「随分と面白えことになってるみてえだなクロドア。ミッドナイトまでやられたのか」
「はっ! 申し訳ありません!」
酷く怯えるように地面に頭を擦り付けて謝るクロドア。人間で表すなら土下座しているようなものだ。それにしてもこのピリついた空気、ゼロの魔力は相当な物だ。ブレインが自ら封印するのも頷ける。だが奴はまだ封印から解かれたばかりで万全の状態ではないはず。その状態でもこの魔力というのが問題だが、ゼロが万全になる前に俺達で倒すしかない。
「それにしても久しいなぁ。この感じ。この肉体、この声、この魔力、全てが懐かしい。小僧ども随分と家のギルドを食い散らかしてくれたなぁ。マスターとして俺がケジメを着けさせてもらうぜ」
身体に纏う魔力が変化しブレインの衣装がゼロの衣装に変わった。奴の初めの標的はブレインの身体を傷つけたステルクとジュラに向いた。たった右手一本から放たれる強力な闇の拡散魔力波が襲い掛かってくる。
「魔除けネット! クソ……ぐあああ!!」
ブレインの攻撃は相殺した魔除けネットだが、ゼロの攻撃にはまるで溶けるように破壊されていった。しかしまだ持ちこたえているうちに、ナツがゼロの懐に潜り込み、インファイトを仕掛ける。しかしまるで赤子を扱うようにあしらわれ、力の籠った裏拳で吹き飛ばされた。
「そんな……」
一人立ち尽くすルーシィは震えで動けずにいた。自分より強い二人があっと言う間に戦闘不能に追い込まれ、勝てるわけがない絶望、恐怖。
しかしゼロは情けを掛けない。動かないならばやりやすいとでも言うように地面から魔力を噴出させ、ルーシィを吹き飛ばした。
「さ、流石マスターゼロ! お見事!」
「まだ死んでねぇな」
へこへこと太鼓持ちをするクロドアだったが、ゼロはまだ満足していなかった。形あるものを形が無くなるまで破壊することこそゼロの祈りであり願いである。形が無くなるどころかまだ死んですらいない三人を更に破壊する様子にはクロドアも目を背けざるを得なかった。
「ガハハハハハ!!!」
「マスター! それ以上は!!」
三人を気の済むまで破壊したゼロは化猫の宿の方角をニルヴァーナ頂上から眺めていた。遂に見えてきた化猫の宿は山を切り開いた中にある小さな集落。建物の造りも少数民族を思わせる独特な猫の形をしている。
「見えてきましたぞ。ニルヴァーナを封印した一族のギルドです。あそこさえ潰せば再び封印されるのを防げますぞ」
「くだらねえな」
「え?」
「くだらねえんだよ!!」
「がっ!?」
ゼロは何を思ったか、仲間であるクロドアさえも破壊した。柄を握り潰し、頭を踏み潰した。ゼロの思考は全てが破壊から始まり、破壊に繋がる。道徳や倫理、感情すらも無く、ただ破壊したいから全てを破壊する獣こそゼロなのである。
「これが最初の一撃! 理由など無い! そこに形があるから無くすまで! ニルヴァーナ発射だぁぁあぁああ!!!」
ニルヴァーナの砲台に収束する魔力が一気に放たれる。化猫の宿を跡形もなく消し去るかと思われた砲撃は謎の攻撃により、ニルヴァーナの足が一本破壊されたことでバランスが崩れ、少しだけ上にズレた。一部は破壊されたものの上部であったために化猫の宿の人民の命は守られた。
ゼロからすれば完璧に照準を合わせた砲撃がずれたことに驚きを隠せない。ゼロは攻撃が行われた上空に振り返るとそこには最初に破壊されたはずに魔導爆撃艇クリスティーナが舞っていた。ふらふらとしながら必死にバランスを保とうとするクリスティーナを見ると状態は悪いままのように見える。
そして未だゼロと遭遇していないエルザたちに念話が入る。それはクリスティーナを操縦するヒビキからの念話であった。念話を受け取ったエルザ、エスティ、そして合流したウェンディは内容を必死に聞いた。
「エルザさん、エスティさん! ウェンディちゃんも無事なんだね」
「どうなっている? クリスティーナは確か爆破されて……」
「壊れた翼をグレイ君とリオン君の魔法で補い、シェリーさんの人形撃とレンの空気魔法で浮かしているんだ。さっきの一撃はイブの魔法さ」
「お前たち……」
皆の魔法を組み合わせて化猫の宿の危機を救ったが、クリスティーナという大きな物体を動かすにはそれ相応の魔力が必要であり、六魔将軍との戦闘で消耗していた彼等には限界を超える力を既に使っていた。
