東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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ナギ「どうかしら?似合ってる?」

 

「あー、似合ってるよ」

 

ナギ「やっぱりそうよね!選んでよかったわ」

 

お気づきだろうか?

このやりとり、既に6回目なのである。

オレの前をくるくると回りながら歩くナギ。

後ろの淡いピンクの和服にオレンジ色のリボンが揺れる。

束ねられた金髪には簪が付けられていて、普段の服、というよりもお祭りに行くような恰好だ。

そんな和服を彼女は大層嬉しそうに回りながら披露している。

もちろん通行人からは、

 

『あの女の子、かなり上玉だよな』

『夜空いてねぇかなーおれもなー』

『パツキンチャンネーまじぺろぺろ』

 

かなりの高評価のようである。

大学時代でもナギはモテる方ではあった。ヤンキー系大学生をホイホイしてしまうほどにルックスと知的センスともに恵まれていた。

まあ、あの性格が故に彼女は来るもの全員突っぱねてしまったが。

 

ナギ「この和服の模様いいわね」

 

ナギが和服の模様をなぞりながら言う。

斜めに線が絡み、幾何学的な模様が広がっている、俗にいう[綾模様]だ。

数ある和服の中から、ナギが3時間かけてようやく選んだのが、あの和服。

中々に渋い織模様だが、それを難なく着こなしてしまうナギが恐ろしい。

 

「だから、似合ってるって」

 

ナギ「分かってるわよ。だからもっと言って?」

 

承認欲の強い女だ。

さて、和服を始め、寝間着などの服から、洗剤などの日用品まで抜けもれなく買っていく。

オレの家に済ませることは可能だが、それは苦渋の選択になる。

 

(慧音や妹紅に見られたらなんといわれるんだか……)

 

慧音は「夜はほどほどにしておけよ」と冷静に返され、妹紅は「へぇ~アンタやっぱり面白いな」と囃し立てられることだろう。

面倒な芽は出来るだけ摘んでおかなければならない。

 

『お、お姉ちゃん可愛い服だねぇ』

 

ナギ「ふふ、でしょう?」

 

その場でくるりと回り、にっこりと笑うナギ。

回り過ぎて目を回さないのだろうか。

米屋の兄ちゃんとナギはそのまま談笑に入っていく。元々コミュニケーション能力の高い彼女は、人を引き付けてから会話に運ぶのがとても上手い。

しかし、かれこれナギが会話をして立ち往生するのはこれで4度目である。

 

(美しいことは罪なのだッ!)

 

オレはそこらへんの八百屋を凝視し、どの野菜が安いかを調べる。

今日は人参とじゃがいもが安い。

一週間分買い込んでビタミンAとビタミンCをたっぷり吸収してお肌を綺麗にしよう。

そんな録でもない事を思っていると、

 

?『おや、ミナト殿』

 

「おっす、狸さん」

 

向こうの方からやってきたマミゾウ。

昼間の人里であるにも関わらず、警戒心の無い呑気な狸である。

 

マミゾウ「残念じゃな。今は立派な人間じゃ」

 

ホホホとマミゾウがそこにない尻尾を撫でるしぐさをする。

 

マミゾウ「しかし、もう春は過ぎたようじゃなぁ」

 

「全くだ」

 

黄色のノースリーブと臙脂色のスカートに身を包んだマミゾウが八百屋に並ぶ野菜を見ながら言う。

その容姿から見れば自身も春が過ぎている事を前々から知っていたようだ。

 

「外の世界は夏くらいか」

 

マミゾウ「さぁ、どうじゃろう。儂が外の世界にいた頃の冬は雪があまり降らなかったぞ。なんでも、例年稀に見る異常気象だとか」

 

「へぇ……って、アンタ、外の世界から来たのか?」

 

マミゾウ「なんじゃ、知らなかったのか?儂はれっきとした[外界の妖怪]じゃよ。と言っても、京都が日本の首都になるまでじゃが」

 

「つくづく驚かされるよ、アンタには」

 

マミゾウがオレと同じ外界出身だとは。

幻想郷に来ても順応している彼女を見る辺り、やはり幻想郷は妖怪にとって住み心地の良い世界なのだろう。

オレも早く今の生活に慣れなくては。

 

