東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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水汲

魔理沙が帰った後、オレは桶を持って南へと向かう。

その訳は、至極単純、水を汲みに行くのである。

当たり前だが、人里に電気ガス水道は通っていない。

現代ではライフラインが整ってい過ぎる。幻想郷に来てからそんなことを思った。

 

(水魔法が使えれば簡単なんだがな)

 

と思っている内に井戸に到着。

人里にはあちらこちらに井戸があり、皆そこから水を汲んでいる。

オレの家の近くにも井戸はあるのだが、朝は人で混んでいる。

待つ時間を削減するために選んだのが、この井戸だ。

南門に近い場所にあるこの井戸は、集合住宅から少し離れた場所にあるため、使う人が少ない。

もちろん今も人の姿は見当たらない。

 

「グッジョブタイミングス」

 

桶の持ち手をロープで固定し、放り投げる。

底が見えない井戸、しばらくして着水する音が響いた。

少し時間を置いてからロープを引っ張り、滑車が軋む。

しばらく引くと、煌めきが闇の中に浮かび、桶が上がってくる。

 

「大漁大漁ゥ!!」

 

ロープを外し、二つ目の桶を固定し、投げる。

桶に水が入るまで煙草を吸うことにする。

朝はタールの弱い物を吸うと決めている。

煙草を選べる事のすばらしさを噛みしめる。

 

?『う、うらめしやー!!!』

 

と、不意に後ろから声がした。

振り向くと、そこには青い髪の女の子がいた。

 

「ん?」

 

?『あ、あれ?』

 

女の子は俺と目が合うや否や、目を丸くして慌て始めた。

青と赤のオッドアイだ、珍しい。

 

?『な、なんで驚かないの?』

 

「ん」

 

?『あ、えっと、その、あの……』

 

両手を前に組みながら、モジモジと身体を揺らす少女。

慌てたり照れたりと忙しそうだ。

もしかして井戸の水を汲みに来たのかもしれない。

煙草を携帯灰皿に突っ込み、ロープを引っ張る。

 

?『あ――わ、私も手伝います!!』

 

「……どうも」

 

というと、女の子はオレの隣に来て、ロープを握った。

ふわりと風の匂いがした。

それは女の子の匂いなのだが、葉っぱのような、不思議な香りだ。

アロマセラピーと言うものだろうか。

青色のシャツに青色のスカート、そしてオレの好きなショートカット。

年齢的にはオレよりも幼く、かといって寺子屋の子どもよりかは幼くない。年頃の女の子、と言ったぐらいだ。

 

「アンタは何処の子?」

 

?『ふぇい!?』

 

「だから、何処に住んでる子ども?」

 

少女は大きく飛び跳ねた。

そこまで幻想郷版「君どこ住み?」に驚いたのだろうか。

『金髪チャラ猿でもわかる!ナンパマニュアル・入門講座』に書いてあるであろうその台詞は、将来死ぬほど聞くことになるから慣れておいた方がいい。

 

?『えと、その、あの…』

 

オレの返答には答えず、ただただ慌ただしく手を振っている少女。

 

「いや、言いたくなければ別にいいよ」

 

?『ちが、うんですけど……すぐ、そこです』

 

指をさした所は、集合住宅の一角。

南門から少し離れているが、オレの家からはあまり離れていない。

 

(結構近くにこんな子がいたんだな)

 

そう思っていると、ようやく井戸から桶が引き上げられた。

 

「桶、頼む」

 

?『え、あ、はい!』

 

持ってもらってる間にロープを外す。

女の子は「お、重い……」と漏らしていた。

桶を受け取り、二つの桶を持つ。

 

「さんきゅ、かなり助かったよ」

 

?『い、いえ!!そんなことは……』

 

「じゃ」

 

?『あ――』

 

女の子とおさらばしてオレは家へと向かう。

水を汲むときに誰か一人いると楽になると知った。

 

 

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