FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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お久しぶりの王子様

「うーん……」

 

「ララン、なに悩んでるの」

 

「仕事だよ」

 

 ファンタジアから一週間。お祭りムードも静まり、段々といつもの毎日に戻りつつあった。

 

そんな今気になるのはエスティからの手紙。これはほぼ本物と見て間違いない。

 

字の特徴が昔見た通りだったという点が1つと同封された写真には彼女の姿とフィオーレ王国の姫の姿が映っていたことが大きい。

 とにかく彼女に会いに行くため、いい依頼が無いか俺はギルドのクエストボードの前で頭を悩ませていた。あまりに長く悩んでいる物だから心配したルーシィが後ろから声をかけてくる。仕事とは言っても何でもいい訳では無い。場所はクロッカスに限定して探している。

 

「何よ。あたしに黙って次の仕事決めるの?」

 

「次の仕事はロロナと行く」

 

「え……二人っきり……だ、だめ!」

 

「は? 何でだよ」

 

「な、何ででも! あたしも行く! どこ行くの?」

 

「クロッカスだ」

 

「じゃあこれね!」

 

 ルーシィは場所だけ聞くと碌に依頼文も見ずに依頼書を剥ぎ取りさっそくミラの元へ受注しに行っていた。なんというか焦ってるようにも見える。戻ってきたルーシィは依頼書を俺の胸に押し当てた

 

「さっそく行くわよ!」

 

「で、それ何の依頼?」

 

「えーっとね。クロッカスの騎士団からね。内容は……」

 

 依頼書を読み上げるルーシィの顔がどんどん青くなる。やはり内容を確認もせずに受注したのだろう。小さな声で読み上げるルーシィはがっくりと肩を落とした。

 

「……騎士の訓練相手」

 

「どうすんだよ。こういうのはエルザとかの仕事だろ」

 

 とは言ってもなかなかご都合の良い依頼だな。

 

「う、受けちゃった以上はあたし達で何とかするしかない!」

 

「……ロロナとホム達を呼んでとりあえずクロッカスまで行くぞ」

 

 一抹の不安、否、不安しかない心持ちで俺達はマグノリアを出発した。クロッカスの騎士団の訓練相手ねぇ……あの手紙によればアイツが所属してるらしいけど。行ってみてのお楽しみか。

 

「ララ君。私クロッカスって初めてなんだけどどういうところなの? アーランドより都会?」

 

 ロロナにはエスティからの手紙のことは話していない。サプライズ的な意味が100%だ。ロロナの驚く顔と声が目に浮かぶ。あの手紙には今度会いに行くとだけ返信を送った。それからの返信は無いが特に必要もない。直接会って話した方が絶対に良い。

 

「一緒くらいだろ。王宮はクロッカスの方がでかいけど」

 

「え!? 王宮より大きい王宮!?」

 

 ロロナは目を輝かせている。対してルーシィは話題に入り辛いのか、お腹が痛いのか知らないがずっと下を向いている。俺が列車の席に座るなり俺の隣に勢いよく座ったあの元気は何だったんだ。

 

「そろそろ着くな。あー身体が伸ばせないから列車はしんどい」

 

 列車を降りて、依頼書に書かれた待ち合わせ場所を確認する。

 

 街中央の鍛錬場か。近くに行けばシンボルのようなものがあるだろう。とりあえず駅を出て街の中を歩こう。

 

 そう思って駅の改札を出て視線を前に向けると目の前によく知る人物が立っていた。

 

「お久しぶりでございます。王子」

 

 そう言って頭を下げたのは手紙の送り主であるエスティ・エアハルト。

 

 事情を知らないルーシィは俺とエスティの顔を交互に見て、誰、誰と困惑している。そして何も聞かされていなかったロロナはその場に茫然と立ち尽くしている。

 

「あらロロナちゃんも久しぶりね。大人っぽくなったわね」

 

「え……え゛……え゛すて゛ぃざーーーん!!」

 

 ロロナは溢れる涙をエスティにぶつけた。エスティは少し驚きながらも微笑みロロナを抱き寄せ、頭を撫でる。

 

「もう……さては何も言ってませんでしたね?」

 

「びっくりさせたかったんだよ」

 

「あ、あの……」

 

 泣きじゃくるロロナはエスティにべったりくっついて離れようとしない。一方で置いてけぼりを喰らっていたルーシィがおずおずと手を挙げた。

 

「ラランとはどういうお関係ですか?」

 

「あら、私たちの王子を呼び捨てだなんて随分な無礼ね」

 