 

ナギ「――ミナトッ!!?」

 

 

と、突然。

息を切らした声でナギがオレの腕に抱き着いた。

なんだなんだ、とナギを見ると、彼女は碧眼の鋭い警戒の色を示しながら、握りつぶすようにマミゾウを睨んでいた。

 

「どうした、ナギ」

 

ナギ「どうしたもこうしたも無いわよ!!」

 

血相を変えているナギの目はマミゾウから離れる事無く、矢のように向けられている。

マミゾウも驚いた様子だが、困ったように眉を細めていた。

 

ナギ「この、人……人間じゃ――ムグッ!?」

 

ふわりと風が吹いた。

それは、音もなくマミゾウがナギに肉薄し、その薄ピンクの唇を右手で優しく、しかし力強く押さえつけていた。

一瞬の出来事に、オレは目を奪われる。

ナギの警戒色が、畏怖色へと変貌した。

 

マミゾウ「ふぅむ……これが[噂の小娘]かえ?なかなかのチカラを持つようじゃの」

 

「ん、んーーー!?」

 

マミゾウ「どれ、ひとつ味見でもしてやろうか――」

 

じっくり、ゆっくりと舐めるようにナギの顔を覗き込むマミゾウ。

押さえられたナギはまるで操り人形のように、動かない。

 

『何だ、どうした?』

『女性同士の喧嘩みたいよ…』

 

ぞろぞろと周囲の野次馬が集まってくる。

 

「人だかりができ始めた。やめとけ、マミゾウ……ッ!」

 

オレが口を挟み、マミゾウは視線をこちらに向けた、瞬間。

ぞくり、と全身に氷が当てつけられた感触。

その時の目は、今まで見たことの無い、まるで草食動物の様子を眺めている肉食動物のような、非常にはっきりとした獰猛さが込められていた。

 

マミゾウ「……」

 

「……」

 

やがて、口元がゆっくりと歪み、恐怖と呼べるオーラが消えていく。

 

マミゾウ「冗談じゃよ、ただ少しだけ悪戯したかっただけじゃ」

 

マミゾウが口元から手を離すと、ナギは糸が切れてしまったかのように、その場へ座り込んだ。

少しやりすぎてしまったのう?とマミゾウが笑う。

 

「ナギ、大丈夫か!?」

 

肩を抱きながらナギに声をかける。

彼女はかたかたと、小さく震えていた。

 

ナギ「……なに、あの人」

 

「あぁ、アレはただの化け狸だ。人間の里にいるけど、害はないはずで」

 

マミゾウ「違う、そういうことじゃないの」

 

首をぷるぷると振りながら声を絞る。

はっきりとした怯えが、彼女の顔に現れていた。

 

ナギ「魔法の森の魔力……それらとは比べものにならない程、”あの人の中に何かがある”……それが、私の心を握りつぶすような、いいや、もっと、溶かしているような気がするの」

 

「……どういうことだ?」

 

「あの人――妖怪だけど、今まで感じた中で”嫌なチカラ”を感じる」

 

心を握りつぶす何かを振りほどこうと、ナギはもう一度マミゾウを睨みつけた。

それをマミゾウは涼し気な表情で、しかし何処か光悦に浸っているかのように口元を釣り上げて見下げている。

 

マミゾウ「…噂に違わぬなァ……ふむ」

 

何か考えるような素振りをみせるマミゾウ。

 

「……悪い、ナギは妖怪に敏感なんだ」

 

マミゾウ「いやはや、若い者達に水を差した儂にも非がある、非を詫びよう」

 

そういうと、マミゾウは被っている藁帽子を掴み、目元を隠した。

背中を向けて歩き出した所で、そうじゃ、とマミゾウが口を開く。

 

マミゾウ「困ったらいつでも儂の所にくるんじゃぞ、いつでも相手してやるからな――御船ナギ殿」

 

言葉を発せないオレ達に構わず、マミゾウは去っていった。

遠くなっていく影はやがて消えた。

 

ナギ「…この人里、何かが……」

 

ナギの声は依然として震えていた。

 

 

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