FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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依頼納品と女王の帰還

「間に合わねー。ホムちゃん!虹の精油はあるか!?」

 

「ございません。お作りするにもタール液がございません」

 

「なんだと……ホム君、タール液の作成を頼む」

 

「了解しました」

 

 『日の出』の依頼から数日、錬金術士の本職である調合依頼をこなすため、ホムと協力し、忙しなく働いていた。あの素材がない、あの調合品がないと躍起になりながらコンテナを開けては閉め、開けては閉めを繰り返し、釜をかき混ぜている。時々、調合に失敗して爆発を起こして、全てが最初からになったりもしてストレスは最高潮に達していた。

 

「リーダスのやつ、魔法の絵の具とかいう作るのが面倒くさいもの頼みやがって……」

 

「しかし、依頼を受けたのはマスターです」

 

「ギルドメンバーの依頼は断れないだろ」

 

「マスター、お客様です」

 

「お客様!? まさか中々納品しないから怒って誰か来たか。ホムちゃん、ちょっとこっちの作業を頼む」

 

「かしこまりました」

 

 ラランは釜をかき混ぜるための棒をホムちゃんに手渡すと、玄関の方へ歩いていく。素材が散らばった床を踏み分けながら玄関に辿り着くと、まだ出来てないから帰ってくれと言う準備をして玄関の扉を開けた。

 

「悪いけどまだ出来てないから……失礼、どちらさまですか?」

 

 玄関を開けてみれば、ラランには見覚えのないピンク色の髪に青色の目をした超絶美少女が立っていた。面倒くさそうな顔をして出たラランも思わず驚いて敬語になってしまう。

 

「お久しぶりでございます。私、エバルー様の星霊でございました、バルゴと申します」

 

 超絶美少女の正体はエバルー邸で対峙したあのゴリラメイドだった。しかし、明らかに違う見た目と声ににわかには信じられないもので、疑いの言葉をかける。

 

「は? いやいや見た目からして違うんだけど」

 

「星霊は主人の望む姿になります。前の姿に戻りましょうか」

 

「いや、今のままでいい。で、何の用?」

 

「私、エバルー様の元を離れましてルーシィ様にお仕えしたいのです」

 

「そうか、エバルーはあの後、悪事がばれて捕まったもんな」

 

「はい。なので私の鍵をルーシィ様に渡してください。それでは」

 

 バルゴはそう言うと星霊界に帰ってしまう。手元に残された鍵を見て、アトリエに戻る。アトリエの中を振り返るとホム達がせっせと調合をしており、いつバルゴの鍵をルーシィに渡せるのだろうと不安になった。手が空いた時にしれっと渡せばいいか。

 

 それから数日後、全ての調合を終わらせ、依頼の品々を完成させた。それらを大きな箱3つに分けて詰め込み、ホム達と一つずつ抱えて、ギルドに向かっている。最近はマグノリアでも錬金術士の知名度が少しずつ広まってきたのもあって、近所の人には顔を覚えられて、話しかけられる程度にはなっていた。しかし、実際の理由は錬金術士という職業ではなく『妖精の尻尾』の魔導士だからである。街の人々からは何でも作ってくれる魔道士の人という認識なんだろう。

 

「いやいや、人気者は辛いな」

 

「あんちゃん! また木材頼むよ!」

 

「おにーちゃん! またぬいぐるみさんちょーだい!」

 

「マスター、今声をかけられた皆様の依頼を全て終わらせるためには1か月必要です」

 

「……マジかよ」

 

 冷や汗を流しながらも、市民の声に応える。そのすべてを聞いているホムは荷物を片手に市民の依頼をすべてメモしながら、歩いている。ようやくギルドが見えてきたころにはホム達のメモはびっしりと埋まっていた。そのメモを見て顔が青ざめるのが分かった。3人はギルドの前着くと荷物を一旦地面に置いて、荷物を整理しなおしてからギルドの扉を蹴り開ける。

 

「おらー調合依頼をした人はバーカウンターに集まれー!」

 

 蹴り開けられた扉に反応して、ギルドメンバーの注目が集まる。ギルドに大きな箱を持ってきたのを確認し、言葉を聞くと、待ってましたと言わんばかりに皆がバーカウンターに集まり始める。我先にと前に行こうとするメンバー達が順番競争で喧嘩に始める様子をちょうどバーカウンターに座って見ていたルーシィは驚いてミラに尋ねる。

 

「ミラさん、これって……」

 

「だいたい2週間に一回くらいあるラランの依頼納品よ。ギルドメンバーの依頼を一気に請け負ってはこうやって全員分まとめて納品するから毎回こんな感じなの」

 

