東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
【魔法の森を歩くときの注意!】
① この森には強い魔法が掛けられています!
② 魔法によって凶暴化した妖怪・植物・昆虫がウジャウジャ!
③ 同じような景色が広がっています、迷子にならないように!
④ 変な物には決して触れない!精神を傷つけます!
そして…
⑤ 出来れば……立ち入らないように。
(魔法の森・入口にある立て看板より)
§
「ここが魔法の森とやらか」
目の前に広がる光景に、オレは変な気を起こしそうになる。
そこには、鬱蒼とした暗き森が視界を覆っていた。
入口だ。
まだ入り口なのだ。
「ゲロ以下の香りがプンプンするぜッ!!」
肌を突き刺すような寒気と、纏わりつくような悪寒。
魔力に包まれた魔法の森は、入口からその猛威を奮っていた。
そこに立て看板にも散々注意書きが書かれている。
――果たしてこんなところに人間がいるのだろうか?
「気が進まない……が、全速前進DA!!」
気合いで嫌な予感を吹き飛ばし、茂みに足を踏み入れた。
ぶにゃり、と柔らかすぎる感触。
足元に広がる苔の絨毯。
尋常じゃないほど湿気が素晴らしいため、苔は濡れているというよりもはや水に浸っているみたいだった。
(……)
再び湧き上がる嫌な予感をつばと一緒に飲み込む。
魔法の森は、確かに魔法と称するだけあって、今まで見たことの無い光景が広がっていた。
まず、木の根や幹が恐ろしい程太く、日光は木々によって完全に遮られている。
そしてその木に肖るようにして、怪しげな光を放つ花、毒々しい茸、刺々しい蔦が我先にと群生している。
協調性も欠片もない、まるで植物界のスラム街のようだ。
「う……」
日本人の『恐怖』に対する意識はずば抜けて高い。
ここでは妖怪に出会う恐怖よりも、意味不明で悍ましい植物に対する恐怖だ。
(いや、そんな事言ってられないな)
恐怖する自分に鞭を打ち、足を踏み出す。
意外にも慣れてきたのか、最初に比べて歩くスピードは上がりはじめていた。
時々聞こえる咆哮や、ゴツイ虫の犇めきを除けば、後は少し不思議な生き物がいるだけだ。
さて、目的はもちろん魔法の森に迷い込んだ人間と出会う事。
森の中で騒ぎは起きていないように見える。
やはり噂の『人間』は、上手く魔物たちから逃げているのだろうか。
「ロープアクション!!」
露呈した木の根っこにロープを巻き付ける。
これは自身の歩いた場所に付けており、これを辿れば外へと出られる。
サバイバル術の基本だ。
「キュキュっと!!」
進みながらロープを巻き付けていく。
少しすると、木々や茂みの開けた空間に辿り着いた。
見晴らしのいい場所で、太陽の光が若干だが漏れている。
「……ん」
その中心に、石で出来た囲いと、燃え尽きた枝が転がっていた。
ここで人間が暖を取ったと思える跡だ。
「……まだ温かいな」
熱が残っていることから、先ほどまで使っていたと予想する。
更に、慌てて崩したような跡もある。恐らく妖怪に襲われそうになった時に消していったのだろう。
となると、まだ近くにいる可能性は低くはない。
「……ふむ」
掌から魔法によって岩を生み出し、それを椅子代わりにする。
蹴散らされたストーンサークル。
その散らばり方から、この人間は北の方へ向かったと予測できる。
となると、やはり北へと向かうのが妥当か。
リュックの中身を整理した後に、腰を上げる。
『ピグルグラリラ……』
「はいきたエンカウント!!」
背後の方から殺気を感じ、振り向くと、そこに妖怪はいた。
神社の森とは全く違う種類のようで、この妖怪は熊のような身体をしていた。
ただ、まったく違うのは、その大きさと、毛並み。
通常の熊の5倍はある。
毛色は紫と緑という毒々しい彩色に包まれている。
「……全くもってステキな色をしているな」
『グレルラリラ!!!』
魔熊は両手を広げると、風を切って突進してくる。
「焦んなよ、まだ始まったばかりだぜ」
オレは習得した属性魔法[土]によって岩を生成し、それを投擲する。
ボーリングサイズの岩が頭部に命中する。
が、岩は粉々に砕け、よだれを垂らした牙が肉薄していた。
「……ホ!!」
寸前でかわし、バックパックから素早く一本瓶を取り出す。
瓶の口から飛び出した布にアルコールを染み込ませ、ジッポライターを擦る――。
『ピギルギララ……ラ!!』
「ッ!!」
火が付く寸前に、魔熊が唸る。
――何かを飛ばしてきている?
