FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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アランヤ村

 ギルドに無事帰還した俺達は皆からの歓待を受ける。そしてエルザの招待によってウェンディとシャルルが妖精の尻尾に加わった。

 

 ウェンディが天空魔法を使い、天空の滅竜魔導士であることを打ち明けると皆は大いに喜んだ。滅竜魔導士はそもそも珍しい人材であるのに妖精の尻尾に三人もいるのだと自分のことのように喜ぶギルドメンバー達を見て、まさか信じてくれるとは思っていなかったウェンディも嬉しそうだ。

 

「ウェンディちゃん可愛いねぇ。トトリちゃんとツェツィちゃんみたい」

 

「……誰?」

 

「あっ、こないだ言ってたアランヤ村に住んでる姉妹なんだ。あれから十年も経ってるからツェツィちゃんはも大人なんだろうなぁ」

 

「その件だけど、しばらく暇だし行こうぜ。アランヤ村」

 

「えっいいの!?」

 

「あぁ。ルーシィも一緒に行きたがってたけど」

 

「うん! 勿論いいよ!」

 

 俺はそのことをルーシィに伝え、準備をする為にアトリエに戻った。確かアランヤ村はアーランド王都から見て南西にある小さな漁村だ。フィオーレから見れば大きく東側に行ったところにある。陸路ならばフィオーレからボスコとアールズという小国を超えてアーランドに辿り着くが。ここから出発となるとハルジオン港から船でローリンヒルの岬を超えてアーランド内海に侵入して直接向かうのが速いだろう。

 

 そういえばアールズはどうなっているのだろうか。アールズ王国の国王と父上は旧友であったから友好関係が続いていたが。そしてお姫様は元気だろうか。名前はメルルリンス姫だったか。以前訪れた時はまだ生まれたばかりだった。今はもう11歳あたりでウェンディと近い歳になっている。

 

「しかし、ロロナはモテるんだな」

 

 ギルドにもロロナはすっかり馴染んでいた。ミラに続く看板娘として料理をしたり、運んだり。特にロロナのパイはここでも大人気で毎日あの香りがギルドには漂っている。マカオやワカバのおじさん連中には鼻の下を伸ばされている。年齢も24歳と年齢だけは大人のお姉さんだからな。顔や行動は子供のままだが。

 

 そう考えながら旅の準備をしているとチャイムが鳴った。きっと準備を済ませた二人だろう。俺は玄関を開けるとやはりロロナとルーシィだった。

 

「ララ君準備できた?」

 

「あぁ。すぐに出よう。船で行くのか?」

 

「うん!」

 

 俺達はマグノリアを出発し、ハルジオンへ向かった。その途中でロロナに片道の時間を聞いたところ二、三週間はかかるらしい。そりゃ時間が出来たらでいいという訳だ。

 

 ハルジオンに着くと腹ごしらえをして船に乗り込んだ。アランヤ村は魚の漁獲量が多いため、商人たちの乗る船がハルジオンからも出ているらしい。今回はそちらに乗せてもらう。

 

「私はロロナさんに最初に聞いたからいっぱいお着替え持ってきてるわよ!」

 

「俺は秘密バックがあるから忘れ物という概念が存在しないんだ」

 

「それじゃしゅっぱーつ!」

 

 船は汽笛を鳴り響かせて出発した。ここから三週間の船旅か。とはいえあっと言う間に過ぎてしまうのだろう。

 

「ねえララン! 船のお部屋凄いよ! ねっ行こ!」

 

「おう」

 

 ルーシィに腕を掴まれて強引に連れていかれる。急だったので首ががくっとなって折れるかと思った。甲板にいた俺達は客室が並ぶ室内に移動し、俺達が泊る部屋の前まで来た。

 

 ロロナが全ての計画をしている時点で若干不安があったがそれはやはり的中していた。ロロナとルーシィは女性同士でまだ同部屋でもいいが、なぜ俺の部屋が別じゃないんだ。

 

「空き部屋は無いのか。俺が同部屋は不味いだろ」

 

「あ、あたしは別にいいよ」

 

 そういうなら甘んじて受け入れよう。

 

「見て見て。広いよね。あたし船旅なんて初めて!」

 

「良い部屋だな。これなら快適に過ごせそうだ」

 

