FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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『日の出』の謎

 バニッシュブラザーズと戦っている頃、部屋から本を持ち出したルーシィは、下水道まで逃げ、『日の出』の秘密を解き明かそうとしていた。本を読むスピードを加速させる風詠みの眼鏡を使用して日の出を読み解いていく。秘密に気づいたルーシィは一息つくと眼鏡を外し、この本は燃やせない、カービィの元へ届けなければと感じた。この屋敷から出るため、立ち上がろうとすると、地面を潜って追ってきたエバルーがルーシィの背後の壁から顔を出し、両腕を掴んだ。

 

「ぼよよよよ……普段から風詠みの眼鏡を持ち歩くとはお主もなかなかの読書家よの」

 

「やばっ!?」

 

「何を見つけた。さあ言え! 本の秘密は何だ!?」

 

 エバルーはルーシィに白状させるため、両腕を引っ張り、苦痛を与える。痛がるルーシィはそれでも白状せずエバルーに対して文学の敵だと言い捨てた。それにエバルーは腹を立て、更に腕を引っ張り痛めつける。ルーシィの腕はミシミシと音を立て始める。

 

「宝の地図か!? 財宝の在処か!?」

 

「……」

 

「言え! 言わんと腕をへし折るぞ!」

 

 沈黙を守っていたルーシィは突然エバルーの方を向くと、べーっと舌を突き出してエバルーを愚弄する。エバルーの怒りは頂点に達し、腕を引っ張る力を最大限に強める。ルーシィは声を上げて痛がり、顔も余裕が無くなると苦痛に悶える。エバルーは腕を引っ張りながら怒りを叫ぶ。

 

「調子に乗るなよ小娘が! その本は吾輩の物じゃあ! 吾輩がケム・ザレオンに書かせたのじゃからな! 本の秘密だって吾輩のものなのじゃ!」

 

 エバルーが怒りを叫び終わった次の瞬間、エバルーの左腕からボキッという骨の音が聞こえる。そこにはエバルーの腕に拳を叩きいれるホム君の姿があった。エバルーが痛さのあまり、ルーシィから手を離すと、その隙を見逃さずルーシィはエバルーから距離を取る。

 

「ピコマスター、回復を致します」

 

「ホム君! ホムちゃん!」

 

 ルーシィに急いで近づいたホムちゃんはエバルーに痛めつけられたルーシィの腕に魔力を込めた手を当て、ルーシィの腕を回復する。ホム君はルーシィを守るように前に立つとエバルーと睨み合う。ルーシィも回復が終わると、腰の鍵を取り出した。

 

「形勢逆転ね。この本をあたしにくれるなら許してあげるわよ」

 

「文学少女の割に言葉の意味を間違えておる。形勢逆転とは勢力の優劣状態が逆転することだ。似たようなガキが2人増えたところで吾輩の魔法『土潜』は破れんぞ!」

 

 エバルーはそう言うと『土潜』を使って、地面に潜る。エバルーはルーシィ目がけて地面から攻撃し、攻撃しては地面に潜り、ヒット&アウェイでルーシィ、ホム達に攻撃の隙を与えない。

 

「この本に書いてあったわ。内容はエバルーが主人公の冒険小説。内容は酷いものだったの」

 

「吾輩が主人公なのは素晴らしいことだ。しかし内容はクソだ。ケム・ザレオンのくせにこんな駄作を書きおって。けしからんわ!!」

 

「あんた、無理やり書かせといて何でそんな偉そうなわけ!?」

 

「偉そう? 吾輩は偉いのじゃ! 書かぬという方が悪いに決まっておる!」

 

「あんたがケム・ザレオンを独房に入れてた間、彼はどんな想いでいたかわかる!?」

 

 エバルーの余りにも傲慢で自分勝手な考えについにルーシィの怒りは爆発し、叫ぶ。しかし、エバルーの考えはどこまでも、どこからも自分勝手な考えであり、変わるようなことはない。

