東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
序章 Ⅰ
「おれ、大きくなったら絶対父さんに会いに行く!」
青いジャングルジム、そのてっぺんで拳を突き出している男の子がいた。
夏の風はぴゅうと吹く、いっぺんの雲もない青い空。
『おい、また始まったぜ!』
『よ!だいとーりょー!かっちょいー!』
『こらよせやい!俺らも一緒にされちまう!』
「うるせー!!!会うと言ったら会うんだバカ!!」
公園で遊ぶ子どもたちは、その男の子を囲んで指差し、囃し立てる。
その中で、男の子の話を聞いて笑顔で首を振る女の子がいた。
「うんうん!絶対に会えるよ!」
その子はいつも、男の子の隣で頷いてくれた。
その子はいつも、男の子の背中を押してくれた。
その子はいつも、男の子の味方でいてくれた。
だから、男の子は、女の子の事が好きだった。
「でも、***くんのおとうさん、おうちにいないんでしょ?」
「そう、だけど…ぜったいに、どこかにいる!おれは信じてる!」
「…そうだよね、信じていればいつか会えるよっ!私もいっしょに信じる!」
女の子が笑い、男の子が頷く。
周りの子どもたちは既に別の遊びをしていた。
男の子がジャングルジムから降りて来る、じゃり、と砂埃が舞った。
「ねぇ、お絵かきしようよ?」
「うん、いいよ」
女の子がスケッチブックとクレヨンケースを取り出す。
いつもこの会話をした後は、二人でこうやって絵を描いているのだ。
「クレヨン、新しいの買ったの?」
「うん、お母さんが買ってくれたの。いっぱい絵を描きなさいって」
四角い箱を開くと、12色の角が削れていないクレヨンたちが揃っていた。
どの色もピカピカで、キラキラと輝いている。
その中で、紺色と青色と黄色の三色だけ、角が削れ、周りの紙が破けていた。
「…やっぱり、お空を描くために?」
「うん!お月様とお星様が仲良い夜空を描きたかったから!あ、でも、お昼のお空も好きだよ?」
「本当にお空が大好きなんだね」
「お父さんが”てんもんがくしゃ”だったから。私もなりたいなぁ」
「なれるよ、***ちゃんなら」
「…そうだよね、がんばろっと!」
精一杯の笑顔を向けると、女の子は揃ってない歯をむき出し、にっこりと笑った。
男の子も、自然と唇の端が吊り上がっていく。
「じゃあ、お昼のお空を描こ!」
二人はそれぞれクレヨンを握り、スケッチブックを染めていく。
男の子が使ってない水色のクレヨンで空を描いている途中、女の子は月を書きながら言った。
「そういえばね」
「どうしたの?」
「いくら探しても見つからないものってね、他の世界を旅行しているらしいよ」
「え?どういうこと?」
女の子は男の子を見つめると、目を細めて微笑んだ。
「私たちに見つからないようにこっそりと、[ある場所]へ行ってるみたい」
「へ、へぇー…そうなんだ」
「昨日読んだ本にそう書いてあったの!」
ドクドク、と心臓の鼓動がだんだん早まっていく。
じりじりと熱い太陽。
すぐそこにある女の子の眩しい笑顔。
声が震えていたと思う。少しどもってしまったと思う。
「そこって、どうやって行くの?」
「うーんとね、私たちが行けるかどうかはわからないけど、でんしゃで行けるんだって!なんかとくべつな切符?みたいなものがいるみたい」
「ふぅん……その場所の名前は?」
「げんそうきょー!あれ、とうげんきょーだっけな…ごめん!ちょっと忘れちゃった」
ぽと。
青空を塗るのを忘れていた男の子の右手から、水色のクレヨンが零れ落ちる。
――げんそうきょー。
その名前の響きに、男の子はまた、鼓動が加速するのを感じた。
でもそれは、目の前の女の子のせいだったと思う。
「私たちもそこへ行けたらいいのにね。そしたら、***くんはお父さんに会えるかもね!」
――幼馴染はよく笑う女の子だった。
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