「そういえば前に言ってたような……今度私も頼んでみようかな」

 

「頼むなら、依頼するものをこのメニューから選んで、紙に依頼を書いて依頼版に貼ってね」

 

「わー、この首飾り可愛い! こっちの指輪も!」

 

「凄いわよね、デザインも可愛いし、効果も凄いし」

 

「効果? そういえば前に貰った服も効果があるって」

 

「そう、ラランの作る装飾品、服とか指輪とかには色んな効果があるの。その装飾品そのものに付いてる効果とラランが素材から後付けした同じ装飾品でも違ってくる効果。ラランは全部指定すればその通りの物を作ってくれるわよ」

 

「ラランって意外と凄い人……?」

 

「えぇ、戦いは得意じゃないって言ってるけど、アイテムを使えば『妖精の尻尾』でも強い方だしね。本職も、ほら私の指輪、これもラランに作ってもらったのよ。可愛いでしょ?」

 

「いいなぁ、あたしも作ってもらお!」

 

「ルーシィならチームを組んでるし、ただで作ってくれるわよ」

 

 ミラとルーシィが話している真横でラランは必死にギルドメンバーの依頼納品を捌いている。あまりにも量が多すぎて、ホム達の手も借りながらやっているが、それでもまだまだ列は半分も捌き切れていない。

 

「次! グレイ!」

 

 呼ばれたのはグレイ・フルバスター。氷の造形魔導士でよく脱ぐ。いつの間にか脱いでいる。実力は折り紙付きだが脱ぎ癖のせいでよく問題を起こしている。そんな魔導士が頼んだものは氷属性の雪だるま型爆レヘルン。

 

「レヘルンな。はい。何に使うんだ?」

 

「おう、サンキュー。これで魔法の修行すんだよ」

 

「はい、次、カナ」

 

 次に呼ばれたのは、大酒飲みのカナ・アルベローナ。タロットカードを用いた魔法を使う魔道士。この日もカウンターには集まらず、大樽に入った酒を飲んでいた。

 

「カナ! 後詰まってるんだ、速く!」

 

「はいはい、うるさいわね」

 

「えーっとカナは、祝福のワイン、1樽」

 

「どうもー!」

 

「酒を頼むならもっと少量にしてくれ。次、ロキ!」

 

 次は月間ソーサラー調べのランキングで付き合いたい魔道士上位に位置するイケメン魔導士ロキ。光属性の魔法を使う魔導士である。今回も両脇に女性を従えて登場した。

 

「ロキはネイロンフェザーを10枚。はい」

 

「ありがとう。これで彼女たちに服をプレゼントできるよ」

 

「はい、頑張ってください。最後はエルザ! あ……いらっしゃいますでしょうか」

 

 勢いで乱暴に呼んでしまった。その名を呼ぶとギルド中が一斉に静まり返る。この場にいないならとすぐに依頼書を横に置いて次の依頼書に書かれた名前を読み上げようとした瞬間だった。先ほど品物を貰い、外に出ていたロキが走って帰ってくる。その顔は見るからに青ざめていた。

 

「エルザが帰って来た!」

 

「やばい、エルザの品物上手くできたかな……作り直した方がいいかも……」

 

 エルザが帰って来たということだけでギルド中は大騒ぎになる。するとズシンズシンと大きく響き渡る足音を立てて鎧を纏った赤い長髪の女性、エルザがギルドに入って来た。その肩には本人の何十倍はあろうかというほど巨大な魔物の角を担いでいる。誰よりも速くバーカウンターの後ろに身を隠すとエルザへの商品を見つめて震えた。そして見つかりませんようにと祈りを捧げた。、ギルドメンバーがエルザの帰還に戦々恐々の中、ミラだけがエルザに近づいていく。

 

「今帰った。マスターはおられるか」

 

「おかえり! マスターは定例会よ」

 

「そうか……それにしても貴様らまた問題ばかり起こしているようだなマスターが許しても私は許さんぞ」

 

「ララン、この人誰?」

 

「馬鹿! 今俺に話しかけるな! 彼女はエルザ、『妖精の尻尾』最強の女だ……」

 

 ルーシィがバーカウンターから覗き込んで、ラランに話しかける。ラランはルーシィの方を向くと、口に人差し指を充てるポーズをして、静かにするように訴えるが質問に答えないわけにもいかないので、小声で答える。

 

「カナ! 何という格好で酒を飲んでいる。ワカバ、吸い殻がこぼれているぞ! ララン!」

 

「は、はい!」

 

