FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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VSエンジェル

「許せない。あんた自分の星霊まで……星霊だって生きてるのよ!?」

 

「別にいいじゃない?どうせ星霊なんて死なないんだし」

 

「でも痛みだって、感情だってある。あんた、それでも星霊魔導士なの!? 開け! 金牛宮の扉 タウロス!」

 

 怒るルーシィはタウロスを召喚するが、エンジェルの召喚したジェミニのお色気戦術により骨抜きにされ、カエルムを刀剣状態の武器として使った攻撃によって弾き飛ばさてしまった。

 

 そう。ルーシィが言ったように星霊には感情がある。だから今のようにでかい乳に弱いタウロスは見事なまでにジェミニの偽物ルーシィのお色気にも騙されて弱点を突かれた。

 

 仮に星霊に感情が無ければ、ルーシィの人生もまた違うものになっていたであろうし、それが一概に良い悪いとは言い切れないし、個人的にも星霊たちへのリスペクトは大切だと思う。ただこの状況においてはそれがマイナスに働いてしまっている。

 

 ルーシィは星霊一人ひとりに敬意を払い、その感情や個性を大事にする。そして星霊とのコミュニケーションも密に行うし、外部から見ていても星霊との仲は良好であるように見える。

 

 一方のエンジェルは星霊の感情は一切無視だ。エンジェル自身の言動の通り、彼女にとって星霊は自分が戦う為の道具でしかない。俺が使うアイテムのように、無機物のように扱っている。

 

 そしてタウロスを召喚したルーシィに異変が起きた。がくっと膝から力が抜けたように崩れ落ちた。魔力切れだ。アクエリアス、ロキ、タウロスと立て続けに3人の星霊召喚をこなしている。それも強い魔力のかかる黄道十二門を3人、黄道十二門でも戦闘型は更に魔力がかかる。つまり星霊の中でも最大に魔力のかかる星霊を3人召喚しているのだ。

 

「ルーシィ!」

 

「あれ……?」

 

 動けなくなったルーシィにルーシィの姿をしたジェミニが襲い掛かる。刀と化したカエルムを握りしめたジェミニが容赦なくルーシィを切り刻む。

 

 俺は這いつくばりながらルーシィの元に動くが、近づく度に背中がズキズキと痛む。刺さった矢が動くと小さな痛みが襲い掛かり、動きを鈍らせる。

 

 惨たらしい程にまで痛めつけられたルーシィはそれでも尚立ち上がった。その目には強い決意が滾り、それはエンジェルの琴線に触れる。

 

「アリエスを解放して。あの子は前の所有者にいじめられて……」

 

「は?」

 

 ジェミニの振るったカエルムがルーシィの肩口を深く切り裂く。これまでにない程の大きな悲鳴が轟いた。そこまでしてもエンジェルは高圧的に弁を垂れる。

 

「人にものを頼むときは何て言うのかな?」

 

「お……願い……します……」

 

「もういい! ルーシィ!」

 

 彼女の痛みに比べれば、俺の痛みなぞは大したことはない。背中の矢を無理矢理に抜いて、血に染まり、俺から流れ出た命の分だけ重くなったローブを脱ぎ捨て立ち上がる。

 

「エンジェル本体は強くない。俺がそいつを倒してアリエスを解放する!」

 

「ラランやめて!」

 

 ルーシィは血の吹き出す肩を抑えながら言った。何故だ、どうして拒否する。これが星霊魔導士同士の戦いだからか。どうして敵であるアリエスの為にそこまで出来る。命を賭けることが出来る。

 

 俺は自分の精霊が、ジュエル・エレメントが危機に晒された時、命を賭けられるか。答えは否だ。碌に言うことも聞かない奴に命なんて賭けられない。俺の思考はエンジェルと同じなのかもしれない。ルーシィは敵であるアリエスすら救おうとしている。そう考えるとここで手を出すのは何か矛盾があるのではないか。そう思えてくる。

 

「アリエスをロキと一緒にいさせてあげたいの……それが出来るのはあたしたち星霊魔導士だけなんだ……」

 

「ただで?」

 

 エンジェルはひたすらに冷酷だ。

 

「何でもあげる。鍵以外ならあたしの何でもあげる!」

 

「じゃあ命ね。ジェミニやりなさい」

 

「ルーシィ!」

 

 俺は急いでルーシィとジェミニの前に割り込む。咄嗟の事にガードする盾や剣を取り出すことも出来ず、腕でガードの態勢を取る。両腕が切断されてもいい。ただ今この瞬間未来ある少女を救うことが出来るのならという思いだった。

 

 しかしいつまで経ってもジェミニの攻撃が降りかかることはなかった。強く瞑った目をゆっくりと開けると、ジェミニがカエルムを振りかぶったまま、腕を震えさせていた。

 

「綺麗な声が聞こえてくるんだ。頭の中にずっと響いてるんだ」

 

