東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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第17話

『お母さんは、お父さんの後を追うね』

 

 

突然の父親の失踪。

それは本当に突然の事で。

何の前触れもなく。何の理由もなく。

 

父親の失踪が生んだ波紋は、音のない小さなものだと思っていた。

 

 

『もう無理。アタシ、一人で生きていく』

 

 

波紋は連鎖した。

次第に大きくなった波紋は周りにいた人間すべてを狂わせた。

最初は母が。

次に姉が。

 

どん。

 

どん。

どん。

 

どん――。

 

波紋は大きくなって、津波になり、収拾がつかなくなった。

 

 

『今日から私がパパだ』

 

 

あの頃、オレはどのぐらいまで生きられるのだろうか?と考えていた。

オレが昔の記憶を上手く思い出せないのも、不安な生活がずっと続いていたから。

――父親はいない。その不安は、オレだけではなかった。

母親も後を追うように失踪した。

母の部屋に残されたのは、ばら撒かれた精神安定剤。

…今はどうしているかも分からない。何処かで生きているのかもしれないし、別の男でも作ったのかもしれない。

 

 

(………………)

 

 

残されたオレと姉は、養父と暮らした。

義父には家族がいなかった。

何故いないのか、は分からない。

とにかく、オレ達にとっては、その人が父親だった。

義父は、厳しい人だった。

厳格で小さな悪事も見逃さない、正義心に強い養父。

オレ達が悪い事をした時には、よく殴られたっけ。

そんな養父の性格を、姉は受け入れられなかった。

金槌でガラスを叩いてはいけない理由のように、繊細な姉の心に養父は強すぎたのだ。

 

 

(………)

 

 

養父は暴力的だったが、同時に文学的でもあった。

オレは色んな事を教えてもらった。

生きるために必要な知恵、先人の教え、処世術、そして娯楽――とにかく、色々だ。

そのおかげで、早くから大人の味を知ってしまったため、後の反抗期は荒れに荒れてしまった訳なのだが。

 

 

(……)

 

 

養父が父親であったことに、後悔はない。

だけど、もし過去に戻れるとしたら、幼い頃にこう聞けばよかった。

『元の父親と義父がどんな関係であったか』と。

この質問を聞こうにもタイミングがなかった。

父親としてよくしてもらってたし、聞くのも悪いと思っていた――。

 

 

『いいか、ミナト』

 

 

何度も脳裏に響く、低くハリのある義父の声。

そういえば、義父はよくこんなことを言ってたか。

 

 

『ミナト。夢ってのはな、生きるための道しるべなんだ。叶う叶わないじゃなくて、そこにあることに意味がある』

 

 

――夢。

オレの夢は、何だったのだろうか?

…いや、予想はついている、本当の父親に会うことだ。

父親に会った時、果たして何が起こるのだろうか?

父親に会えなかった時、果たして何が起こるのだろうか?

 

 

(…………)

 

 

――道しるべ。

現に今、オレはその道しるべを辿り、幻想郷に行きついた。

夢というものに向かった結果、こうして別の世界に来てまで何かをつかみ取ろうとしている。

オレが掴めるものはなんだ?

全てが終わった時、オレの手には何が残っている――?

 

 

(……やめだ)

 

 

考えることをやめる。

無駄な思考に時間を割くのはオレの悪いクセだ。

今は深く考える必要はない。

全ては出会ってからで遅くはないはずだ。

 

(……またな、みんな)

 

ここが自分の夢であることを自覚し、文字通りの白昼夢から目を醒まそうとする。

夢の中だけで出会える家族の姿は、消えていった。

 

 

§

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