 ラランはなぜバレたのだろうと思いながらも、エルザの呼びかけに大きな声でキレのある挨拶をすると、バーカウンターから身体を差し出す。

 

「今日の活気を見るに依頼納品だろう。例の物は出来ているか」

 

「はいっ! 最高クラスの素材を用い、特性も指定通り。味も世界一であります!」

 

「後で頂こう。それより先にナツ、グレイ、そしてララン。三人の力を貸してほしい、ついてきてくれるな?」

 

 エルザがいつも通り取っ組み合いをしていたナツ、グレイ、そしてラランを仕事に誘うという趣旨の発言をすると再びギルドがざわつく。何故ならギルドの誰もエルザが人を誘ったところを見たことがないからである。普段から犬猿の仲であるナツとグレイは嫌がっていたがエルザの前では仲良しアピールをする他なく断れなかった。ラランはエルザに敬礼をしたまま硬直したまま動かない。

 

「ではララン、頂こう」

 

 エルザは話が終わると例の品の待つバーカウンターに座る。依頼品を入れた箱の中から、また一つ小さな箱を取り出す。その箱を開けると、フルフルと左右に揺れる大きなプリンが出てくる。ラランはそれが崩れないように気をつけながら、エルザの前に差し出す。

 

「ララバンティーノ・ランミュート特製、フルフルプディングでございます。品質はS120、卵、ミルク等すべてSランク素材で作らせていただきました」

 

 前に出されたプリンを見て、エルザも目を輝かせて、舌なめずりをする。それを横で見ていたルーシィ、ミラも思わずゴクリと唾を飲んだ。

 

「では……うむ! うむうむ。美味い。仕事の帰りに食べるスイーツは絶品だな!」

 

 エルザの差し出すスプーンに対して、プリンは一切の抵抗をすることなくと通り、その断面は濃厚さが示されるように気泡は全くなく輝いている。

 

「ありがとうございます」

 

「では次はマイスタータルトを頼む。特性はこれとこれとこれと」

 

「はい!」

 

 エルザはプリンを完食すると、手渡された紙で口を拭いて、ギルドを後にした。エルザが完全に見えなくなると一気に肩の力が抜ける。そこを畳みかけるようにルーシィが詰め寄る。

 

「ララン! 私もプリン食べたい!」

 

「えぇ……いつでも作るから今は休ませて」

 

「あんた、エルザさんに何されたのよ?」

 

「前に忙しすぎて、バレないと思って出来がかなり悪くなったやつを渡したら仕事がなってないってぼこぼこにされた。それ以来エルザの依頼は気が抜けないんだ」

 

「あの時のエルザ怖かったもんね」

 

「もう二度とあんな目には遭いたくない」

 

 プリンの皿を片付けながら、ミラ、ルーシィと会話する。その中で、ミラは先ほど、エルザが誘ったナツ、グレイ、ラランをメンバーを最強チームではないかと分析する。

 

「でもナツとグレイはギクシャクしてるとこが不安なのね。ラランが年長者としてまとめてあげてね」

 

「あいつら纏めるなんてエルザにしか出来ん。俺は言われたことをやるよ……あ、そうだ」

 

「ん?」

 

「ルーシィも来てくれ。それがプリンを作る条件だ」

 

「え!?」

 

「いいわね、それ。ルーシィがついていって仲を取り持ってあげて」

 

「えーー!?」

 

「はい決まり」

 

 翌日、準備を済ませた最強チーム、エルザ、ナツ、グレイ、ララン、そして無理やりついてこさせられたルーシィが目的の街へ向かうため、マグノリア駅に集合した。




登場した錬金アイテム

虹の精油

名前は虹だが見た目は黄緑色の油。虹とは色の意味ではなく用途の意味である。すべての用途に使用できる万能油であることから虹の精油と呼ばれている。

タール液

タールの実から錬金されるアイテム。タール液を素材に錬金されるアイテムも多い。魔法の絵の具が例である。

魔法の絵の具

非常に複雑なレシピからなる万能絵の具。自由自在に色を変換可能で全ての画家が欲する正に魔法のアイテム。しかし最初からタール液など錬金された品を素材とするため、最初から作るとなると3回の錬金をしなければ作れない。

ネイロンフェザー

中位の繊維素材。これを元に服を作ることが可能。およそ1枚から2枚で1着の服を作ることが可能。

祝福のワイン

ぶどう水から作られるワイン。飲んだ者の日ごろの鬱憤やストレスを消し去ることから祝福のワインと名付けられた。

フルフルプディング

その名の通りふるふると揺れる様が美しいプリン。味は品質によって大きく変化するため、人前に出す際には注意が必要。

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