FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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守りたい場所

「ふげっ」

 

「大丈夫ですか王子」

 

 崩壊したニルヴァーナから助け出してくれたのはステルクだった。他の皆も各々脱出したり、ウェンディはジュラに、ナツはホットアイに救出された。ステルクは俺と同時にジェラールも救い出していた。

 

「大丈夫だ。ありがとう助かった」

 

「いえこれが私の役目ですから」

 

「ラランさーん!」

 

「うげっ」

 

 ステルクに肩を借りて立つ俺にウェンディが勢いよく抱き着いてくる。後ろに押し倒されて気を失いそうになったが、それだけウェンディが嬉しかったのだと実感する。

 

「ありがとう。約束を守ってくれて、ギルドを守ってくれて!」

 

「ギルドは俺達の守りたい場所だ。だから何が何でも守るさ。それに俺だけの力じゃない。皆が助けてくれたからだ。ウェンディもな」

 

「はい!」

 

 俺達は無事に全員脱出した。俺とエルザ、ウェンディ以外はジェラールの姿を知らなかった為、誰だ誰だとひそひそ話で話題になっていたが、エルザがジェラールであると伝えるとグレイとルーシィは驚き、ナツは殴りかかろうとした。

 ちなみにウェンディは幼い頃にジェラールに助けられて、今の化猫の猫に入ったらしい。だからジェラールには恩を感じているらしい。

 それに今のジェラールは記憶喪失で前に知ったジェラールとは異なるとエルザは説明した。しかしそうは言ってもあのジェラールが印象強すぎてどうにも信じられないと言った感じだった。

 

「さっさと帰ろう……ぜ!?」

 

 ジェラールとエルザがいちゃついてる様子を見てたら気恥ずかしくなってきて、帰ろうとするといきなり壁にぶつかった。何が起こったのか分からなかったが下を見ると円形に文字列が並んでおりすぐに分かった。

 

「これ術式か!?」

 

 そう気づいた瞬間に術式が正体を現し、俺達は閉じ込められてしまった。そして樹海から現れたのは俺達の味方でも敵でもない。どちらかと言えば敵とも言える評議院だった。

 

「ごめんなさい王子。私が呼びました」

 

「エスティ……」

 

「私は新生評議院第四強行検束部隊隊長ラハールと申します」

 

「もう発足してたのか」

 

「我々は法と正義を守る為に生まれ変わった。いかなる悪も許さない。六魔将軍の捕縛に参りました」

 

「そうか。じゃあこの瓦礫の山から探してくれ」

 

「その前にそちらのコードネーム・ホットアイを渡してください」

 

「ま、待ってくれ!」

 

 ホットアイの捕縛に待ったをかけたのはジュラだった。ホットアイが悪から善に転ずる瞬間からの付き合いであり、この中では最も付き合いが長い。最初に本名を聞き、秘密を晒し、多くの言葉を交わした既に友である。しかしホットアイはジュラの肩を叩き、自ら評議院の方へ一歩踏み出した。

 

「善意に目覚めても過去の悪業は変わりませんデス。私は一からやり直したい」

 

「ならばワシが代わりに弟を探そう」

 

「本当デスカ!? 名前はウォーリー。ウォーリー・ブキャナンデス」

 

「ウォーリー!? その男なら知っている。私の友だ。今は元気に大陸中を旅している」

 

 ウォーリーってあのカクカクした奴か。確かにどことなく似ているような。まさかこんなところで兄弟と出会うとは世間は狭いものだ。

 

 その事実を知ったリチャードは涙を流し、膝をついてありがとうと三回続けた。確かにこれが奇跡ってやつなのかな。

 

 リチャードは特に反抗することなく、評議院に連れられていった。俺達はどこか可哀想という感情に包まれていた。しかしリチャードを拘束し、目的を果たしたはずだが、依然として術式を解除しない。

 

「術式解除してくれないのか?」

 

「私たちの目的は六魔将軍如きではありません。そこにとんでもない大悪党がいるでしょう。評議院への潜入、破壊、エーテリオンの投下。ジェラール! 貴様だ! 来い。抵抗する場合は抹殺の許可も出ている」