 エスティは鋭い視線でルーシィを睨みつける。

 

「ひ、ひぃ!」

 

「あははっごめんなさい。私は王子の教育係だったエスティ・エアハルトよ。よろしくねルーシィさん」

 

「あ、私の名前……」

 

「だって週ソラに書いてあったもの。覚えてるわよ」

 

 相変わらず物覚えの良いことだ。だから忙しい王宮の受付を一人で回せていたのだろうが。あの時よりも少し老けたな。十年も経てばそりゃそうか。こんなことを口に出したら殺されるな。

 

「王子たちがここに来るのは分かっていました。鍛錬場に行きましょうか。彼もいますよ」

 

「相変わらず察しのいいこと」

 

「え゛すて゛ぃさん……」

 

 俺達はエスティに追従して鍛錬場へ向かった。初めて見る街だが、アーランドより栄えてるな。流石広大な領土を持つ大国。

 

「ねぇララン。エスティさんっていい人だね」

 

「素面の時はな」

 

「え?」

 

「いずれ分かる。でも育ててもらった人だから感謝してるよ」

 

「ほら着きましたよ。ロロナちゃんいい加減離れてくれないかしら」

 

「え゛すて゛ぃさん……」

 

「ホム、ロロナを剥がせ」

 

「かしこまりました」

 

 巨大な円状の闘技場を備え付けた鍛錬場。ここで兵士が日々鍛錬を積んでいるのか。中に入ると二人の兵士が実戦形式の試合を行っていた。一人は槍と盾を構え、もう一人は大剣を構えている。試合は一方的な者で大剣を構えた兵士が盾を弾き飛ばし、力でねじ伏せた。この国でも流石の強さだ。

 

「ステルクくん。連れてきたわよ。例の依頼を受けてくれた人達」

 

「む、あぁ君が迎えに行くのは珍しいな。で、どちらに?」

 

「はい、こちら」

 

 子供が泣いて走り去る怖い顔に黒いアーランド騎士の正装。全く変わっていない。変わったのは剣の腕が上がったことか。しかし何よりこの再会が嬉しかった。

 

「よろしく……!?」

 

「久しぶりだな。ステルク」

 

「……お、王子……なのですか?」

 

「あぁ。ララバンティーノ・ランミュート・アーランド。アーランド王国元王子だ」

 

「……王子!」

 

 ステルクは涙を流して両ひざをついた。もしかしてエスティのやつ、ステルクに何も言ってなかったな。考えてること俺と一緒じゃないか。

 

「おいおい。顔を上げろ。そして立て」

 

「し、しかし、私は王子の危機に馳せ参じることが出来ず……」

 

「いいんだ。こうして会えたんだから」

 

「今度こそ王子を全ての害悪からお守りして見せます!」

 

「わ、私もいますよ~」

 

「き、君もいたのか!? あまり変わっていないようだな」

 

「ひどい!」

 

 そして依頼の内容を聞いたが、急遽その依頼に変貌があったようで。

 

「近くのアカリファという街で闇ギルドの目撃情報がありまして、王子達にそちらの鎮圧に協力していただきたく存じます。私も普段は王宮警備なのですが、近頃闇ギルドに動きがあるようでして。同行いたします」

 

「アカリファ……!?」

 

「アカリファがどうかしたのかルーシィ」

 

 ルーシィは街の名前を聞くと青ざめた顔をしていた。特に行ったことがある街でもないはずだが、何かあったのだろうか。

 

「うん、実は……」

 

 ルーシィはつい最近の事と言って話し始めた。俺達の反乱の終息後、謎の視線に悩まされていたと言う。しかし犯人を突き止めることが出来ずに悶々としていた。そしてつい先日のこと、例の視線の送り主と対面した。ボロボロのフードを被り、みすぼらしい装いの男性の正体はルーシィの父ジュードだった。ハートフィリア鉄道は買収され、家や財産の全てを失ったらしい。ジュードはルーシィに会いに来たと言い、感動の再会かと思われたが、ジュードの狙いは己の地位を再び確立するための初期費用10万ジュエルをルーシィからせしめることだった。私の娘ならその程度の金はすぐに用意できるだろうと激昂するジュードにルーシィは平手打ちを浴びせ、父への期待は再び地の底に落ちた。

 

「それでね、パパが行くって言ってた場所がアカリファなの」

 

「王子のお連れ様の父上が危険に晒されては騎士の名折れ。迅速にアカリファへ参りましょう。既に駐屯軍がアカリファの商業ギルドを封鎖してはいますが魔導士に勝てる戦力はありません」