 ルーシィの一片の濁りもない純粋な星霊への真心がジェミニのコピー能力を通じて伝わったのだ。それは正しく愛というべき感情であり、ルーシィが星霊との間に育んできた絆だ。星霊を愛し、星霊から愛されるルーシィをジェミニは斬ることが出来なかった。

 

「出来ないよ。ルーシィは心から愛しているんだ。僕たちを」

 

「くっ……消えろォ! この役立たずが!」

 

 形成弱点だ。後はエンジェルとの直接対決を制するだけ、と息巻いていると後ろから水を掻き分ける音が聞こえる。不気味な雰囲気を感じ、急いで振り返るとそこにはルーシィの首を両手で掴むヒビキの姿が目に映った。

 

「ヒビキ!」

 

「まさか……闇に落ちたのかこの男! あは……あはははは!!」

 

「じっとして……古文書が君に一度だけの超魔法の知識を与える」

 

 ヒビキがそう言うとルーシィを中心に複雑極まりない魔法陣が形成されていく。ヒビキは闇に落ちたのではない。勝利に繋がる鍵をルーシィに託したのだ。

 

「おのれぇえええ! カエルム! やるよおおおおお!!」

 

「ラランくん、この魔法には時間がかかる! 時間稼ぎを!」

 

「分かった!」

 

 エンジェルは自らの手でカエルムを握り、手当たり次第に振り回す。後ろからルーシィの魔法の詠唱のようなものが聞こえる。これが終わるまで時間を稼げばいいという訳か。

 

「おらあああああああ!!」

 

「戦う魔剣!」

 

 魔剣でカエルムの一撃を受け止める。星霊で構成された武器だけあってとんでもなく一撃が重たい。およそ一人の女性の力で操っているとは思えない。

 

 しかしここでタイムリミットが訪れた。辺りを光の球体が浮遊しエンジェルを取り囲む。これがヒビキの言う超魔法か。

 

「全天88星」

 

「な、何よ……これぇ!?」

 

「光る ウラノ・メトリア!!」

 

「きゃああああ!!!」

 

 星々の大爆発がエンジェルを襲った。それは超魔法という名前に違わず、六魔将軍と言えども一撃で葬り去るにあまりある威力を見せつけた。

 

「やったぞルーシィ!」

 

「あれ……? あたし、何が起こったの?」

 

「エンジェルを倒したんだ。とにかく傷の手当てを……」

 

 ルーシィの方を振り返り、水流を掻き分けて彼女の元へ向かった。しかしその途中、後方からザパっと水から飛び出るような音が聞こえた。そこは確かエンジェルが沈んでいった方向だ。

 

「ま、負けない……ゾ。六魔将軍は……負けない。一人一殺。朽ち果てろォ!」

 

 カエルムのレーザービームがルーシィを狙った。ルーシィは魔力切れの上、ウラノ・メトリアまで放ち、魔力は既に限界を超えている。身体すら動かないはずだ。

 

 それ以上は考える時間が無かった。考える前に身体が動いた。ここで守らずしていつ守ると言うのか。あの日、守られた命、誰かを守る為に散るならば、それもまた良いだろう。

 

 ルーシィの前で両手を広げて立ち塞いだ。カエルムのレーザーは腹部を直撃し、それを最後にエンジェルは全てを使い果たしたのか。カエルムが魔力切れによる強制閉門で消え去り、エンジェルも水に沈んだ。

 

「……がはっ!」

 

「ララン! ララン! 起きて! ねえ!」

 

 そこで意識は無くなった。深い海に落ちたように真っ暗になった。ここで死ぬのかとか、まだやり残したことがたくさんあるのにとか、色々な感情が一瞬の内に脳内を駆け巡った。これが走馬灯というものなのだろうか。

 

 これが人生の終幕だとしても死に際だけは一丁前だったように思う。誰かを守って散るというのは子供の頃によくエスティに読み聞かせてもらった英雄伝でお決まりのパターンだった。幼いながらに英雄には憧れたものだ。まさか死に様まで同じになるとは思っていなかったが。

 

 それでも振り返れば後悔がたくさんある。アーランドを復興させたかったとか、父上やアストリッドにもう一度会いたかったとか。そして認めてほしかったとか。

 

 まだ死にたくない。それは我儘なのだろうか。

 

「……きて! 起きて! ララン!」

 

「!?」

 

 目が覚めた。上半身を勢いよく起こしたせいで背中に痛みが走った。この痛みはサジタリウスにやられた傷か。周りの風景は見渡す限りの木、樹海だ。

 

「生きてる……?」

 

「うわーん! よかったー!」

 

 まだよく分かっていないが抱き着いて泣くルーシィの温もりは感じた。それだけで理解できた気がする。人の温もりを感じることが出来るのは生者のみ。この温もりこそ生の証だ。

 

「何で傷が消えてるんだ。若干痛いけど」

 

「バルゴが星霊界で治療してくれたんだ。あの後あたしも気を失ってて気づいたらここにいたんだけど。ラランはあたしが起きてからもしばらく起きなくて」

 

「そうだったのか。で、この服は何だ」

 

