい。まだまだ幼いナツやグレイ、エルフマン、カナ。そして皆を引っ張っていこうとしておるエルザとてまだ20にも満たない子どもじゃ。そこでお主の力が必ず必要になる。お主が次世代を引っ張り、見守ってくれ」

 

「……はい。力の限り」

 

「それとじゃ。ほれ」

 

 マスターから渡されたのは一通の手紙だった。汚れ一つない綺麗な封筒。差出人はなし。宛名はララバンティーノ・ランミュート・アーランド様とギルド名妖精の尻尾。確かに俺の名前だ。

 

「これは?」

 

「誰からかは知らん。ただアーランドの名を知っている者からの手紙じゃ。勝手に開けるのも悪いと思うてな」

 

「はぁ……」

 

 俺は封を切って中身を取り出す。中には手紙と写真が入っていた。重ねられた紙を分け、先に手紙に目を通す。まずは差出人を確認すべく一番下の行を見た。

 

「……エスティ・エアハルト!?」

 

「知っている者か」

 

「え、えぇ。俺の教育係を務めていた者です」

 

「そりゃまた……近い者じゃな」

 

「手紙を読んでみます」

 

 突然のお手紙失礼致します。覚えておいででしょうか王子の教育係を務めておりましたエスティ・エアハルトでございます。最後にお顔を拝見してから早十年経ちますね。

 この手紙のきっかけをくれたのは以前の週刊ソーサラー妖精の尻尾特集号を見たことです。大変成長されましたね。ロロナちゃんやホム君ホムちゃんも無事なようで安心しています。

 まさかこんな近くに王子がご存命だとは知りもせず馳せ参じることが出来ず申し訳ございません。現在でもアーランド王国の生き残りの情報は少なく、見つかっていない者が殆どです。王子の御無事を確認できた時はこの十年で最も嬉しかったです。

 私は現在フィオーレ王国の首都クロッカスの宮殿に勤務しています。もう8年ほどになりますので勿論馴染んでいますが、その以前も何度も訪れたことのある場所ですから楽しく毎日を過ごしています。

 そうそう今も私は教育係なんですよ。王子の時の失敗を元に奮闘しています。なんたって王子の許嫁ですからね。大切に育てないと。今はもう17歳になったんですよ。とっても美人で私も誇らしいです。いつかお二人が再会できるのを祈っています。

 

 なるほど確かに前半は取り繕った文章で小綺麗に纏めているが、後半になってくると自分の文章が出てきて

 

 P.S ステルクくんもフィオーレ王国騎士団で頑張ってます。

 

「こ、これは……!」

 

 俺より先に写真を見ていたマスターが驚きのあまりベッドの上で立ち上がった。そしてこれを見ろと俺の目の前に写真を押し付けた。近すぎてピントが合わない。

 

「ちょ、ちょっとマスター。見ますから……」

 

 写真に映っていたのは恥ずかしそうにはにかむお姫様とその肩を抱き寄せピースサインを決めたエスティの姿だった。

 

「ヒスイ姫。久しぶりに見ましたね。二、三度会ったことはありますがもう十年以上前の話ですから」

 

「お前、姫とお会いしたことがあるのか!?」

 

「えぇ。お恥ずかしい話ですがアーランド王国が健在の時は俺とヒスイ姫は結婚を約束された仲でした。許嫁というものですね」

 

「なっ……!? そうじゃったな。お主は一国の王子じゃった。ここでの暮らしが長くて忘れとったわい」

 

「もう昔の話ですよ」

 

「で、その隣にいるのが……」

 

「エスティ・エアハルト。俺の教育係を経て今はヒスイ姫の教育係だそうです」

 

「なんと、世間は狭いものじゃな」

 

 俺は無言で頷くと、手紙と写真を封筒に仕舞った。速く知らせたい人がいる。そして速く会いたい人がいる。ファンタジアが終わってすぐににでもクロッカスに向かう準備をしよう。

 

「何はともあれ、話は以上じゃ」

 

 俺はマスターのいる医務室を出て、ファンタジアの準備を始めた。そしてついにファンタジアは本番を迎えた。俺達の行った反逆によって怪我人といえども出られる人間は全員出場。マスターも病を押して出場することになった。主な不出場はガジルとナツ。とはいえナツは出ると言い張っている。

 

 ファンタジアは俺が作成した山車にメンバーたちが乗り込み、それぞれの魔法を駆使したパフォーマンスをするのが恒例だ。今年はルーシィをセンターにレヴィ、ビスカとの三人で織りなすマーチングを先頭にファンタジアは始まった。続いてビーストソウルを纏ったエルフマンの迫力のあるショー、そして姉ミラジェーンが巨大な蛇に変化し観衆を驚かせた。続いて一番作るのが大変だった氷のお城に乗り込むのはグレイとジュビア。水を巻き上げるジュビアとそれを凍らせるグレイのコンビネーションにより綺麗な結晶が降り注ぐ。そしてどこかジュビアは嬉しそうだ。続いてエルザによる剣の舞。いつもの鎧ではなく舞踏を主とした衣を纏い、優雅に舞い踊る姿は正しく妖精女王の名に相応しい美しさだ。炎のパフォーマンスをする予定だったナツは強行出場はしたものの怪我の影響もあって本来の力は出せず、観衆から笑いが起こる。そして病を押して出場したマスターは病のことなど感じさせぬほど元気に振舞っていた。俺は毎年こうした山車作りや打ち上げ花火担当の裏方なのだが今回は出ろと言われたので山車に乗ってロロナ、ホム達と共に錬金術を用いたパフォーマンスを行った。

 

「そろそろだな」

 

「えっと、どうだったっけ……」

 

「右手をグーにして、そこから人差し指と親指を立てる。後は手の甲を外側にして突き上げるだけだ」

 

「うん。ラクサスさんも見てるといいね」

 

「見てるさ。あいつはまた戻ってくる。誰よりも妖精の尻尾が好きなんだから」

 

 俺達は手を突き上げる。このポーズはラクサスが考えたポーズだ。マスターがファンタジアに参加しなかった年にラクサスがマスターを見つけられずとも、その想いが伝わるようにとマスターの為に考えられたポーズ。マスタからの発案で今年このポーズを挟むと決めた。それはここを去るラクサスへのメッセージ。姿が見えずとも、遠く離れようとも、いつでも見守っているというメッセージだ。

 

「悪いロロナ。後は任せた。俺は行くとこがある」

 

「えっちょっと! ララ君! もーー!」

 

 俺は山車を飛び降りて、住宅街の屋根を伝って人が混み合っていない所で降りて、とある公園に向かった。そこには丁度街を離れようとするラクサスの姿があった。

 

「やっぱここにいた」

 

「ララン……」

 

「なんだ、泣いてるのか」

 

「なっ……うるせえ! 俺はもう行く」

 

 目から出た液体を拭き取ってラクサスはこちらを振り返った。少し目が赤い。察するところはあるが、俺もラクサスに救われた身、とやかく言うべきではない。

 

「また会えるよな」

 

「……」

 

 ラクサスは下を向いて、拳を突き出した。俺はその拳に拳を合わせる。

 

 彼は歩き出した。妖精の尻尾ではない方向へ。これが今生の別れではない。生きてさえいればまた会える。そう信じている。




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