「今のでもう僕たちの魔力は限界だ。僕たちのことはいい。最後にこれだけ聞いてくれ。古文書からニルヴァーナを止める方法が見つかった! ニルヴァーナの足のようなものが六本あるだろう。その足は大地から魔力を吸収するパイプのようなものになっている。それを制御するラクリマが各足の付け根付近にある。その六つを同時に破壊することで全機能が停止する。一つずつではだめだ。他が補填してしまう。」
「同時にだと!? どうやって!?」
「僕がタイミングを計ってあげたいところだけど。もう会話が持ちそうにない。君たちの頭にタイミングをアップロードした。君たちならきっとできる。信じてるよ」
直後、エルザたちの頭の上に20分のカウントバーが表示された。これは次にニルヴァーナの照射が装填完了する時間であり、これが0になった瞬間にラクリマを破壊するのだ。
「無駄なことを……」
ノイズが入り込んだ後、ヒビキではない声が聞こえる。その声の主はゼロ。ヒビキの念話をジャックしたのだ。
「俺はゼロ。六魔将軍のマスタ―ゼロだ。聞くが良い、光の魔導士よ。俺はこれより全ての物を破壊する。手始めに貴様らの仲間を三人破壊した。滅竜魔導士に星霊魔導士、そして錬金術士。それと猫もか」
「そんな……王子……」
エスティは手で口を覆った。
「俺は今、六つのラクリマのどれか一つの前にいる。ワハハハハ!!! 俺がいる限り、同時に破壊することは不可能だ!!」
そこでゼロの念話は切れた。そこでシャルルは絶望とも取れるある事実に気づいた。
「六人もいない! ラクリマを壊せる魔導士が六人もいないわ!」
現在、ラクリマを破壊できるだけの魔力を有しているのはエルザ、エスティ、ジェラール。ウェンディは魔力は有しているが攻撃の魔法が使えない為除外される。三人も足りない状況では手の施しようがない。
「こっちは三人だ! あと三人。動けるものはいないか!?」
声は上がらない。こうしている間にもヒビキの魔力は消耗され、念話は途切れ途切れになっていた。かすれて音量が下がっていく。その中で魔力を使い果たし、クリスティーナのへりにもたれ掛かるグレイが声を上げた。
「さっさと目覚ましやがれちょろ火野郎……こんな奴等で負けてんじゃねえ」
仲間たちが次々にエールを送る。シェリーがルーシィに。目を覚ましたステルクとエスティがラランに。念話を通じて倒れる三人に声が届く。
「私、ルーシィなんて大嫌い。ちょっと可愛いからって調子に乗っちゃってさ。馬鹿でドジで弱っちぃくせに……いつも……いつも一生懸命になっちゃってさ……死んだら嫌いになれませんわ。後味が悪いから返事しなさいよ」
「王子……貴方の器はここで終わるものではありません……まだ志半ばでありましょう」
「こんなところで死ぬ人じゃないわ。絶対にね……聞こえてるでしょう、王子」
「聞こえてる!!!」
みんなの声はちゃんと聞こえた。俺もナツもルーシィも。ボロボロの身体で壁を支えにしながら何とか立ち上がる。それまでの会話も全部聞こえていた。六個のラクリマを同時に壊すこと。どこか一つにゼロがいること。誰かがゼロを倒さなければいけないこと。
「もうすぐ念話が切れる。頭の中に僕が送った地図がある。各ラクリマに番号を付けた。全員がばらけるように決めて……」
「俺は1に行く」
次々に順番を決めていく。決まった番号は俺が1、ナツが2、ルーシィが3、エルザが4、エスティが5、そしてエルザに声が遮られた誰かが6。誰かいたか。一夜か、ウェンディか。だが声を遮る理由が無い。そんなことをしてまで正体を明かしたくない人物。ジェラール? まさかな。
俺達はヒビキの用意した地図を頼りにラクリマの元へ向かった。俺が1を指名したのには訳がある。ゼロが1のラクリマにいる確率が高かったからだ。この位置の足は奴がいた王の間の下から最も近い場所にある。それに地図を見ると他のラクリマへ行くには回り道をしなければならず、この場所以外に行くには時間が足りない。
「やっぱりいたか」
「ほぅ、まだ死んでいなかったか。何をしに来た。クソガキ」
「お前を壊しに来た」