 

「そんなもの、吾輩の偉さに気づいたに決まっておる!」

 

「違う! 自分のプライドとの戦いだった! 書かなければ家族の身が危ない! でもあんたみたいな大馬鹿を主人公にした物語を書くなんて作家としての誇りが許さない!」

 

「貴様、なぜそこまで詳しく知っておる」

 

「この本に全部書いてあるわ」

 

 エバルーは自分の予想以上に事を深く知っているルーシィに対して疑問を投げかける。するとルーシィは『日の出』を前に突き出し言い放つ。

 

「彼は最後の力を振り絞ってこの本に魔法をかけた」

 

 ルーシィの言葉を聞いたエバルーは、自分の今までの行動、言動が『日の出』に怨み辛みとして描かれているのではと予想するが、ルーシィに発想が貧困だと一蹴される。

 

「ケム・ザレオンが残したかったのはあんたへの言葉じゃない。本当の秘密は別にあるんだから!」

 

「なに!?」

 

「だからあんたにこの本を持つ資格なし! 開け、巨蟹宮の扉! キャンサー!」

 

 ルーシィが呼び出したのは二足歩行で人間の姿をしつつも背中から六本の蟹の足を生やした美容師風の姿をしている蟹の星霊、その両手には鋏が握られている。

 

「蟹……マスターの好物です」

 

「ルーシィ、今日はどんな髪型にするエビ?」

 

「空気読んでくれるかしら!?」

 

「蟹……?エビ……? ホムには理解できません」

 

「戦闘よキャンサー! あの親父をやっつけちゃって!」

 

「OK……エビ」

 

 ルーシィたちが一悶着している間、エバルーは頭を抱えていた。ルーシィが言った『日の出』に書かれているという別の秘密。それはもしかして、自分が今まで行ってきた事業の数々の裏側なのではないだろうか、もしもそれが評議員の検証魔導士にバレでもすれば、自分はおしまいではないか、と。それだけは避けなければならない。この場を勝利で収め、『日の出』をルーシィから奪い返すことで秘密の発覚を防ぐしか道はない。その考えに辿り着いたエバルーはポケットから星霊の鍵を取り出す。

 

「開け! 処女宮の扉。バルゴ! その本を奪え!」

 

「こいつ……星霊だったの!?」

 

 開かれた処女宮の扉から現れたのは、最初に出会ったゴリラメイドだった。バルゴの魔法『土潜』によって、今回も床の下から登場する。しかし、バルゴの後ろに何かがいることに気づき、その正体を見たその場の全員が声を上げる。

 

「あっ!」

 

「あっ!?」

 

「「マスター!」」

 

 気づけばいつの間にか、目の前にルーシィとエバルーがいた。状況は飲み込めないが、どうやら実は星霊だったあのメイド、バルゴが起き上がったため、仕方なく戦闘している間にエバルーが鍵を使ってメイドを召喚したことで偶然メイドに触れていた自分までこちらに移動してきたらしい。困惑しているところにルーシィがバルゴを退かせと命令してきた。とにかくやらねばとバルゴの服を掴んだままホム達に声をかける。

 

「ホム! パワーアイテム!」

 

「「了解しました」」

 

 ホム達がバルゴに攻撃を仕掛け始めたのを確認すると、服を掴んでいた手を離して、空中を飛びながらドナーストーンをバルゴに投げつける。ドナーストーンを受けたバルゴは電撃を全身に浴び、痺れでその場から動けなくなる。そこにホム達の魔法攻撃による追撃が直撃すると、手に消費されたドナーストーンが再び出現する。しかし、そのドナーストーンは先ほどよりも大きく、さらに強い魔力を放っている。それを掴んだと同時に地面に着地するとバルゴめがけて投げつける。流れるような連携攻撃にバルゴは為す術もなくやられるばかりだ。

 

「ホム! 下がれ!」

 

