東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「こうほッ!!」
妹紅の正拳突きに合わせて脚を突き出し、身体を90°回転させる。
風を切る音と共に、オレの身体は拳の隣にあった。
「はいほッ!!」
間髪入れずにコンパスで円を描くように脚で半円を描く。
そして力を入れる。
身体が自然に動く、妹紅の背後に回り込む。
妹紅「だいぶ形になってきたじゃあないか」
「それはどうもパンチ!」
妹紅「だが、まだまだだな」
不意打ちをもろともせず妹紅は屈んで避ける。
それを読んで腰めがけて蹴りをする、それも読まれていたようにバック反転によって蹴りは空を薙ぐ。
距離が開いても、もう一度、攻める。
「ホイッさっさ!」
妹紅「ほいほい!」
「オラオラオラオラオラ!」
妹紅「見え見えだ」
「ナニッ!?」
妹紅「脚」
右足に強烈な足払いが繰り出され、なすすべなく重心を失って転んだ。
妹紅の予告を聞いたところでその真意を掴み取るのには時間がかかった。そして、その時間は隙となり、命取りとなった。
妹紅「短期間でだいぶ強くなったな、飲み込みが早い」
ベンチに腰掛け、煙草に火を付ける妹紅。
オレはその場で寝っ転がりながら、煙草を咥える。
「ほらよ」と妹紅の情けもの炎が上がった。
妹紅「まだ粗削りな部分もあるが、それも時間の問題だな」
「……」
妹紅「何だ、悔しいのか?」
「……男の子だからな」
二、三回煙を吸い込み、吐く。
温かい夜風を感じながら、満天の星空を仰ぐ。
――南の空に見える、さそり座。天の川沿いに見えるその正座は、アンタレスという赤い星を心臓に持っている。
理科概説で教授がそんな話をしていた。それを今思い出す。
「懐かしいな」
ぽつり、とそんな言葉が漏れる。
妹紅はオレをみつめ、カッカと笑う。
妹紅「ミナトと初めて会ったのがここだったか」
「いきなり煙草を求められて吃驚したぞ」
妹紅「いやあ、あんときはお前から同じ香りがしたからで」
「出会っていたのがナギだったら面白かったかもな」
妹紅「そりゃあ面白いさ。今頃彼女は私に染まっていたな」
何とも説得力のある言葉だ。
ナギは染まることはないが、信用した人間にはころっと付いて行ってしまう。妹紅には人を懐柔する力もある。おそらくこのサバサバしつつも放っておかない性格が故だ。
妹紅「そういや、覚えてる?」
「何がだ?」
妹紅「今の自分に満足しているわけ?」
「……は。そんなことも言ってたな」
妹紅と知り合ってそれほど経っていないはずなのに、ずいぶん昔のことに思えた。
幻想郷に来てから、いろいろなことがあって、記憶が濃いのだろう。
妹紅「で。幻想郷に慣れてきたであろうミナトくんの答えは?」
煙を吐く妹紅の顔はなぜか嬉しそうだ。
まるでオレの答えを予想しているように。
「答えはまだ出てないよ。オレはまだ何一つとして手に入れてない」
妹紅「だろうね」
「言わせたんだろ」
妹紅「ま、焦るなよ。まだお前は始まったばかりだ」
「年寄り臭い台詞だな」
妹紅「実際年寄りだからな。何に寄っているかは知らんが」
よくわからない彼女の答えは、煙とともに空へと昇っていく。
消えていく白い吐息。
オレはただただ、それを見つめていた。
妹紅「さ、お稽古の続きだ。今回は受け身について」
「オレがやられること前提の練習だな」
妹紅「人間なんでもやっといた方が得だ。そうだろう?」
まるでオレの答えを予想して遊んでいるようだ。
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