「あの滅竜魔導士よりも魔力の低いお前が俺を壊すだと? 笑わせるな!!」
「残り12分でお前を倒すにはこれしかねえ」
懐から取り出したのは精霊石。テイクオーバーはまだ完成していない。だが、どのアイテムでどう立ち回っても12分でゼロを倒すビジョンは見えなかった。ここで完成させてやる。
「テイクオーバー!」
「何?」
凄まじい風が俺を中心に吹き荒れる。ゼロの髪が靡き、腕で視界をガードしている。エレメント・ジュエルの力が俺に流れ込み、俺を支配していく。
「■■■――――■■!!」
「ふふっふははははは!! 使えもしない魔法で俺を倒そうとしていたとは滑稽だなぁ!!!」
「■■――!!」
「むっ。なるほど。確かに力は上昇しているようだ」
ゼロは初めて防御の構えを取った。意識のないラランの本能的な攻撃は速く鋭い。背中の結晶柱を回転させながら加速し、ゼロを攻撃しながら空に舞い上がる。
「常闇奇想曲!」
ゼロの指先から放たれる魔法はブレインの人格の時よりも強力だ。貫通属性を持つ常闇奇想曲はラランの本能で回避した後、壁を貫通し、掘り進めて再び足元の壁を突き破って襲い掛かる。
これには本能的反射でも対応しきれず顎に直撃する。そこで終わらないのがゼロの魔法であり、魔法を手で操縦し、何度も何度も魔法を行き来させてダメージを与える。動く隙すら無い怒涛の攻撃に為すがままのラランだったが、真っ向から常闇奇想曲が迫り来た時、声にもならない声で吼えた。
「■■■――!!!!!!!」
背中の結晶柱を両手に一つずつ握り、常闇奇想曲を受け止めにかかった。貫通属性の魔法に押され、結晶柱にひびが入る。しかしラランはここで更に力のギアを上げた。
「■■■■■!!!!」
受け止め始めた地点から受け止めた地点まではかなりの距離があった。それだけ魔法に威力があったっということであり、それを受け止めたという事実はゼロにも動揺を与えた。
「■■!?」
しかしその直後ゼロではない誰かの攻撃がラランを貫いた。それはゼロも到着を予見していなかった人物であった。そしてゼロにとってその人物の登場は好都合という他なかった。
「ジェラール。貴様、記憶が戻ったか」
「■■■!!!!!」
意識が無くとも本能がジェラールを敵を判断し、ゼロを他所目にラクリマのある部屋の入口にいるジェラールに超スピードで襲い掛かった。しかしその直線的な動きはジェラールの炎の攻撃によって止められる。
「思い出したんだ。ララバンティーノという希望を。その魔法は接収ではなく融合。接収は魔物の魔力を吸収することで力の一部を魔力を媒介に使役をするに過ぎない。だが融合は魔物と完全に合体することで人の力と魔の力を掛け合わせ何倍もの力を生み出す」
「だが制御できないようでは使い物ならない。違うか?」
ゼロがジェラールの説明に口を挟む。そしてジェラールもそれに頷いた。融合は人と魔物の二つの人格が一つの身体の中で共存しあい、体内で魔力融合することでパワーを生み出す。今の状況は体内で二つの人格が体内で喧嘩しているということ。そしてその喧嘩は魔物が優勢であるということ。
「だが一時的にララバンティーノの意識を回復させることが出来る。さぁ受け取れ、咎の炎を」
「させるか!」
ゼロは咎の炎を受け取らせまいとラランへ攻撃を仕掛ける。しかし寸前でジェラールが割って入り、攻撃を受け止める。
「さぁ目を覚ませ。俺は信じる。エルザが信じる男を俺は信じる」
ジェラールは手に集めた金色の炎をラランへ渡した。ラランはそれを受け取るまでもなく炎に包まれた。赤く光っていた眼は人間の目に戻る。ギョロっと黒目が左右上下に動き、靄の掛かった視界がクリアになっていく。
「まさかお前が助けてくれるとはな。それにテイク・オーバーじゃなくて融合? 意味わかんねえ。でもよ、この湧き上がってくる力は本物だ」
身体に溢れるジュエル・エレメントの力は体験したことのない何も恐れるものが無くなるほどの力だった。だが体内で暴れまわるジュエル・エレメントの力も感じている。今は咎の炎で無理やり制御しているに過ぎない。多分制限時間もラクリマ破壊と同じくらいだろう。なかなか都合がいいじゃないか。
「咎の炎か。それを喰っちまったら貴様も同罪か」