 その一声でホム達は横に素早く戻る。次の瞬間、ドナーストーンが炸裂し、先ほどよりも強い電撃がバルゴの体中を駆け抜けた。更に近くにいたエバルーにも電撃が走り、エバルーの身体は痺れて動けなくなってしまう。

 

「もう地面には逃げられないわよ! あんたなんて脇役で十分なのよ!」

 

 バルゴの壁が崩れ、電撃によって痺れているところをルーシィが見逃すはずはなく、持前の鞭でエバルーの首を縛り上げると、そのまま力で宙に浮かすように引っ張り上げる。そこに合わせるようにキャンサーが動き、宙に浮いて攻撃を躱すことも出来なくなったエバルーにとどめの一撃を刻み込んだ。

 

「お客様、こんな感じでいかがでしょう……エビ」

 

「こいつはいいな」

 

 キャンサーの攻撃によって気絶したエバルーの髪がつるりと切り落とされ、綺麗なスキンヘッドになっていた。思わず手を叩いて笑ってしまった。

 

「で、その本どうするんだ」

 

「カービィさんにあげるわ。そうじゃないと意味がないもの」

 

 エバルーの屋敷から脱出した四人は依頼主であるカービィの邸宅に向かっていた。ウインクをしながらそう言うルーシィに対して少々意味が分かっていなかったが『日の出』の秘密を知っているのがルーシィだけである以上、要らぬ口出しは出来ない。もちろん、本を燃やすことも出来なかった。

 

 カービィ邸に到着すると、カービィは家の中に迎え入れてくれた。ルーシィはそこで『日の出』をカービィに差し出す。受け取った直後、一瞬戸惑う表情を見せたが、依頼は本の焼却だとして、本をルーシィから取り上げると、自分で焼却すると言った。しかしルーシィはどこか寂しげな表情で言う。

 

「どうしてカービィさんがその本の存在が許せないのかわかりました。父の誇りを守るため――あなたはケム・ザレオンの息子ですね」

 

「……マジか」

 

 思わず声を上げてしまう。本を見つめながら握りしめるカービィ、ルーシィは続ける。

 

「この本を読んだことは?」

 

「いえ、父から聞いただけで、読んだことは……しかし読むまでもありません。父も言っていた駄作だ」

 

「カービィさん、ケム・ザレオンはその本を消滅させることを本当に望んでいるのですか?」

 

「そのはずです! 父はこの本を書いたことを恥じていた」

 

 問いに答えたカービィは父ケム・ザレオンとの回想を話し始める。31年前のこと、エバルーからの脅迫によって『日の出』を書かされていたケム・ザレオンが3年振りに家に帰って来た。家に帰るなり挨拶もなしにロープで腕を縛ると、「私はもう終わりだ。二度と本は書かん」と言って利き手の右腕を斧で切り落とした。そのまま病院に送られ、入院となったケム・ザレオンを若かりし頃のカービィは責め立てた。その後すぐケム・ザレオンは自害した。カービィはその後長らくケム・ザレオンを憎み続けていた。しかし年月が経つに連れて後悔が込み上げてきたという。もしかすればあの時にあんなことを言わなければケム・ザレオンは死ななかったのではないかという後悔である。ララン達はその話を無言で聞いて何も言えずにいた。そしてカービィは懐からマッチを取り出す。

 

「だからね、せめてもの償いとして父の遺作となったこの駄作を、父の名誉を守るためにこの世から消し去りたいと思ったんです」

 

「待って!」

 

 ルーシィの静止も虚しく、カービィはマッチに火をつけて『日の出』に近づける。あと少しでマッチの火が本につくという瞬間だった。『日の出』が宙に浮いて光を放つ。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 カービィの手を離れた本の文字が動き出す。DAY BREAKの文字が次々に入れ替わりながら、元あるべき場所に戻っていく。するとDAY BREAKの文字はDEAR KABYと並び替えられた。

 

「DEAR KABY……ルーシィ、これって……」

 

