「ステルク、地面揺れてないか?」
「そうでしょうか……?」
その直後だった。俺達の目指す光が突如として爆発したかのように太くなり、一段と強く光り輝いた。そして感じていた地震は更に強まり、地面に埋没していた何かが姿を現した。
「これは石か!? でもうねる様に動いてるぞ!?」
「王子、皆、とにかく体を伏せてください!」
ステルクの言う通り、身体を縮こまらせ、頭を手で覆った。それから数分後、地震が終わったことを確認して、立ち上がるとそれまで木々の隙間から日差し込んでいた日光が完全に塞がれ、辺りが暗くなっていた。そして上空を見上げると想像を絶する光景が待ち受けていた。
「これがニルヴァーナなのか……?」
巨大な身体から伸びる六本のうねる足。俺達の付近から飛び出していったのは足だったのか。生物で表すなら蜘蛛というのが最も近い表現だろう。全ての足が集まり、建造物も見える身体部分が光柱のあった場所なのだろうか。
「登るぞ。敵はすぐそこだ」
「……ふふ」
「何だよ」
「いえ、立派になったなと」
「うるせえ。あの中心にニルヴァーナの動きを止める装置か何かがあるはずだ。というかこの見た目でそこ以外に作るなんてあり得ないだろ」
「私もそう思います」
ステルク、ルーシィとニルヴァーナの足を伝って中心地へ向かう。この足もどこかへ向かっているのか常に動いている。足が動く度に体が揺られるので登るのにも時間がかかる。
絨毯を使えば速いのだが、ここで魔力を使う訳にはいかない。この後に残っているであろう激戦の為に溜めておかなければ。
「ねぇ! あれナツじゃない?」
ルーシィが指差した方向を見るとハッピーに背中を持ち上げられ、上空で戦うナツの姿があった。戦っているのは蛇に乗った男。あいつも六魔将軍の一人か。恐らく毒蛇使いのコブラ。あいつはナツに任せていいだろう。タイマンなのが気になるところだが、多分大丈夫。
「ここが頂上か。やっぱり建造物が立ち並んでるな。それも今の建築様式とはかなり異なっている。古代都市か?」
「そのようですね。ニルヴァーナを生み出した古代部族の都市と考えるのが妥当でしょう」
辺りを見上げていると後方から駆け寄ってくる者たちがいた。聖十大魔導のジュラともう一人は知らない男だ。こんな人物は青い天馬の別荘にも来ていなかったはずだが。
「ジュラさん……と誰?」
「彼は六魔将軍のホットアイ殿。案ずるな。彼は味方になった」
「世の中愛デスネ」
にわかには信じられず、ステルクと顔を見合わせた。だが考えてみればエスティの逆の現象が起こったと思えば納得は出来る。ニルヴァーナは善悪反転魔法。善は悪に、悪は善になる。エスティが悪になったのとは逆にホットアイが善になったと考えればいい。
「ふむ。まぁいいだろう。ジュラ殿を信じることとしよう」
「悪に染まった六魔将軍を止める為にニルヴァーナについて、そしてこの街について説明するデスネ」
俺達はホットアイからの説明を受けた。それはステルクですらも知らないことであり、この地の歴史やニルヴァーナの背景にも迫ることだった。
ここはかつて古代人ニルビット族が住んでいた都市。今からおよそ400年前、世界中ではたくさんの戦争が繰り広げられていた。その中でも中立を保っていたニルビット族はそんな世界を嘆き、世界のバランスを取る為に魔法を生み出した。それが光と闇を入れかえる超魔法ニルヴァーナ。それは平和の国ニルヴァーナという名まで付けられた。この古代都市の名前は幻想都市ニルヴァーナというらしい。魔法と都市が一体化し、戦争も無い平和な夢の街。それが400年前のニルヴァーナだったのだ。