「罪には慣れてる。妖精の尻尾の魔導士はな。でも本当の罪ってのは眼を逸らすこと。誰も信じられなくなることだ!! ジェム・ストンプ!」
背負う結晶柱をゼロに連続で打ち込む。なんというパワー、なんという破壊力、なんというスピード。素晴らしい力だ。この力をもっと速く習得していれば……
「常闇奇想曲!」
「!?」
咄嗟の判断で身体は攻撃を避けようと動いた。しかし今の力ならこの攻撃すら避ける必要はないのではないか。否、この程度の攻撃に我が身を動かすまでもないのではないか。そう感じた。それだけの力を感じていたのだ。
「ふん!」
「馬鹿な!?」
見事のなまでに弾くことが出来た。貫通属性の魔法に対して属性を無視して腕一本で弾き、軌道を変えた。ゼロの狼狽えはこれまでで最も大きい。
「あと五分だ」
「面白い。来い、妖精の力よ」
「行くぞ!」
この腕、脚に加えて、脳で操作できる四つの結晶柱での攻撃が出来る。これが便利だ。圧倒的に手数が増えることで相手に優位を取ることが出来る。
「輝け! ブリリアント・アロー!」
羽根で空を飛び、結晶柱を形態変化させた弓から魔力矢を撃ち放つ。ゼロも次々に避けていき、常闇奇想曲で反撃を図ってくる。スピードを上げて上空を舞いながら攻撃を躱し、矢を放つ。
しかし先回りされ、目の前にゼロが現れる。急停止した瞬間、一瞬だけ動きが止まる。その瞬間に俺の身体は一気に地面にめり込み、地下まで貫通した。
「ダーク・グラビティ!」
ゼロの重力系の魔法により、空を舞う妖精が地面にひれ伏す。だが結晶柱を支えになんとか重力波から抜けだし、柱をゼロに差し向ける。ゼロはそれを簡単に弾いてしまうが、それで時間を稼ぎ、距離を取った。
「まだその力を使いこなせてねえみたいだな」
確かに身体にガタが来ていた。体内で暴れるジュエル・エレメントの力が強まってきている。俺の時間もラクリマを壊す時間も残り少ない。
「うっ……」
「隙あり!」
体内からの攻撃によってよろけた隙をゼロは見逃さなかった。持前のスピードで距離を詰め、殴る蹴るの単純な暴力で俺を痛めつけた。体外と体内からの攻撃に俺は為す術が無かった。
「その程度か。妖精の力は。獣の状態の方がまだ強かったぞ?」
「ぐっ……」
「てめえ如きのゴミ一人で相手に出来るわけがねーだろうが」
「一人じゃねえよ……エスティ、ステルク、ウェンディ、妖精の尻尾、青い天馬、蛇の鱗の皆の気持ちがかかってる。ここまで繋いでくれた奴等の分まで俺は勝たねばならん。俺の身体の中で暴れてる奴もな。いずれ必ず手懐けてやる!」
「ふん。粉々にするには惜しい男だが、もうよい。楽しかったよ。貴様に最高の無を見せてやろう。我が最大の魔法をな」
「もう時間もないし、ちょうどいい。俺はお前に最大の輝きを見せてやる……行くぞ!」
「ジェネシス・ゼロ!!」
「ブリリアント・ピラー!!」
二つの魔法がぶつかり合う。一つは光り輝く聖の魔法、もう一つは暗く沈みゆく闇の魔法。四つの結晶柱を回転させながら発射する光線魔法であるブリリアント・ピラーは恐らく俺の出せる魔法では最大の魔法だ。絶対に負けるわけにはいかない。ラクリマ破壊まで残りの時間は1分。絶対に競り勝つ。奴の闇を光に変えて、全ての闇を呑み込もう。
「開け、鬼哭の門。無の旅人よ。その者の魂を、記憶を、存在を食い尽くせ!! 消えろ! ゼロの名の下に!!」
「ぐううううう!!!!」
ゼロの魔法も凄まじい魔法だ。直接喰らえば俺は消し炭になり、この世には壁に張り付いた影しか残らないだろう。俺も気力で押し返す。ここまで来ると体内のジュエル・エレメントが応援してくれているようにも思える。
「錬金術士は全てを作る存在! お前が闇なら俺は光! お前が無なら俺は有! これは俺達全員の力だ! うおおおおおおおおおおおお!!!!」
全力全魔力を解放したブリリアント・ピラーはゼロのジェネシス・ゼロを呑み込み、ラクリマ共々破壊した。たまたまだがラクリマ破壊の時間ともぴったり合っていた。
ゼロを倒し、ラクリマを破壊した直後に融合は解除された。途端に体中の力が抜け、歩くのも困難な程に疲れが襲ってきた。さらに動力源を失ったニルヴァーナは崩壊を始める。これもしかして大ピンチなのでは。ちょっと誰か助けてくれ。