 

「そんな!」

 

「ちょっと待てよ!」

 

 ウェンディとナツが続けて反応した。ジェラールは俯いたまま動かない。ジェラールは確かに俺を助け、エルザの話ではニルヴァーナを率先して発見し、自律崩壊魔法陣での破壊を試みた。いわばこの作戦に貢献したと言える。それに今は記憶喪失で前とは人格ごと変化している。だがラハールの言った前科も事実だ。拘束されるのは当然なのだが……

 

「その男は危険だ。二度とこの世界に放ってはいけない。絶対に!」

 

 皆が違和感を感じたまま、ジェラールは連邦反逆罪で手錠を掛けられた。強く反対したのはウェンディだった。ジェラールは記憶を失っているからと言ったが、ラハールの刑法を用いた反論に会い、有効な手を失ってしまう。絞り出した『でも』という言葉もジェラール本人に止められてしまった。ジェラールにも抵抗する気はないらしい。だが立ち止まってウェンディに語り掛けた。

 

「君の事は最後まで思い出せなかった。本当にすまないウェンディ」

 

 ウェンディは涙を堪えながら、先へ行くジェラールを見守っていた。俺はふとエルザの方を見た。この中で最も複雑な思いをしているのはエルザだろう。

 

 エルザは唇を噛みしめ、拳を握りしめていた。ラハールはジェラールが牢に入った場合、死刑か無期懲役は確定だと言った。つまりここで行かせてしまっては二度と出てくることは出来ない。

 

 今ジェラールを行かせてしまったら後悔する気がする。俺は拳を構えようとした。

 

「いけません。王子」

 

 その腕をそっと抑えたのはステルクだった。エスティにも肩を抱かれ、我慢しろとばかりに宥めてくる。だが、ここでジェラールを行かせてしまってはエルザが……

 

「行かせるかぁぁぁ!!」

 

 その時ナツが飛び出した。相手は評議院だ。手を出せば、処罰が下されることは間違いない。と思っている間にもナツは評議院の兵士を次々になぎ倒している。

 

 ナツに焚きつけられてグレイが評議院に殴りかかる。更にはルーシィもジュラもと次々に抵抗を始めていった。ナツはジェラールのことを仲間と呼び、連れて帰ると叫んだ。そうだ俺だってと息巻いて加わろうとしたが、エスティとステルクに抑えつけられる。

 

「何すんだ!」

 

「ダメです王子。評議院に逆らってはいけません」

 

「けど!」

 

「すみません。王子への処罰は避けなければ」

 

「エルザが悲しむ!」

 

 俺が2人相手にじたばたとしている間にナツを中心とした反乱は大きくなっていく。エルザの為にエルザが二度と悲しまないように。ナツはジェラールに手を伸ばす。

 

「ジェラール!来い! 仲間だろ!」

 

「全員捕らえろ! 公務執行妨害及び、逃亡幇助だ!」

 

 評議院の兵士たちも魔法を用いて応戦する。衝突が最高潮に達した時、一人我慢を続けていたエルザが遂に声を上げた。

 

「もういい! そこまでだ! 騒がしてすまない。責任は全て私が取る。ジェラールを……連れていけ……」

 

「エルザ!」

 

 皆が静まり返り、反乱は収まった。評議院がジェラールを連れていく様子がゆっくりと流れていく。護送車に乗せられる直前、ジェラールは立ち止まり、エルザの方を振り返る。

 

「そうだ。お前の髪の色だった。さよならエルザ」

 

 ジェラールはそう言い残して護送車へ姿を消した。もう二度と彼の姿を見ることは無いのかもしれない。生きているからこそ会いたいと人は願うのだ。二人を分かつのは死よりも辛いものだ。

 

 リチャードとジェラールが連れていかれ、俺達には寂しげな雰囲気が漂っていた。エルザはどこかへ姿を消している。

 

 沈みゆく夕焼けは人生の中で最も美しく見えた。まるでエルザの髪のような緋色。スカーレットだった。熱く、情熱的なその色は心を滾らせる。この空はただ顔を上げるだけで見ることが出来るのに、エルザは顔を上げることが出来ないのだろう。

