東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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暇人

朝。

筋肉痛で身体が重い。

特に脚に痛みが集中しており、歩くのもやっとである。

 

「……このへんに、ストレッチパワーが溜まってるな」

 

ナギ「変な事言ってないで早く手伝ってよ」

 

昨日の残り飯を温め、ナギと二人で食べる。

外の世界の飯より味付けは薄いが、それもまた一興。

 

ナギ「こっちのご飯は美味しいわね」

 

ナギもお気に召したように、ご飯を食べる。

オレは味噌汁と漬物を食べながら、ラジオの電源を入れる。

 

 

<今日の京都府は一日はれでしょう>

 

 

ラジオパーソナリティの女性が張りのある声で言った。

 

ナギ「京都、晴れなんだ……あ~お買い物行きたい!」

 

「少しぐらい我慢しろ」

 

ナギ「京都駅周辺で古着屋巡りしたい!」

 

「諦めろ」

 

ナギ「じゃあまたあの和服屋に行きたい!!」

 

「勝手に行け」

 

頬を膨らませるナギを無視し、朝飯を食べ終える。流し台の水の張った桶に食器をぶち込んだ。

食後の一服に煙草を取り出し、玄関を開放して火を付ける。

 

「……お、新聞」

 

足元に放り投げられていた新聞[文々。新聞]を開く。

相変わらず文字がびっしりと書かれた、完成度の高い新聞である。

 

 

【幻想郷に外来乙女が舞う!】

 

 

「…またか」

 

嫌な既視感を覚えつつ、灰を玄関先に落とす。

内容はもちろん、今朝飯を食べているナギについてだ。

[魔法の森から来た、魔法少女!蜜柑色に身を包み、人里に舞う!]と大きな見出し。

合ってはいる。だが何かが間違っている。それがこの[文々。新聞]の醍醐味だ。

 

「ナギ、お前のことが書かれているぞ」

 

ナギ「え?なになに!?」

 

光の速さでオレから新聞を奪い取る。飯を食ってたんじゃあないのかよ。

 

ナギ「……」

 

真剣な目つきでナギは新聞に目を通す。

文字を見ている時は凄く頭が良さそうなのだが。

 

ナギ「……何よ、これ」

 

数秒で全てを読み終え、ワナワナと震えだすナギ。

 

ナギ「私、有名人じゃない!」

 

「……バカだ」

 

文字を見ている時は凄く頭が良さそうなのだが、如何せんポジティブ過ぎるのがナギである。

目を輝かせ、オレの肩をびしばしと叩いてくる。

 

ナギ「やっぱり私は何処の世界に行っても認められるのね!」

 

「違うと思うぞ」

 

ナギ「や~ん、これじゃあ里を歩く時にはちゃんとして出ないと!」

 

「バカ野郎、話を聴け」

 

ナギ「もし『お嬢さん、今夜どうですか』なんてイケメンに言われたらどうしよう!断りたいけどついてっちゃうかも~」

 

「…もう知らん」

 

面倒なのでうぬぼれる魔法少女を放置し、靴を履いて外に出る。

太陽の日差しは、真上の分厚い雲に覆われていた。

 

 

§

 

 

「太陽よ、お前はオレに明日を約束しろ!!」

 

そんなこんなで人里の中心部へ着いた。

別にやることが無いので、また情報を収集しようという訳だ。

人里の朝は早い。老若男女問わず様々な人が歩いている。

 

『あ……一之瀬ミナトだ』

『今日も怖そーだ』

『そこもまたかっこいいぜ』

 

(…ふっ…)

 

人里の目も最初に比べて変わりつつある。

これもまたオレが里に受け入れられたことを意味しているのだろう。

オレもその中に混ざり、少し歩く。

里内はいつもと変わらず、やや忙しそうな光景が広がっていた。

 

(平和って最高だな……もうあんな思いはしたくないぜ)

 