「皮肉だな。平和の為の魔法が400年経って悪事に利用されようとしている。魔法のことはよく分からんが、何で闇を光にするだけじゃなくて、光を闇にする効果まで付けたんだ?」
「仕方あるまい。古代人もそこまでは計算していなかったのかもしれん。それに強い魔法に副作用があるものだ」
魔法というのはそういうものなのか。強力なアイテムを作るのには様々なアイテムを経由しなければならないように魔法にも短所はあるらしい。周囲の人間のみならず木などの自然にすら影響を与える魔法だ。副作用も強力にならざるを得ないだろう。
「とにかくこれが動いてしまった事じゃ大変なことデス。一刻も早く止めねばなりませんデスネ。ブレインは中央の『王の間』からこの都市を動かしているのでしょう。その間はブレインは魔法を使えません。叩くチャンスデス」
「確かに足を登ってる時も動いてたな。行き先は分かるか?」
「いえ、私も目的地は知りませんデス」
「そうさ。父上の考えはボクしか知らない」
楽園の塔で敵対したヴィダルダスに似た方向性の男だ。デスメタルというよりはヴィジュアル系と言った感じだが、こいつが六魔将軍最後の一人、ミッドナイトか。
「ミッドナイト!」
「ホットアイ、父上を裏切ったのかい?」
「違いマスネ! ブレインは間違っていると気づいたのデス!」
ミッドナイトの言う父上というのは恐らくは六魔将軍のボスであるブレインのことだろう。まさか親子揃ってこんな悪事を働いているとは思わなかったが、ブレインからしてもこのミッドナイトは秘蔵っ子であり最終兵器にも近い戦力なのだろう。だからここまで温存しておいたと考えるのが妥当だ。
「!?」
ビルの上から飛び降りたミッドナイトは華麗に着地すると腕を水平に薙ぎ払った。刃物も何も持っていなかったように見えるのだが、周辺の建造物が一瞬にして切断された。
だが俺達はその大切断を受けることなく、気づけばどろどろに蕩けた土に落ち込んでおり助かったという状況だった。ジュラの説明によるとこれはホットアイの魔法らしい。
「あなた方は王の間にいってくださいデス! 六魔同士の力は互角! ミッドナイトは私に任せてくださいデス!」
六魔同士の潰し合いになるとは思っていなかったが、これは好都合だ。ここでミッドナイトを倒してくれれば、残りはブレイン、コブラのみ。コブラもナツが倒すと仮定しよう。ブレインも俺、ステルク、ジュラさんの3対1でかかれば勝てない相手ではないと思いたい。
「さぁ! 早く行くデスネ!」
「ホットアイ殿……」
「お任せくださいデス! そして私の本当の名は『リチャード』デス」
「頼んだぞホットアイ……いやリチャード!」
俺達はリチャードに背を向けて、王の間に向けて走り出した。王の間はこの古代都市の中枢部分にあるらしいのだが、リチャードにも詳細な位置は分からないという。とにかく中心へ向かえばいいのだが、この古代都市は複雑な道の構成がされており、正直道に迷っていた。
その時突然、怪獣のような叫び声が上空から聞こえてきた。上空から聞こえた声がこれほど間近で叫ばれたような感覚になるのは初めての事だが、誰が犯人かは明らかだった。
「うっせぇ……ナツか」
「まるで怪獣ね」
空を見上げると先ほどまで戦闘の様子が見られた上空には何も見えなくなっていた。恐らくはコブラとの決着がついたのだろう。
「待てよ……?」
元々ブレインとコブラは共に行動していたはずだ。いくら六魔将軍の各個人の戦闘能力が高いといえどもブレインが単独行動を取るとは考えづらい。リチャードの話ではブレインはニルヴァーナを操作中に魔法を使えない。その隙に俺達が襲い掛かればニルヴァーナ発動の邪魔になる。それを防ぐ為に護衛としてコブラを近くにおいていたはずだ。そこに偶然にもナツが接近し、コブラとの戦闘に発展した。