「エスティさんに言ったらこの部屋を押さえてくれたんだ。えへへ」

 

 こうして始まった三人の船旅はあっと言う間に進み、何事もなく最終日に突入した。

 

「もうすぐ着くぞ」

 

「もうローリンヒルを超えたし、ほんとにあとちょっとだよ」

 

「あれがアランヤ村かな?」

 

 ルーシィが指さす先には小さな集落が見えた。停泊所も見えるし恐らくあそこがアランヤ村だろう。それにしても一瞬だったな。この三週間のことを何も覚えていない。

 

「とうちゃーく! 懐かしいなぁ。何も変わってない。でも少しだけ賑やかになったかな?」

 

「ほんとに小さい漁村なんだな。人の数も少ない。でも活気には溢れてるな」

 

「結構見られてるわね。外から人が来るのは珍しいのかしら」

 

「二人とも、こっちだよ!」

 

 ロロナは俺達を先導して歩き始める。この小さい村では俺達の恰好は華美に見えるだろうから普段より目を引いている。ロロナやルーシィに視線が集まっているのが俺にも分かる。

 

 ロロナが指さした先は小さな丘の上にぽつんと立つ一軒家。煙突からもくもくと煙が上がっている。あそこにトトリちゃんとツェツィちゃんがいるのだろうか。

 

「行こう。ルーシィ」

 

「うん」

 

 俺達はロロナに付いていく。ロロナは玄関の前に立つとチャイムを鳴らした。中から出てきたのはそれは美しい、ミラと並ぶほどの美女だった。サラサラの靡く黒い長髪に清楚な水色のワンピース。まだ垢ぬけていない様が実に素晴らしい。

 

「う、美しい……」

 

「ちょっとララン?」

 

「あ、あの、どちら様ですか?」

 

「……もしかしてツェツィちゃん?」

 

「……? そうですけど、どうして私の名前を」

 

「私ロロナ! 昔この家でちょっとお世話になったんだけど覚えてないかな」

 

「え……嘘……」

 

 ハッとしたツェツィさんはバタンと勢いよく扉を閉めて家に戻ってしまった。歓迎してくれると思っていたロロナは『あれ』と小さく呟いて固まってしまった。

 

 しかしすぐに先ほどより強く扉が開かれた。するとツェツィ以外に二人出てきた。二人とも女性でツェツィさんに顔が似ている。

 

「あんた、よく戻ってきたね!」

 

「ロロナ先生、お久しぶりです」

 

「ギゼラさん! トトリちゃん!」

 

「まぁ僕もいるんだけどね」

 

「あっグイードさんも」

 

 三人だった。あまりにも影が薄くて見えていなかった。ワイワイと盛り上がる一家とロロナに置いてけぼりの俺達は暫く放置された後、ロロナに紹介された。

 

「私の今の仲間です。ララ君はアーランドの時からのお友達で、ルーシィちゃんはフィオーレからのお友達」

 

「そうかい。よくきたね。中に入りな」

 

 恐らくツェツィさんとトトリちゃんのお母さんであろうギゼラさんに招かれて家の中に入った。中は幸せな家庭を想像させるキッチンやリビング。そして二階にも部屋がある。

 

「十年ぶりだね。ロロナ。あんたがちょっと散歩に行ってくるって言って帰ってこなくなってから」

 

「えへへ。色々あって」

 

「まぁ聞かないよ。娘はもうあんたが帰ってきただけで泣いちゃって二階に行っちゃったからね。戻ってきただけで嬉しいよ。あんたがいない間にツェツィもトトリもすっかり大きくなっちまったよ。あんたが教えてくれた連記述っていうの?もやってるよ。まあまあ積もる話もあるだろうからしばらく泊っていきな。そっちのお二人さんは後でこの町を案内するよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 優しい人だな。それにしてもロロナは錬金術を教えていたのか。というか教えられていたのだろうか。俺が教えてもらった時はぐるぐるとか擬音でだいたいが賄われていた気がするんだが。それで理解できたならとんでもない才能だな。

 

「この辺りに人が住んでいる集落はここだけのはずだが交易だけでこれだけ栄えているとはな」

 

「数年前からですよ。こんなに活気が出てきたのは」

 