魔法の森の出来事を懐かしく思っていると、見覚えのある少女がいた。

緑色の髪をした、白と青の巫女服のようなものに身を包んだ少女。

と、向こうで彼女が手を振っている。気付いたようだ。

 

?「こんにちは、暇人さん」

 

「出会い頭に呼ぶ名前じゃあないよな」

 

?「冗談ですよ。シャボン玉職人ですよね?」

 

「どうすればそんな間違いをするんだ?」

 

少女は口元を押さえて微笑んでいる。すごく楽しそうだ。

 

「アンタはまた宗教の勧誘でもしているのか」

 

?「アンタ、ではなく東風谷早苗です。しっかり呼んでください」

 

「……東風谷は」

 

早苗「早苗って呼んでください」

 

厳しいオーダーをしいられる。知り合ったばかりの女性を下の名前で呼ぶほどオレはウェーイ系ではないのだが、頑張ってみる。

 

「……早苗は、神を信じるのか」

 

早苗「もちろん。私は神ですから」

 

(オ〜ウ、なんて反応すりゃいいんだ)

 

両手で顔を覆いたくなる気持ちとはまさにこのことなのだろう。

信じる以前に、何も言えなくなる感じ。人間、自分の脳みそが限界を超えた時には、全てを放棄したくなるのだろう。今がそれだ。

 

「神が直々に賽銭を集めるとは、神道とは反するんじゃないか」

 

早苗「社長自ら営業に回っても何の問題もないじゃないですか」

 

「えらく現代的な発想だな」

 

早苗「私、もともと外の世界にいた人間なので」

 

「え」

 

この少女もオレと同じ世界にいたという。

意外にも、幻想郷は外の世界のすぐ近くにあるのかもしれない。オレといい、ナギといい、マミゾウといい。

 

早苗「ミナトさんは大学生でしたよね?」

 

「どうせ新聞から知ったんだろう?」

 

早苗「モチのロンですよ。ロンロンです」

 

「牛乳か」

 

早苗「好きだったんですよね、あの世界観。私は最初期の時オカが大好きでした」

 

意外な共通点から話が弾みはじめている。

宗教家とはあまり関わりたくない風習がある。結局「いい人」だと思っても、二言目には勧誘の言葉が飛んでくるからだ。

 

早苗「いろいろと語りたいので、一緒に神を信仰しませんか?」

 

「何でもかんでも結びつけすぎだろ」

 

予想は的中する。

波長が合う、というより現代人の発想をしているから、思考が似てしまうのだろう。

 

早苗「入って悪いことはないですよ。シャボン玉を吹くだけの人生もきっと薔薇色に!」

 

「断る。仕事はあるんで」

 

早苗「寺子屋の先生やりながらでも大丈夫ですよ」

 

「宗教やってる先生なんて嫌だろ、子どもに勧誘を促したらもうおしまいだ」

 

早苗「終わりの始まりですよ!除外して2枚ドローしましょう!」

 

外の世界で流行っていたゲームの話が幻想郷でできるなんて--食いつきたい衝動をぐっとこらえる。

どうせここで乗ったとしても、二言目には--。

 

早苗「じゃあ、また会いましょうよ」

 

「神は信じないと言っただろう」

 

早苗「少しずつ、その常識を変えてあげますよ」

 

「洗脳か?オレは神が大好きになってしまうのか?」

 

早苗「信じるか信じないかは、アナタ次第ですよ。ミナトさん」

 

そういうと、早苗の名前を呼ぶ声が聞こえた。

彼女はにこやかに笑うと、小さく手を振って人混みに消えていった。

残されたオレは、なんとも言えない疲れを感じていた。

例えるなら、友人とゲームをしまくって疲れた〜っていうような、不思議な感覚。

 

(久しぶりにあんなに喋ったな……)

 

東風谷早苗。

宗教家だが、幻想郷で一番話の通じる人間かもしれない。

 

「また……出会ってみるか」

 

あまり思いたくはないが、そう思ってしまった。

 

 

 

§

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