「王の間とブレインはこっちだ!」
コブラはナツと戦いながらでもブレインの護衛役を忘れていないはず。ならばブレインとはそれほど距離を取っていないはずだ。コブラが墜落した位置に行けば、その周辺にブレインもいる可能性が高い。
コブラが墜落した位置を忘れないように移動を始める。曲がり角を何度も曲がるうちにどっちの方角だったのか分からなくなりそうだったが、なんとか目的地まで達した。
「いた!」
「ナツ! どうしちゃったの!?」
俺達が見つけたのはブレインと思しき人物がぐったりとしたナツのマフラーを掴んで引き摺って移動している様子だった。ナツはコブラに勝ったのにも関わらず、何故ぐったりとしているのかと思ったが、もしかしたらニルヴァーナが乗り物判定なのかもしれない。事実、現在進行形で目的地に向かって動いているし。
「みんなぁナツを助けて……つれていかれちゃう……」
ハッピーのか細い声が聞こえてくる。ナツだけを連れてどこに行くつもりなんだ。
「六魔も半数を失い地に落ちた。これより新たな六魔を作る為、この男を頂く」
「まさか本当に闇ギルドからのヘッドハンティングが来るとはな」
「ナツはあんたたちの思い通りにはならないんだからね!」
「ニルヴァーナがこやつの心を闇に染め、私の手足となるのだ」
「なるか!」
今にも倒れそうなナツは力を振り絞ってブレインの腕に噛みついた。しかし圧倒的な優位に立つブレインはそれをあしらうかのようにマフラーを握ってナツを地面に叩きつけた。ナツが地面に這い蹲ったということは乗り物酔いが発生するということ。ナツの体調は著しく悪化してしまった。
「う、うぼぇ……早く、こいつ倒して……コレ止めてくれ……」
「待ってろよナツ!」
「任務を完遂する為に貴様を斬る」
「止める? ニルヴァーナを? 出来るものか。まもなくニルヴァーナは第一の目的地、化猫の宿に到着する」
化猫の宿ってウェンディとシャルルのギルドじゃ……何故化猫の宿を狙う。そこに何があるというんだ。ブレインには化猫の宿を善悪反転させなければならないような目的でもあるのか。
「目的を言え。何故ウェンディ殿のギルドを狙う」
「貴様の目的次第では即刻この場に切り伏せねばならんな」
ジュラさんとステルクが言う。しかし当のブレインは二人の言葉に耳を傾ける気もなく、ニルヴァーナの一撃を楽しみにするような発言をした。
「聞こえなかったか? 目的を言え」
背後から寒気すら感じる巨大な力を感じた。それは一つはステルクのもの、そしてもう一つはジュラさんのものだ。恐らく、この二人が今回の作戦に参加したメンバーの中でも双璧を成す強さを誇っているだろう。その二人を同時に敵に回したこと、そして二人を同時に怒らせてしまったことはブレインに同情する。
「うぬらのような雑魚に語る言葉は無い! 我は光と闇の審判なり! ひれ伏せぇ!」
「困った男だ。まともに会話すら出来ぬとは」
「力を示すしか道はないという訳か」
「失せろ。ウジ共が」
怒りのジュラは聖十大魔導の一人に数えられる猛者。その魔法は大地を操る魔法だ。人差し指と中指を立てた手をブレインへと差し向ける。すると大地の岩々がブレインに襲い掛かった。為す術もなく直撃を受けるブレインにステルクが背中の剣を抜きて追撃を加える。岩と呼べる巨大な塊が砂と言っても過言ではない程に切り刻まれ、ブレインに多大な斬撃ダメージを与えた。
「な、なんだこの力は……」
頭から出血しながら尻もちをついて怖気づくブレインに対し、ステルクとジュラが更に詰める。これは俺がブレインの立場なら泣いて逃げ出してしまうだろう。
「立て。化猫の宿を狙う理由を吐くまでは寝かさんぞ」
「地獄まで持っていくと言うのなら私が介錯をしてやる」
