東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「ハイヤー!!」
イメージを完了させ、掛け声とともに[引力]を発動させる。
カタカタと震えるチョークは、黒板の淵をレーシングカーの如く滑走し、オレの掌に収まった。
子どもたちから「おー!」と声が上がる。
『凄い凄い!』
『もう一回みせてー』
「見とけよ見とけよ」
もう一度イメージし、力を発動する。
「ソイヤッ!!」
すると今度は、ショタの持っていたプリントがふわりと浮かび上がり、くるくると螺旋しながらオレの手に収まった。
『うわ!』
「これが、ハンドパワーです」
すっげぇぇぇ!!と子どもたちは大盛り上がりだ。
手品師はこうやってタネも仕掛けも無い魔法で人々を盛り上げているんだな。
なんともいえぬ快楽だ。
『赤せんせー、それどうやってるの?』
「ん、これはだな、バッと手を出してピタっと集中し、グッと力を開放するんだ」
『なるほど!!』
『んー……』
一斉に子どもたちが手元にある筆やらノートやらを引き寄せようとしている。
その必死さがとても可愛らしい。
「頑張れよ、そのうち君たちも使えるようになるさ」
『『はーい!!』』
未来への愉しみを教えた所で授業をする。
内容は[国語]。
今は算数のみならず、他の教科も教えている。
「じゃあ、壱百八頁を開いて、音読をしよう」
§
授業終了のベルが鳴り、子どもたちはそれぞれ支度をして出て行く。
俺も黒板を消したり、資料を整理したりする。
教卓で作業をしていると、ふと、席の後ろで何人かの子どもたちがわいわい騒いでいた。
それはチサトの周りで、みな筆を持っている。
「何してるんだ?」
『あ、赤せんせー!』
『みんなで絵を描いているの!』
ポチとミントがぐいぐいとオレの手を引いてくる。
開かれたノートには数々の絵が描かれていた。
見るとそれは果物だったり、植物だったり、人だったり、本当に様々だ。
中には慧音の顔や、オレの顔、花壇の案山子[畑マモル]もある。
『……赤せんせーも、描く?』
チサトが筆を渡してきたので、受け取った。
「よし、良いだろう」
子どもたちはお題に合わせて絵を描いているようだ。
今回のお題は[リンゴ]。
(もらった。リンゴは美術の授業で死ぬほど描いたぜ)
まず、リンゴの輪郭を描いていく。
上部は穂先の細い線で、下部に行くにつれて強く太い線に。
どっしりとそれでいて軽いような、そんなイメージだ。
輪郭を終えたら次は影を付ける。
リンゴは球体に近い形をしているため、影のでき方は丸状に出来上がる。
日の当たり方に気を付け、なおかつリンゴの持つ立体感を出していく。
忘れてはいけないのがリンゴが接している床の影。
これも球体に近い形をしているため、それを意識して描く。
最後にリンゴの模様を描いて、
「出来たぞ」
子どもたちは既に描きおわっていたらしく、最後までオレの筆を見つめていた。
『うぉーー…』
『赤せんせー、絵描けるんだね』
「ほどほどに」
と言いつつも、子どもたちが描いたリンゴも中々だ。
ポチは豪快かつ強そうなリンゴ。
ミントは立体的で美しいリンゴ。
ビッチは可愛らしく、齧られたリンゴ。
チサトは小さいが、丸々としたリンゴとスライスされたリンゴ。
絵には大きく個性が出ていた。
『あたしもっと絵描ける!』
「お、じゃあ次は……そうだな」
?『みんなして楽しそうじゃないか、絵描きか?』
あ、けーねせんせー!と子どもたちの声がハモる。
オレは慧音の顔を見て閃いた。
「じゃあ次は慧音先生にしよう」
慧音「へ?」
「ただし綺麗に、美しく描くんだぞ」
『『はーい!!』』
慧音「え?え?」
一斉に筆が動く。
取り残された慧音は目をパチパチとさせていた。
§