 

「てか、俺はいつになったらいつもの恰好に戻れるんだ」

 

「お似合いですよ」

 

「落ち着かん……」

 

 俺達はそれからウェンディとシャルルのギルドである化猫の宿を訪れていた。地方ギルド連盟を代表してギルドマスターのローバアル氏から感謝を述べたいとのことらしい。

 

 それで化猫の宿のギルドを訪れたのだが、この辺りは集落とギルドが一体化していて織物の生産が盛んらしい。戦闘でボロボロになった服を取り換えていただいたのだが、正直早くいつもの恰好に戻りたい。

 

「名前も知らないギルドだったけど結構人がいるんだな」

 

 街の中央に集められた俺達の向かい側にはマスターローバアルと思しき老人とこの街の住人であり、化猫の宿のギルドメンバーたちが集まっていた。ざっくり44、5人だろうか。

 

「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、そしてシャルルにウェンディ。よくぞ六魔将軍を倒し、ニルヴァーナをを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表してこのローバアルが礼を言う。ありがとう。なぶらありがとう」

 

 なぶらって何なんだろう。この地域の方言なのだろうか。とてもみたいな意味合いに聞こえるが。

 

 ローバアルの言葉にいの一番に反応したのは一夜だった。六魔将軍との激闘に次ぐ激闘がどうのこうの言っていたが一夜が六魔将軍と戦っていたとは記憶していないし、誰からも聞いていない。ラクリマを壊す時も反応無かったし。いい所を持っていかれた。

 

「この流れは宴だろ!」

 

 ナツがそう言って場を盛り上げると一夜とトライメンズがわっしょいわっしょいと盛り上がり始める。俺達もその気になり始めていたのだが、化猫の宿の人達の反応は無そのものだった。それどころか下を向いてどこか後ろめたそうな雰囲気を出している。

 

「皆さん、ニルビット族のことを隠していて本当に申し訳ない」

 

「そんなことで空気壊すの?」

 

「全然気にしてねーのにな」

 

「マスター、私も気にしてませんよ」

 

 ナツやウェンディがフォローしたがローバアルの顔色は優れないまま、ため息を一つついて語り始めた。

 

「皆さん、ワシがこれから話すことをよく聞いてくだされ。まず初めに、ワシ等はニルビット族の末裔などではない。ニルビット族そのもの。400年前作ったのはこのワシじゃ」

 

「は?」

 

 それしか言葉が出なかった。400年前にニルヴァーナを作ったのが目の前にいるローバアル氏だとすれば、この人は一体何歳なんだ。いやというか人間って400以上も生きられるものだっけ。様々な疑問が頭の中を駆け巡った後に混乱した。言葉にするなら唖然、茫然というのがぴったりだろう。

 

「400年前、ワシは世界中に広がった戦争を止めようと善悪反転の魔法ニルヴァーナを作った」

 

 ローバアルはニルビット族とニルヴァーナの凄惨な歴史を語り始める。

 

 ローバアルの作ったニルヴァーナはニルビット族の国となり、平和の象徴として一時代を築いた。ニルヴァーナの集落は400年前にニルビット族が暮らしていた名残だったということだ。確かに建造物の特徴もどこか似ている。

 

 しかし、ニルヴァーナの強力な力には相反する力が生まれてしまう。闇を光に変えた分だけニルヴァーナには闇が纏わりついていた。バランスを取っていたのだ。人間の心を無制限に操作することは魔法とて出来なかった。闇に対して光が生まれ、光に対して闇が生まれる。これはエスティが闇に、リチャードが光に反転したことと同じだ。

 

 そして世界の人々から吸収した闇はニルヴァーナを通じて、ニルビット族に纏わりついた。そしてその結果、ニルビット族は共に殺し合い、全滅した。生き残ったのはローバアル一人だけ。今となってはその身体は滅び、思念体に近い状態である。ニルヴァーナを作成してしまったという罪を償う為だけにニルヴァーナを破壊してくれる者が現れるまで400年ここで見守ってきたのだと言う。そして今、その役目が終わったのだ。