 

「よし。お父さん救ってやろうぜ!」

 

「う、うん」

 

 俺達はステルクを連れてアカリファの街へ急行した。既にアカリファは騒然としており、特に商業ギルドの前には息子や娘を人質に取られた親ややじ馬が軍兵士に詰め寄っていた。そこをステルクが権力を行使して道を開け、ギルドの門を堂々と開けた。

 

「そこまでだ! このステルケンブルクが悪は成敗する!」

 

「クソ! このガキがどうなってもいいのか!」

 

「ステルク。人質は俺が解放する。お前は気にせずにあいつらぶっ飛ばせ!」

 

「御意!」

 

 ステルクは人質の子どもに銃口を突き付ける魔導士に迷わず突撃した。怯えた魔導士は慌てて銃の引き金を引こうとするがその指は動くことは無く、ステルクに一刀両断された。

 

「指に糸が付いてることくらい気づいとくんだったな」

 

 ステルクはその後も目にも止まらぬ動きで大剣を振り回し、魔導士たちを一蹴していった。その間に俺達は縛られた人質を解放し、外へ逃がしていった。そして遂に闇ギルドの首領と見られる魔導士をステルクが追い詰め、切っ先を突き立てる。

 

「近頃このような闇ギルドによる金銭強盗が相次いでいる。貴様らの目的は何だ」

 

「ふん……軍隊に言う義理はねえよ」

 

「そうか。ならば消えてもらおう」

 

 ステルクはそう言うと大剣を魔導士の首元に当て、水平に振りぬいた。がくがくと震えが止まらない魔導士の顔は汗塗れになる。しかしその首は落ちることは無い。その代わりに後ろの柱が真っ二つに切り裂かれた。

 

「さぁ言え」

 

「お、六魔将軍(オラシオン・セイス)だ! 六魔将軍への上納金が最近一気に増えやがったんだよ! それでどこの闇ギルドも手を焼いてる!」

 

「六魔将軍、三大闇ギルドバラム同盟の一つか。もう貴様に用はない。駐屯兵! 後始末を頼む」

 

 ステルクはほぼ一人でこの騒動を鎮圧してしまった。魔導士にも剣一つで立ち向かい全く遅れを取っていない。優れた騎士だ。

 

「外は大盛り上がりだな」

 

 人質の解放と暴動の鎮圧により俺達は大きな歓声と共に迎えられた。しかし目的の一つであったルーシィの父ジュードの姿が見えない。

 

「親父さんいないのか?」

 

「う、うん……」

 

「ルーシィ?」

 

 ちょうど後ろからやってきたのは話に聞いた特徴と合致する男性だった。俺の予想よりも更にみすぼらしい姿になってはいたが、確かにその人のようだ。しかし必死の思いで助けに来たのにその場にいなかったとは。

 

「もしかして今着いたの?」

 

「金が無くてな。歩いてここまで来たもんだから」

 

「移動費に10万ジュエルか。金銭感覚麻痺ってるな」

 

「でも何でルーシィがここに……?」

 

 ルーシィは事情を説明した。もしかして父を心配して助けてくれたのかと核心を突いたジュードだったが、ルーシィは照れ隠しなのか知らないと言ってそっぽを向いて歩き出した。そして父の顔を見ないままルーシィは父を許してはいないと言う。そしてまたジュードもそれを当然だと受け止めた。これから変わる。その決意をルーシィの背中に訴えた。

 

「このギルドはね、パパとママが出会った場所なんだ」

 

 ジュードが言うとルーシィの足が止まった。ジュードが独立を考えていた時、母の腹には既にルーシィがおり、この商業ギルドを去った。その時ちょうどギルドの名前LOVE&LUCKYの看板が壊れており、LUCKYがLUCYになっていたという。そこからルーシィの名前は付いた。その思い出話が面白かったのかルーシィはジュードの方を振り返った。

 

「なにそれ。ノリで人の名前決めないでよ」

 

「そうだな……本当にすまない」

 

 最後は二人とも少しの笑顔が見れた気がする。

 

「元気でね、お父さん」

 

「いいのかルーシィ」

 

「うん。行こ」

 

「さてクロッカスに戻って金貰って帰るか」

 

「王子! ギルドまでは私が護衛いたします!」

 

「だからそこまでしなくていいって!」

 

 俺もルーシィも大切な人との再会があった。ルーシィも壊れた父との関係が少しだけ復元された気がする。そして俺は強力な騎士とお節介な教育係。目指していたものが少しずつ見えてきた。

 




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