東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
『プリュリュル!!!』
「ヤバヤバのヤバ!!」
魔法の森はやっぱりヤバい所であった。
魔の瘴気の匂いなんて既に忘れていた。
本当にヤバいのは、生息する生物の方だった。
逃げ場がない。八方から新手の魔法生物が出現してくる。本当に逃げ場がないのだ。
熊から逃げたと思えば、今度は鳥に襲われたり、更には人食い植物が蔓を伸ばしてオレを捕食せんとする有様。
「救いは……ないのですかッ……」
そして辿り着いたのが、これまたヤバそうな所。
目の前には、茂みが開けて、太陽の光が差し込んだ、明るい空間が広がっていた。
「たいよォォォォォォ!!!」
久しぶりの太陽に胸を躍らせる暇なんてありもしない。
『フシュウ~~~』
「ファ!?」
一気に空間が多彩な粉末に包まれた。黄色や紫、緑黄色など、それをまき散らすのは木々に生える魔茸だ。
見るからに「毒ですよん」と言わんばかりの胞子が空間を虹色に染める。
『ピィ!!ピィ、ピ………ィ』
「ヒエッ…」
その残酷さは素晴らしいもので、太陽の光を浴びようとした小鳥が、魔茸の胞子をもろに被ってしまうと、一瞬にして地に落ちた。
その小鳥を待ち構えていたかのように地面に生えた肉食植物が蔦で小鳥を引きずり込んでいく。
うん、やばい。魔法の森、マジやばい。
茸は直射日光がある場所では群生しないハズなのだが、メチャメチャ元気に育
っている。なぜ?
(食物連鎖か……なんと悍ましい)
彼らの逆鱗に触れまいと、息を殺して遠ざかる。
§
『ピキニキニキ』
「うぉぉぉッ」
木々から落ちて来る電気を帯びた蓑虫の雨。
必死の思いで避ける。
『マイマミマイマミマイマミ』
「うげええええッ」
苔を引きはがして出土してきた蟻の軍隊から逃げる。
脚が非常に遅いのが幸いか。
『グオォォォォォ!!!』
そして現在、オレは得体のしれない咆哮を浴びせられていた。
森全体が咆哮によって振動し、動植物たちも一目散に逃げているのが分かる。
オレを襲っているのは、紅い巨大な飛竜だった。
「こんなのッ、在りかよッ!!」
木々をなぎ倒す音が響く。
魔法の森の木々はひとつひとつが大木のように太い。それをいともたやすく倒すとは、この竜こそマジでやばい奴だ。
今ここに大剣があるならばうまい事突進をガードし懐で抜刀溜め斬り一択なのだが――。
ここにある物は[火炎瓶]と[土魔法]と[引力]。勝てるのか?
『グオオオオオオ!!』
「いッ!?」
咆哮と共に背後から煌めきが沸き起こった。
咄嗟に地面に滑り込む、頭の上を膨大な熱量が過ぎていった。
轟音、木々の倒壊、ぱちぱちと燃える音。
「ゲームの世界なのか? これは……」
『ゴゴウガ……』
「…とりあえず、挨拶返すぞチキショウメイ!!」
火炎瓶の布に着火し、飛竜に投擲する。
一直線に顔面に命中し、飛竜は円状の炎に包まれる。
「……やったか?」
『グオオオオオオウ!!!』
「ですよね」
火属性の相手に火で攻撃するのは野暮な話だ。
おとなしくスタミナを二倍消費して走る。
今の反撃で飛竜はオレのことをはっきり敵だと認知したようだ。更に咆哮を上げ、口から炎を漏らしながら突進してくる。
「……これ、打開策ある?」
『キシャアアアアアア!!!』
ある訳ねえだろバーカ、と言われているような気がした。
本格的に詰みかけている。
先ほどの戦いもあれば、道中で襲われてばかりで逃げてばかりだ。
この場の打開策を。飛竜を倒せなくても、撒ける方法は――。
『――――!!』
「――!?」
何かが聞こえた。
遠くで何か、音が聞こえた。
確かに、オレの神経はその極小音をはっきりと捉えた。
この飛竜の咆哮ではない。なぎ倒される木々の音でもない。
オレの聞き慣れた音。
はっきりというなら。
人間の声だ。
――こっちに走って!
「……だァ!!!」
目くらまし程度に、生み出した岩石を飛竜に投げつつ、木々の合間を縫って進む。
声のする方へ、地面を蹴る。
背後から相変わらずデカイ存在感が押し寄せて来る、知ったことではない。
とにかく、声のする方を目指した、それ以外に神経を使わない。
死に物狂いのオーバーラン。しばらくして前方に家のような建物が見えた。
?『――あそこまで来て!!』
「は!?」
唐突に木の裏から女の子が飛び出してきた。
幻覚ではなく、妄想でもない。
本当に、女の子だ。黒いキャップ帽を被った、女の子。
オレの手を、導くようにして細い手が掴んだ。柔らかな冷たい手。
『グラアアアアク!!!』
?『早く!!』
「…くっそ…!!」
§