 

「とんでもない話だな……」

 

 ローバアルの話が終わると、集まっていたその他の住人達が次々に姿を消していった。人がまるで思念体のように消えていく。いや彼らは本当に思念体なのだ。

 

「騙していてすまなかった。ウェンディ。ギルドのメンバーは皆、ワシが作り出した幻じゃ……」

 

 それぞれが人格を持つ幻をこんな大量に。何という魔力だろう。

 

「ワシはニルヴァーナを見守る為にこの廃村に住んでいた。七年前に一人の少年がワシの所に来た。少年のあまりに真っすぐな目にワシはつい承諾してしまった。一人でいようと決めていたのにな」

 

 その少年は恐らくジェラールのことだろう。そしてジェラールはウェンディを置いて去り、不安そうなウェンディがここはどこ、ギルドに連れて行ってくれるとジェラールは言ったと泣きそうになっているのを前にしたローバアルは咄嗟に嘘をついた。ここはギルドだと。外に出ればたくさんの人がいて仲間が待っていると。そこでローバアルは幻の人格たちを作り、化猫の宿を作った。ここはウェンディの為に作られたギルドだったのだ。しかしウェンディは真実を受け止められず耳を塞いでしゃがみ込む。

 

「そんな話聞きたくない! バスクもナオキも消えないで!」

 

「ウェンディ、シャルル、もうお前たちに偽りの仲間は必要ない。本当の仲間がいるではないか。お前たちの未来は始まったばかりだ」

 

「マスター!」

 

 消えゆくローバアルにウェンディは居ても立ってもいられず泣きついていった。しかしその腕はローバアルを捉えることなく空を切った。

 

「皆さん、本当にありがとう。ウェンディとシャルルを頼みます」

 

 ローバアルの声が響く。俺達に二人を託して。400年の責務を終えたローバアルにこの世への未練はなく、安らかに天に昇って行った。

 

「マスター―――!!!」

 

 ウェンディの叫びが木魂する。天へ突き刺さる声が。この声は天国のローバアルやニルビット族の皆に届いているのだろうか。彼女にとって化猫の猫の皆は決して偽物の仲間などではなかった。だからこそ辛く、切ない。ウェンディにとって化猫の宿は家族であり、家だったのだ。

 

「愛する者との辛さは仲間が埋めてくれる。来い。妖精の尻尾へ」

 

 エルザがウェンディの肩を叩いた。そしてウェンディは涙を拭い、力強く立ち上がる。思い出は心に一生残る。ニルビット族と化猫の宿はウェンディの心の中で生き続けるのだ。

 

 俺達はこの場所に別れを告げて、それぞれのギルドへ戻る。青い天馬、蛇姫の鱗もそれぞれのギルドへ帰っていった。そういえばルーシィはエンジェルの持っていた三つの黄道十二門の鍵を手に入れたらしい。

 

 そして今、俺達は帰りの船の上にいる。俺は船の甲板の端で海を眺めながら、精霊石を手に握りしめていた。

 

「どうしたの?」

 

「別に」

 

「あ、それ。バトル・オブ・フェアリーテイルの時の」

 

「またダメだった」

 

「使ったの!?」

 

「あぁ。暴走して戦ってたらジェラールが来て、炎を受け取ったら意識が戻ったんだ。その時だけ俺はこいつと完全に融合出来た。結果的には勝ったけど、この力を使いこなさきゃこの先きっと誰も、何処も守れない……あいつを倒す為にはこの力が必要だ」

 

「……ゆっくり頑張っていこうよ。ラランならきっと出来るよ」

 

「……そうだな。はぁ何か一気に疲れた。帰ったら一週間くらい寝てようかな」

 

「一緒に仕事言ってくれないとあたしの家賃が……」

 

「あ、そういえばロロナが時間が出来たら何処かに行こうって言ってたな。どこだったか……」

 

「ロロナさんと!? それあたしも行く!」

 

「……アランヤ村だったっけ……?」

 

「ちょっと聞いてるの!?」




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