「ツェツィさん。どうも私はララバンティーノ・ランミュートです。以前はロロナがお世話になりました」

 

 高台の上に建つ家の窓から村を眺めているとツェツィさんが話しかけてきてくれた。実は彼女の名前はツェツィではないらしい。どうやらあのお母さんの強い意向でツェツィさんはツェツィーリア、妹さんのトトリちゃんはトトゥーリアという名前らしい。しかし長いし呼びづらいということで村の人にも両親にもツェツィ、トトリと呼ばれているようだ。ちなみにツェツィさんは20歳。トトリちゃんは15歳らしい。ルーシィとトトリちゃんは歳も近いし話も合うだろう。

 

「数年前に何か?」

 

「アーランドが焼け落ちてから、この村も影響を受けて衰退していたんです。でもロロナさんがアーランドから流れ着いて、私たちに錬金術を教えてくれました。私には習得できなかったけど、トトリちゃんには才能があったみたいで。トトリちゃんを中心にこの村を復興させる為に色々と頑張ってくれたんです。それに私や両親、そして村の人たちも協力してくれて、ここまで復興出来たんですよ」

 

「そうですか。それは私も救われる思いです」

 

「え?」

 

「あ、いえ。私もアーランドの生まれですから。このようにアーランドの一部が復興しているのは嬉しいです」

 

「そうですね。この村は私たちが守りたい場所なんです。だからここに残った。今の活気は皆の努力の賜物です」

 

 笑顔で話してくれるツェツィさんに俺も救われる思いだった。アーランド王都が焼け落ちてもこうやって地道な活動によって力を取り戻した場所もあると知れたことは大きな収穫だ。

 

「もしもアーランドを復興させたいとしたらツェツィさんは協力してくれますか?」

 

「え? え、えぇ勿論。私だけじゃなくて村の皆が協力すると思いますよ」

 

「ありがとうございます。では私は村を見物させてもらいますよ」

 

 その言葉を受けた俺は吊り上がろうとする口角を手で押さえながら、ツェツィさんに背を向けてヘルモルト家を出た。続いてルーシィも家から出てくる。ルーシィはロロナとトトリちゃんと話していたようだ。

 

「トトリちゃん凄いわよね」

 

「復興の話か?」

 

「うん。私より年下なのに村を復興させたいって気持ちで本当にこんなに村を活気付けちゃうんだもん。あたしも頑張らなきゃな」

 

「すげぇよ。生活は苦しかったはずなのにここから逃げずに努力して、今は豊かで笑顔の溢れる生活をしてる。錬金術にはこんな力もあるんだ。俺もまだまだだな」

 

「あんたたち何黄昏てんだい」

 

 アランヤ村の人々に感心して二人してため息をついていると、坂道を登って帰ってきたギゼラさんに声を掛けられた。腰に手を当てて俺達の背中に蹴りを入れて無理やり立たせる。

 

「この村を案内するよ。何もない村だけどね」

 

 俺達はギゼラさんに続いて家から坂を降りて村の中心部に向かっていった。先々ですれ違う人達は全員がギゼラの顔を見ると挨拶をしていく。人口の少ない村だから顔も覚えられているのだろう。

 

「まぁ連れてくるところって言ったらここぐらいかね」

 

「バー、ですか」

 

「あんたらどっちも20歳以上だろ? じゃあ一杯奢ってやるさ」

 

「あ、あのあたし17歳なんですけど……」

 

「えっ!? あんたそんな身体で17歳なのかい!? トトリとは大違いだね……」

 

 ギゼラさんは主にルーシィの胸を凝視しながらそう言った。確かにトトリちゃんの胸部は平だったな。ツェツィさんは結構大きかったが。

 

 ギゼラさんに続いて、バーに入ると正面にグラスを磨くマスターが見えた。客はまだ昼ということもあってかパラパラといる程度だ。

 

「おや、ギゼラか。こんな時間から珍しいな。後ろの二人は?」

 

「昔うちにいたロロナの連れさ。あの子が帰ってきてね」

 

「そうか。お前たちは心配していたからな。よかった」

 

「どうも。ララバンティーノ・ランミュートと申します」

 

「ルーシィです」

 

「私はゲラルドだ。このバーのマスターをしている」

 