「そうよララン。ケム・ザレオン、本名ゼクア・メロン。彼はこの本に魔法をかけました。彼がかけた魔法は文字を入れ替える魔法、表紙だけじゃない、中身も全てです」

 

 『日の出』は自らの意思を持つように開いて、文字が本から飛び出す。それはまるで文字が躍っているようで、その美しさ、綺麗さにこの場にいる全員が感動していた。

 

「これが魔法……錬金術でもこんなことは出来ないな……」

 

 全ての文字が入れ替わり終わると本はスッと閉じ、カービィの手元に戻る。

 

「彼が作家を辞めた理由は、最低な本を書いてしまった他に最高の本を書いてしまったことかもしれません」

 

「私は……父を理解できていなかったようだ」

 

「当然です。作家の頭の中が理解出来たら、本を読む楽しみがなくなっちゃう」

 

「ありがとう。この本は燃やせませんね」

 

 カービィが本を手元に残すことを決めると、カービィは涙を流しながらルーシィ達に感謝を述べた。滅多に見ることが出来ない珍しい魔法を見ることが出来たからなのか、感動的な出来事を目の当たりにしたからなのか、気づかないうちに自分の目からもうっすらと涙が流れた。だがそれ以上に笑顔だったような気がする。

 

するとホムたちが唐突に切り出す。

 

「それでは、私たちは報酬を受け取ることが出来ません」

 

とホムちゃんが言う。続いてホムくんも。

 

「依頼は本の消滅です。しかし本はカービィ様の手元にあり、消滅させるという目的を達成出来ていません。よって私たちは報酬を受け取ることは出来ません」

 

何を言ってるのかちょっとよくわからない。それが率直な感想だった。

 

「ん?」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 ルーシィもカービィもマスターの自分でさえも素っ頓狂な声をあげる。ホムンクルスであり、金に執着のない二人だからこそ言えるセリフである。ルーシィはホム達を何を言ってるんだという目で見るが、ホム達の目はいつもと同じく純真無垢なものである。

 

「まぁ……そうだな。ホムの言う通りだ」

 

「し、しかし、そういう訳には」

 

「そうよ、せっかくの好意なんだから頂きましょうよ」

 

「ピコマスター、それをケチと言います」

 

「うっさいわね!」

 

 報酬を貰いたいルーシィと報酬は貰えないと主張するホム。2人の言い争いは数分間にわたって繰り広げられたが、結局はルーシィが折れて、報酬を貰わないことに落ち着いた。夫妻に挨拶をしてカービィ邸の玄関に向かって歩き、家を出ていく。ホム達も綺麗に一礼するとこちらを追いかけて邸宅を出てくる。ルーシィは未だに未練たらしい様子だったが、置いていかれないよう走って追いかけてきた。

 

 カービィ邸からの帰り道‐

 

「200万Jをチャラにするなんて信じらんない!」

 

「金なんていつでも手に入る。俺は魔導士じゃなくて錬金術士だからな」

 

「でも依頼を受けないとお金は貰えないじゃない」

 

「ギルドに帰ったら見せてやるが、ギルドの掲示板には依頼板の他に俺専用の依頼板がある。それを見て俺は色んなアイテムを作って渡して金を貰う。依頼に来るのはギルドメンバーか近所の人ぐらいか。まだまだ認知度がなくてな」

 

「そんなのズルじゃない!?」

 

「俺は仕事をしているだけだ。ズルなわけないだろ。てか流石に200万も稼ぐとなると結構な時間がかかる。俺だって貰いたかった」

 

 ラランとルーシィは口論を続けながら、シロツメの街、そしてマグノリアのギルドへ戻っていった。これにてルーシィ、および、4人チームの初仕事は報酬こそ辞退したものの全て解決、きっちり依頼をクリアすることが出来た。アトリエに帰りついた瞬間にギルドの錬金依頼を根こそぎ取って来て、ホム達と共に必死に調合をする日々が久しぶりに訪れたのだった。




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