強い。聖十大魔導のジュラと名ばかり聞いてはいたが、実物はここまで強いのか。マスターといいジョゼといい、聖十というのは人間の強さを超えている。それはステルクもだ。ジュラさんに全く見劣りしていない。この十年間鍛錬を怠らなかったことは断言できる。これほどまでに心強い仲間はそうそういないだろう。
「なるほどな。少々驚いたが、聖十の称号は伊達ではないと言う事か」
「化猫の宿よりも近いギルドは他にもある。何故化猫の宿を狙う。そこに特別な理由があるのだろう」
「これから死ぬ者が知る理由もなかろう」
そう言い放ったブレインは杖を振り上げた。その杖に宿る魔法は最初に連合を殲滅しようとしていたあの闇の魔法だった。
「
ジョゼの魔法に似たような人の魂を模した闇の波動が次々に二人に襲い掛かった。しかしその程度で怯む猛者ではない。ジュラはその大地の魔法を用いて周囲に岩のバリアを作り、そのすべてを受け止めた。
「ステルク殿!」
「応!」
その合間を縫ってステルクがブレインとの距離を詰めようと突撃を仕掛ける。しかしブレインも追撃の手を緩めず、次の攻撃を放つ。
「
「そのまま突っ込め!」
ジュラさんの言葉にステルクはスピードを緩めず、迫り来る魔法へ向かっていった。
「鉄岩壁!」
ジュラさんを守っていた岩柱がぐにゃりと曲がり、ステルクの前方に躍り出た。これにより、ステルクの直進ルートは塞がれたが、魔法の直撃も避けることが出来るはずだった。
「かかったな。その魔法は貫通属性。岩も人間も貫いてくれるわ!」
ブレインの魔法は鉄岩壁を貫き、ステルクの目前に現れた。しかしステルクは避ける素振りを見せるどころか、走りながら剣を構え、上段から魔法に向かって振り下ろした。
「ば、馬鹿な!?」
ステルクの斬撃により常闇奇想曲は鉄岩壁共々真っ二つに切り裂かれた。ここにステルクからブレインへと続く直線のルートが再び現れる。細い岩と岩の合間を縫って、ステルクは刹那の斬撃を仕掛けた。
「アインツェルカンプ!」
余りにも早く、肉眼では追い切れないほどの斬撃、ブレインは体の隅々に傷が付けられ、地が噴き出す。しかし怒る二人はそこで止まりはしない。切り裂かれた鉄岩壁に向かってジュラさんは八卦掌のモーションを取る。すると岩柱が粉々に砕け、ブレインを襲い、取り囲むように密着していった。そしてブレインが身動きが出来ないように足元から段々と岩が積み重なっていき、最終的には全身が岩に覆われて、ブレインは岩に閉じ込められた。
「覇王岩砕!」
ジュラさんが合掌のモーションを取ると岩が内部から爆発し、ブレインに甚大なダメージを与えた。後ろに吹き飛んだブレインはそれ以上立ち上がることはなかった。しかし二人は化猫の宿を狙う理由をしつこく詰めている。
「ま、まさかこの私がやられるとは……ミッドナイトよ……あとは頼む。六魔は決して倒れてはならぬ。六つの祈りが消える時、あの方が……」
「あの方……?」
そこでブレインの意識は途絶えた。俺の目にはブレインの顔の模様がスッと一つ消えたように見えたのだが、気のせいなのだろうか。
だが、とにかくブレインを倒したことでニルヴァーナは動きを止めるはずだ。王の間に行って何かしらの装置を操作することで機能が停止するのだろう。とにかく早く行かなくては。
「王の間っていうのはあれか。速くニルヴァーナを止めよう!」
でも結局ブレインが化猫の宿を狙っていた理由ってのは何なんだ。それなりの理由があったことには間違いないのだが。気になりはするが、今は王の間に行くのが先決か。これで俺達の仕事は終わりのはずだ。
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