それは、銃弾のような圧縮されたモノで、轟音と共にオレの身体を引き裂いた。
風圧にも似た感触。瞬時に[魔法]だと察する。
「なんでもありだな、この[魔法の森]は……!」
肩と腹に赤い筋が走る。
衣服をかすめ取った程度の攻撃だ、それほど深い傷ではない。
魔熊はもう一度低く唸り、鋭い咆哮を飛ばしてくる。
「ッ!!」
避けた風魔法は背後の木々を大きく抉り取った。
(直撃だったら死んでたな)
もう一度ジッポライターを擦る。
今度こそ火が付いた。アルコールを湿らせた布にしっかりと着火する。
魔熊はこちらに身体を向け、低い姿勢を取る。周囲を怪しい風が包み込んだ。
待っていれば、魔法が飛んでくるだけだ。
先にこちらから仕掛けてやる――。
「喰らえッ!!」
火の帯を引いて、火炎瓶が飛んでゆく。
クルクルと回転する炎の煌めきは、日輪を描きながら真っ直ぐ進んでいく。
咄嗟の飛来物。無防備にも、魔法の詠唱を中断することは出来まい。
『……グリラ』
「あっ」
魔熊は軽々しく身体を捻った。
ガラス瓶の炎は毒々しい毛並みを少し焦がす程度で、後方へと飛んで行く。
「……マジか」
『グリラリラオ……!!』
勝ちを誇ったかのように、ゆったりと2足歩行をする魔熊。
身体の周囲に鋭い風が渦を巻いた。
魔力を練り終わったのだろう。次に来る魔法はとびっきりデカイ奴だ。
直撃すれば今度こそオレの身体はズタボロに引き裂かれる。
「……」
オレは、右手を前に突き出した。
即座にイメージを、練る。
『グリラララ!!!』
――お前にオレは超えられねェ!!
そんな風に言われた気がした。
「……たかが熊に、やられてたまるかよ」
手に意識を集中させ、力をため込む。
魔法の森にいるせいか、いつもよりため込む魔力が大きい、気がした。
「――ハァァッ!!!」
突き出した掌へ溜めた力を、一気に開放する。
岩の魔法、とびっきりの幻想郷最大級の岩石魔法。
「……ドアホウ!!」
『グリラリ――ラァァァ!!?』
瞬間、目の前に大きな火柱が立ち上がった。
柱の中心にいる魔熊が魔法を中断し、耳をつんざくほどの悲鳴を上げる。
地面に転がった瓶の破片が炎の光を反射している。
魔熊にかわされた[飛んでいく瓶]を対象に、オレは魔法ではなく、[引力]を発動させた。
避け切ったと思い込んだ魔熊は、まさか避けたハズの火炎瓶が後部から戻ってくるとは思わなかっただろう。
結果的にオレと火炎瓶を繋ぐ一直線上に居たため、まんまと瓶に触れ、炎に包まれたのだった。
『グ、グラリラリ、ラ……』
「いくら風魔法でも、オイルに引火した炎は消せねぇだろうよ」
『グ、グガアオオオオオ!!!!』
暴れる魔熊は悲鳴を上げる。
その咆哮は魔法の森を揺らさんがばかりであった。
(…一旦ここを離れるか)
ジッポライターを仕舞い、北を目指してこの場を離れた。
§