 白シャツにサスペンダー、赤と白のチェック柄の蝶ネクタイにダンディな口ひげ。いかにもバーのマスターをしていそうな風貌のゲラルドさん。磨いたグラスを置いて自己紹介をしてくれた。

 

 ゲラルドさんからこの村の復興話を聞いた。ゲラルドさんもトトリちゃんたちと並ぶ中心人物の一人らしい。何でもフィオーレまで船で出かけては人々の依頼を集めて村の人々で解決するという魔導士ギルドの真似をして資金集めを中心にしていたようだ。今でもその活動は継続しているようで、カウンターの横手にはクエストボードがあり、依頼書が張り付けられている。内容はモンスターの討伐から、物の調達、採集、お悩み解決まで多岐に渡る。

 

「懐かしいな。あの頃は大変だった。その日の飯もままならないような暮らしだったよ」

 

「でもあたし達は諦めなかった。だろ?」

 

「はっはっは。そうだな。それに楽しかった。停滞し、衰退した村が栄えていく様子を見ているのは楽しかったな。それもお前やトトリ、ツェツィが動き出してくれたからだ。そうでなければ私たちはここで今も貧しい暮らしを送っていた」

 

「まったくあたしの娘たちも大きくなったもんさ。それにツェツィにはメルヴィ、トトリにはジーノがいたからね。逞しく育ってくれたよ」

 

 懐かしむギゼラさんはカウンターに座って酒を流し込んだ。そこには母としての顔が見えていた。俺にもルーシィにも既に母は居ない。母の愛を受けることがどれだけ羨ましく思った事だろう。

 

「しんみりしちまったね。ほら家に帰るよ。今夜はご馳走だ」

 

「君たち、いつでもここに来ると良い。私たちはいつでも歓迎だ」

 

「ありがとうございます」

 

 バーを後にした俺達は再びヘルモルト家に戻った。高台への坂道を上る途中で家を見ると煙突から煙が噴き出していた。

 

「あ、おかえりなさい。ロロナさんとトトリちゃんは二階にいますよ」

 

 ツェツィさんの言葉を受けて、俺は二階へ向かった。部屋は三つあり、それぞれにトトリの部屋、ツェツィの部屋と夫婦の部屋と木の看板に書かれている。俺はトトリちゃんの部屋をノックする。

 

「はーい。あ、ララバンティーノさん」

 

「トトリちゃん。ロロナは?」

 

「あ、中にいますよ。錬金術を教えてもらっていたんです」

 

「ロロナに……?」

 

 以前もロロナに教えてもらっていたんだろうが、それで本当に理解できていたのだろうか。ツェツィさんもロロナに錬金術を教えてもらったそうだが、習得できなかった。それはツェツィさんに錬金術の才能が無かったわけではない。いやロロナの教えを理解する才能が無かっただけだ。

 

「あ、ララ君。トトリちゃんに錬金術教えてあげて。トトリちゃん困ってるみたいで」

 

「そりゃぐるぐるとがちゃがちゃじゃ分からんだろ」

 

「えー!? 分かりやすいと思うんだけどなぁ」

 

「ロロナの弟子ならロロナが教えた方がいい。でも便利なスキルを教えてあげるよ」

 

「はいっ! お願いします」

 

 期待に胸を膨らませるトトリちゃんに一つのアイテムを見せる。

 

「ここにクラフトがある。使うと爆発するよな」

 

「はい。そしたらなくなっちゃいます」

 

「そうだ。アイテムは使用回数を使い果たすとなくなってしまう。でも、よーく見てろよ」

 

 俺は両手で握ったクラフトを引き裂くように左右に引っ張った。ロロナとトトリは爆発を恐れて目を手で覆うように隠したがいつまでも何も起こらない事にゆっくりと目を開けた。するとトトリの目の前には俺の右手と左手に一つずつ握られたクラフトがあった。

 

「あ、あれ? 一つだったはず」

 

「これは高速複製。デュプリケイトって呼んでる。錬金釜を介さずに錬金できるのさ。便利だろ?」

 

「凄いです!」

 

「何日かここにはいるはずだから教えるよ」

 

 こうして数日間のバカンスではないがアランヤ村での暮らしが始まった。アーランドの片隅にある小さな村は発展を遂げて、俺に希望を与えてくれた。この日々を無駄にしないようにしなければ




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