東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
巫女と魔法使いと
霊夢「本当にすぐ戻ってきたわね。有言実行ご苦労様」
魔理沙の箒から降りると、縁側でお茶を飲む巫女がいた。
もちろん真っ先にかみつく。
「妖怪が出るって先に言えよ、死ぬとこだったぞ」
霊夢「だって散歩に行くって言ったときのあんた、すごいキラキラとした目だったから、止めるのもかわいそうかなって」
「だからって火の中に飛び込ませる奴があるか!」
霊夢「いいじゃない、結局生きてたんだし」
結果論である。
魔理沙「まぁまぁ、こうして私に救出されたんだから、よかったってことで、な?」
「……」
にひひ、と笑う白黒の魔法使い。
魔理沙はオレの命の恩人なのだから何も言えない。
「まぁ、アンタが出した魔法が、アイツらを仕留めてくれたしな」
魔理沙「魔法?何のことだ?妖怪たちはお前が退治したんだろ?」
「は?」
魔理沙「は?ってなんだよ。だから――」
霊夢「ちょっと待って」
魔理沙とオレの問答に霊夢が割り込む。
霊夢「あんた、[スペルカード]持ってるの?」
「スぺルカード?」
霊夢「今、握ってるそれ」
手には、さっきポケットから取り出した一枚の紙。
少し厚手の装飾がされているが、絵札のような、カルタほどの厚みと大きさ。
ずっと握っていたらしい。
「これか?」
[スペルカード]には紅い枠が引かれ、絵のようなものが描かれている。
うまく表現できないが、昔の物語や絵本などに出てくる紋章みたいな、そんな絵。
魔理沙「私は光が森の中から出てきたから向かったんだ。ミナトがそれで妖怪を退治したんだろ?」
「……へぇ…」
退治。
あの妖怪達を取り込んだ光の球体。
このカードはあの妖怪たちをどうしてしまったのか。殺してしまったのか、はたまた別の何処かへ飛ばしてしまったのか、あるいは光に還してしまったか。
いずれにせよ、確実なのはこのカードには妖怪達を消してしまうチカラがあること。
霊夢「ミナト」
「なんだね」
霊夢の次のセリフは容易に想像できる。
「次にお前は『そのスペルカードを使ってみなさい』という!」
霊夢「そのスペルカードを使ってみなさい…ハッ!」
「……よし」
腕を組みながら驚く霊夢だったが、すぐさま鋭い目に戻る。
その眼つきから、彼女がオレの持つカードの力を見極めようとしているらしい。
「…どう使えばいい?」
霊夢「なんでも。ただ好きに叫んでスペルカードを掲げなさい。意識をカードに向けて」
簡単に言ってくれる。
こんな機会大学生活どころか生涯訪れなかったので狼狽するだけだ。
仕方なく、カードを指で挟み、仁王立ちをする。
「…Zパワーを全開に!!」
大事なのは雰囲気だ、イエスフインキ。
だが、無意識でやったことを意識的に再現するのは至難の業。
無我夢中で使った時を思い出しながら、カードを握る。
そして、一喝。
「――いくぞっ!」
指に挟んだカードから微量の熱と光を感じた。
「スペルカード――オン!!」
天へとスペルカードを掲げる、突如のことだった。
オレの頭上に現れた灰色の雲が幕を張り、それは円状に幻想郷の空を浸食していき、中心が黒色に染まった時、そこから紅い雷が発生したかと思うと、誰か女性のような声が聞こえ、呼びかけが終わるや否や空から一筋の閃光が空間を裂き、大地を劈き世界の二分する神の裁きの如き一撃が博麗神社に降り注ぐということはなかった。
霊夢「…………」
魔理沙「…………」
「…………」
現実は、妄想に相反する。
一抹の雲さえない青空に右手を掲げたまま、遠くで鴉の鳴き声を耳にした。
霊夢「何も起こらないわね」
魔理沙「何も起こらないぜ」
「…………」
謎だ。
さきほどはちゃんと起動したというのに。
何か発動する条件などがあるのだろうか、やはり時と場合によるもの?
もう一度命の危機に面しないといけないのだろうか――
と考えていると、ふと、風が強くなる。
魔理沙「うおっ」
霊夢「風?」
「…………?」
桜吹雪が舞い、オレの視界を染める。
――ドンッ☆
「どるべ!?」
突然、後ろから衝撃が走った。
脳髄が激しく揺れ、視界に映る全ての輪郭がずれる。
オレの身体はいともたやすく吹き飛ばされた。
視界にチラリと移ったのは、驚いた様子の霊夢と魔理沙。
そして――吹き飛んできた一本の桜の木。
こんなに立派な木がなぜ飛翔してくるんだ?
それもオレに向けて?
霊夢「――ナト!!」
魔理沙「――丈夫か!?」
(……………)
オレの意識は、簡単に暗い底へと引きずり込まれていった。
§