東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
朝起きると、朝ごはんを稗田家にご馳走になることになった。
食卓に並べられたご飯や味噌汁、サラダと卵焼き。
阿求「あまり凝った物は作れませんでしたが…」
ナギ「あたしと阿求ちゃんで作ったの。残したら殺すわよ?」
「いただきまっす」
女性陣2人が作ったご飯は格別だ。
オレが作った料理とはくらべものにならない。
調味料の違いか、手間暇の掛け方か、それ以上に何かが全く違う。
要約すると、美味すぎてヤヴァイ、だ。
ナギ「でねー、あたしの家に大きな犬がいてさ、オデコって名前なの」
阿求「随分と可愛らしくて愛嬌のある名前ですね」
ナギ「ただ大きくてすぐ走ったりする元気な子なの」
阿求「ふふ、いつかそのお犬さんに会ってみたいです」
いつの間にか阿求とナギが仲良くなっている。
一緒にご飯を作ると女子は仲良くなれるのだろう。
老人「…………」
「……なんでアンタがここにいるんだ」
老人「……愚問だ、散れ」
対してこちら男性サイドには2人――老人とオレ。
昨夜に拳を交えたというのに、仲良くなるどころか敵対心が剥き出しになっていた。
明らかに老人はオレに殺気を送っている。それに耐えながら飯を食べる。目の前に壁があるようだ。同じ空間にいるはずなのに、この差は何なんです?
老人「……お味噌汁、美味しゅうございます。阿求様、ナギ様」
阿求「あら、ありがとう。今日のお味噌汁はナギさんが作ってくださったのです」
老人「ほぉ……ナギ様は自炊をなさっていたのですか?」
ナギ「えぇ、家の手伝いってトコだけど…ご飯はよく作ってたわ」
老人「……美味しいお味噌汁をありがとうございます」
ナギ「そんな!阿求ちゃん家の食材が美味しいからだって…」
阿求「じゃあ、二人の力って事にしましょう?」
――なんだ、このほのぼのとした空気は?
味噌汁の話だけでこれほど盛り上がれるのか?
いや、阿求とナギだけなら完璧だったはずなんだが、この老人がいともたやすくさりげなく会話に入り込めている。
明らかにオレとの対応が違うだろ、なぁ?おい。
阿求「……どうしましたか?ミナト様…」
ナギ「……口に合わなかった?」
2人の悲しげな視線が向けられる。
「……いやそんなことは無い、美味いぞ」
オレは味噌汁をかき込み、卵焼きを割って頬張る。
ふんわりとした食感にとろりとした半熟加減、しょっぱ過ぎずほんのりと甘い。
「この卵焼き、特に美味いな」
何気ない一言。
目の前にいた阿求が、頬を赤くして手を当てていた。
阿求「あ、その、ありがとうございます…?」
「何故疑問形なんだ」
阿求「いえ、褒められることに慣れてないので……純粋に嬉しいです」
身体をくねらせて照れる阿求。
その姿はまさに乙女だ。とても可愛らしい。
しかし、すぐさま刺さるようにして飛んでくる二つの殺視線。
ナギ「……負けない」
老人「……殺す」
(これ、もしかしてルートが決まるのか?)
阿求ルートかナギルートか老人ルートの三択が目の前に浮かぶ。
真っ先に選ぶなら阿求ルートだが、ルート選びは慎重にしなければならない。
もしかしたら死亡フラグに直結しているかもしれない、老人ルートとか地雷を笑顔で踏みに行くようなものである。
「……やっぱり朝ごはんは和食だな」
誰のルートにも引っかからない言葉を選ぶ。エロゲならば孤独死エンド。タイトルへ戻る。
オレは白米を噛みしめながら、幸せを噛みしめた。
§
ナギ「お世話になりました」
ぺこりとナギが頭を下げる。
治療に睡眠、食事をとらせて貰ったオレ達は、阿求と(いてほしくなかったが)老人に挨拶をする。
阿求も同じようにし、(消えてほしいが)老人も同じように頭を下げた。
阿求「またいらしてくださいね、いつでもお力になりますから」
ナギ「また阿求ちゃんとご飯作りたいから、すぐ来るね」
阿求とナギが軽く抱き合う。
ここまで仲良くなってしまうとは、女の子とは凄い生き物である。
取り残されたオレは「散れ」と言わんばかりの老人の睨みを受け流し、門へと向かう。
挨拶を終えたナギは、オレの隣へ付いて来る。
ナギ「ちょっと、待ってよ」
「待ってただろ」
ナギ「私、まだ阿求ちゃんと話したかったのに…」
「それならあそこに残ればよかっただろ?」
ナギ「…だってアンタが行くから……」
もごもごと言葉を濁すナギ。少し悪いことをしてしまったが、一刻も早くオレはあの老人から離れたかった。まあ、またすぐに稗田家には行ける。
天気は快晴。所々で露店が開かれたり、洗濯物が干してあったりといつもと変わらない光景。
これからオレは家に帰ってナギのその後について考えなければならない。
「なぁ、お前、これからどうするんだ?」
ナギ「え?どうするって?」
「家とか、仕事とか、色々とあるだろ。そういったものはどうするつもりなんだ?」
ナギ「うーん……そうね」
少し考え込んだナギだったが、すぐさま人差し指を俺に伸ばした。
相変わらず頭の回転が早い。
ナギ「とりあえずミナトの家に居候して、それから仕事を考えようかしら」
「……家、来るのか?」
ナギ「ええ。悪い?」
悪くはない。
実際外の世界でもナギは何度かオレの家に来ている。
2人きりにも慣れているし、今更恥ずかしいって訳でもない。
「…早く家を見つけてくれ。いつまでもいられると困る」
ナギ「なぁに、それ。アタシに見られたくない物でもあるの?」
「別に、強いて言うなら[何にもないから]だな」
「よく分かんないわ」
別に面倒というほどでもないが、某巫女やら某魔法使いやらが家に来た時、彼女らはどんな反応をするだろうか?
「また面白い外来人が来たぞ」ということで天狗に情報を売ったりしそうだ。
ナギの未来の安寧を祈っておこう。
「ほれ、着いたぞ」
自宅へと到着。南京錠(今まで掛けてなかったが警備強化のため)を開錠し、ナギを先に入れる。
ナギ「……やっぱり少し前の時代みたいね」
「あぁ、明治初期って感じだな」
靴を脱いで上がると、ナギはきょろきょろとしだした。
多分光熱を見ているのだろう、その目は驚いたように開かれている。
ナギ「なんで電気が通ってないの?」
「お前、頭いいキャラだろ?」
ナギ「舞台設定だと思ってた。本当にライフラインが通ってないのね」
「そんな気持ちでは幻想郷で生きていけないぞ」
ナギ「魔法の森で生きていたから大丈夫よ」
今のナギなら無人島に放り出されても生きていけそうである。
さて。
身体は稗田家で綺麗になっているため、風呂も洗濯も必要ないだろう。
ただ、人里で生活するためには生活必需品を買う必要がある。
金はオレが用意するとして、果たして彼女が幻想郷(こっち)のセンスを認めるだろうか。
「じゃ、お前の服とか買いに行くか」
ナギ「服?あぁ、皆が着ている和服ね」
「そ、入里者キャンペーンとして初回は俺が奢る」
ナギ「ピンクのとびっきり可愛いのが欲しいわ」
高飛車で傲慢なお嬢様は変わっていないようだ。
ナギ「今失礼な事考えてるでしょ」
「……別に」
§