東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
本末転倒という言葉を思い出した。
幻想郷にきた理由は一つ。父親を探し出すこと。
いることは確定している(おそらく)ので、あとは探すだけ……であるのだが、なかなか進まない。
思い出したように聞き当たってみるものの、結果は散々だった。
「赤い髪をした男を見ていませんか」
『それは貴方のことではなくて?』
「赤い髪」
『うわ!赤い悪魔だ!逃げろ!』
「あ」
『セールスお断りします!』
「」
『近づかないようにしないとね。触らぬ髪になんとやら』
嘘だと思いたい。
父親の情報収拾がまるで進まない理由がこれだ。
里の人間はオレのことを「寺子屋の先生」と認識しているのだが、それと同時に「見世物」「触れてはならない存在」「悪魔」だと思っている。
こちらから話しかけようにも相手にされることがない。一方的な愛。なんと悲しい事か。
「赤い髪ぐらい、見た事ないもんかね」
メンタルが豆腐なので、寂しくなったらすぐに煙草を吸う。
二回煙を吐くと、すぐに気分が良くなった。壊れやすいが、治しやすい。人間はうまいことできている。
「身体もそのうち壊れそうだ」
筋肉痛全13箇所を摩りながら、煙草を吸っていると、ふと大広場の方が騒がしことに気づいた。
掲示板の前には人だかりが出来ており、いつも以上に人で溢れている。
人が集まる場所には、条件が二つある。
誰がいても居心地がいい場所と、何か面白いものがある場所である。今回は前者の中の後者だ。
「千里眼!」
煙草の火を消して、人混みに紛れて掲示板の前へ行く。オレが行く時だけ人混みがなくなるのは嬉しいことだ。
掲示板には半紙に達筆で【大感謝祭開催!】と書かれていた。
どうやら人里で祭りが行われるらしい。
(幻想郷の祭り、か)
祭りなんて久しく行っていない。外の世界でも祭りは行われていたが、人間が多すぎるのとヤンキーやらDQNが多すぎて行く気にもなれなかった。
幻想郷の祭りならさぞかし楽しいことになるだろう。
そして、そこで問題が生じる。
——誰と行くか?
(……誰と行くか?)
祭とは、言ってしまえばなんでもありのバーリトゥードのようなもの。なんでもありということは、なにをやっても良いということ。
つまり、年頃の男子にとっては、最高で、甘酸っぱい思いを抱く、大事なイベントなのである。
ここで大事になってくるのは、もちろん、誰と行くか問題。
家族で行ってもよし。友達と行ってもよし。そして、気になるあの子と行ってもよし。
バーリトゥードに理性はいらない。脳みそで考えるのではなく、脊髄で考えるのだ。
(……慧音と行くか?)
オレ自身の魂に問いかけてみる。
もちろん答えは[YES!YES!YES!]である。
慧音が紺の浴衣に身を包み、長い髪を束ね、団扇を仰ぎながらオレの隣を歩く。
カランコロンと下駄の音。屋台のおっちゃんたちの声。子どもたちの無邪気な笑い声。
紺色の空、茜色の道。
そんな妄想が膨らんでゆく。
「すんばらしいッ!!!」
人混みが再びざわつく。もう知ったことではない。オレはオレだ。オレだけの世界だ。
祭りに行くことを決意する。
あとは、慧音をそれとなく誘い、それとなく祭楽しみだね〜と呼びかけ、期待値マックスの段階で祭を楽しむ。
最後は屋台の喧騒から少し離れた場所で、二人きり、他愛のない話で盛り上がって、良い雰囲気になって、そして——。
(ありがとう、お祭りさん)
妄想はとどまることを知らない。
普段真面目に過ごしているのだから、思想を自由にさせていただきたい。
と、ここまでは良かったのだが。
この時、オレは忘れていた。
帰路に着いた瞬間、頭の中をある映像が埋め尽くしたのだ。
『祭り?え?あ〜、ミナト、慧音さんと行くんだ?へえ〜、そうなんだア〜???』
彼女のことを忘れていた。
面白いことには全力前進駆け巡るシナプス的暴君を。
§