「星霊界のお召し物でございます」

 

「あたしとお揃いだよ」

 

「何でだよ……まぁいい。ヒビキとナツは?」

 

「一緒にいると思う。ヒビキの古文書がさっき送られてきてナツとあの光に向かうって」

 

 ヒビキも怪我をしていたから、俺達は助けられず流されたようだ。いかだに乗っていたナツと地面に氷漬けで放置されたハッピーは助け出せたようだが。

 

「俺達も光に向かおう。ってか色変わってないか?」

 

「お二人が気絶している間に黒から白へと変化したようです」

 

 ニルヴァーナの完全復活が近づいているということなのだろうか。これ以上の進行は俺達への影響も及ぼしかねない。迅速に行動しなければならない。とにかくステルクとエスティと合流したいところだ。

 

「……ありがとな。ルーシィ、助かった」

 

「私の方こそ守ってくれてありがとう」

 

 光へ向かおうとする直前、俺達が流れてきたであろう川からまた一人が流れ着いた。先ほど倒したエンジェルだった。確かに記憶の限りでは最後は水の中に倒れている。

 

「このままじゃ水死するよな。陸に上げといてやるか」

 

「命までは取れないわよね」

 

「ん?」

 

 俺達とは別に足音がする。敵かと二人で身構えたが、木の間からがさがさと音を立てて現れたのは幸運にもエスティだった。まさかこんなにすぐ再会できるとは思っていなかった。

 

 しかしエスティの足取りは重く、全身にかなりの傷を受けている。恐らく六魔将軍との対決があったのだろう。さらに一緒にいたはずのステルクの姿がどこにも見えない。少し妙だ。

 

「エスティ! 大丈夫か!?」

 

「見つけた……六魔将軍……」

 

 エスティは何を狂ったのか倒れたエンジェルの首を絞めた。本能的にこれは本来のエスティではないと判断し、エンジェルからエスティを引き剥がした。

 

「離してください! こいつらはステルク君の仇! 殺さなきゃいけないんです!」

 

「ステルクの仇!? じゃあステルクは……」

 

 いやまさか、そんなはずはない。あのステルクが負けたと言うのか、そして死んだ。エスティは恐らく闇に落ちたという状態だ。ステルクの死を間近で体験し、そのショックから闇に落ちたのか。

 

「ステルクが……?」

 

 そう考えれば考えるほど、ニルヴァーナの思う壺だということは重々分かっている。だがステルクが死んだと聞くだけで彼の顔と思い出が脳内に浮かび上がって、こびりつくのだ。

 

 じたばたと暴れるエスティを上から必死に抑えつける。俺まで闇に落ちてしまう前にステルクの安否を確認しなければいけない。エスティが見たというステルクの死は確定的なものなのかそれとも可能性というだけなのか。そこを判断しなければ信じるわけにはいかない。

 

「王子! 何をされているのですか!?」

 

「す、ステルク!? 無事だったのか!」

 

「無事という訳ではありません。それよりも先輩を抑えつけて何をしているんです!」

 

「こいつが倒れた六魔将軍の一人を見つけた途端に首を絞めて殺そうとしたんだ!」

 

「何ですって!?」

 

「エスティ! 見ろ! ステルクは生きてる! 死んでなんかいない!」

 

「……あ、ステルク君……よかった……」

 

 エスティは涙を流しながら気を失った。その身体からは白い光が飛び出し、ニルヴァーナの光の元へと帰っていった。恐らくエスティはニルヴァーナに取り憑かれていたのだろう。危うく俺もそうなる所だった。いいタイミングでステルクが俺達を見つけてくれたことが幸いだった。

 

 その後、ステルクから事情を聞いた。六魔将軍のレーサーとの戦いに勝ったこと。しかしレーサーの自爆攻撃によって崖下に突き落とされ、爆破されたこと。確かにその様子だけを見ればエスティがステルクは死んだと勘違いしてもおかしくはない。

 

「よく生きてたな」

 

「頑丈さだけがウリですから」

 

「俺達も六魔将軍の一人を倒した。後はどこが誰と戦ってるか分からないが、六魔将軍は多くても後四人だ。だが、困ったことに既にニルヴァーナが復活しつつある。あの柱はニルヴァーナの復活の狼煙だ」

 

 ステルクにニルヴァーナのことを話した。光と闇の反転に付いては変に意識されるのも困りものだが、離すべきだと思い、全てを話した。ステルクは流石この部隊の隊長だけあって呑み込みが速かった。それもそのはず、ステルクは最初からヒビキと同じようにニルヴァーナの正体を知っていたのだ。

 

「ニルヴァーナの力を知ってしまったのですね。私たちに出来ることは一刻も速くあの光に辿り着き、六魔将軍を殲滅することのみ」

 

「よし、急ぐぞ!」

 

 俺達が光の元への歩みを始めた時、既にニルヴァーナは完全復活へのカウントダウンを始めていた。それも残り少ないカウントを残すのみというところまで来ていたんだ。




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