東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「……ん」
文字通り、目を覚ます。
視界に飛び込んでくる、茶色の天井。
次に嗅覚が、伊草の香りを認知する。
最後に触覚が、柔らかな温かさを感じた。
どうやら、何処かの部屋で寝ていたようだ。
恐らく誰の家だかは、想像がつく。
「…気絶してたのか」
外は既に日が沈んでいる。
夜に浮かぶ桜は、冷たい世界を照らす小さな明りのように、淡く輝いていた。
と、そこへ反対側の襖が開かれた。
魔理沙「お!目覚めたか!」
「グモニン、魔理沙」
発音は『マリィ↑サァ↓!』みたいな外国人風。
魔理沙「あ?何言ってんだ、今は夜だぜ。こんばんは、だろ?」
「……」
ドが付くほどの正論である。
魔理沙は持っていた桶を、オレの傍に置く。
魔理沙「しっかし、まぁ、不幸な事故だったな…いきなり桜木が飛んでくるとは」
「ま、天才ですから」
「?」
「ボールをこの天才によこせ」
「よくわからんが、ほら、おしぼりだ」
投げつけられたおしぼりを受け取る。
ピチャアと水の音。
後頭部にぶつかった木の当たり所は悪かった。
後ろから大木が飛んでくるのは初めてだ。
なんともまぁ鈍い痛みである。どちらかと言えば鈍い痛みがゆっくり…的な痛み。
魔理沙「これから飯だが食えるか?」
「あぁ、大丈夫だ。いただこう」
布団から出て、立ち上がる。
立ちくらみは少ししたが、倒れる程ではない。
魔理沙は「霊夢のご飯は格別だぜ?」と小さく笑っている。
§
「スパスィーバ!!!」
魔理沙の言う通り、霊夢の作ったご飯は格別だった。
野菜を中心とした和風料理で、優しい味。
特に彼女の作った肉じゃがは頭一つ飛びぬけており、オレが作っても到底辿り着けない、まさにデリシャスでアブナッシメントでオルタナティブだ。
霊夢「いっぱい食べなさいな」
魔理沙「あぁ!遠慮なくいただいてるぞ」
霊夢「…アンタは遠慮ってもんを知りなさい」
「…うめっうめっ」
「おかわりもあるわよ」
息継ぎすることを忘れるほど、夢中で飯を食う。
あっという間に夕飯を平らげてしまった。
「ごちそうさま」
魔理沙「でした、だぜ!!」
霊夢「はいはい、お粗末様でした」
食べ終えた食器を、水を張った桶に漬け込む。
ちゃぽん、と食器は底に沈んだ。
「霊夢、料理上手いんだな」
霊夢「あら、ありがとう」
「今度良ければ教えてくれよ」
霊夢「いいわよ。時間があればだけど」
「おっし」
食後のお茶がみっつ、卓袱台に置かれる。
湯気が立つ温かいほうじ茶。
口に流し込むと、さっぱりとした味わいが口の中に広がった。
霊夢「…で、魔理沙はいつまでウチにいるの?」
煎餅を片手に齧っていた魔理沙を睨む霊夢。
魔理沙「うーん…多分次に目が覚める時までだな」
対して悪びれる様子もない魔理沙。
霊夢「残念だけど、ウチは今日先客がいるから」
魔理沙「……秘め事か?」
「ぶっ」
魔理沙は何を言っているんだ?
霊夢「あながち間違いじゃあないわね」
「ちょ」
霊夢も何を言っているんだ。
組んでいた腕を解き、オレを指差す霊夢。
霊夢「私はコイツに聞きたいことがあるから」
「コイツって言うな」
小娘にこいつ呼ばわりとはどういうプレイだ。
魔理沙「私もこいつに教えることがあるんだが」
霊夢「それはまた後日ってことで」
「だからコイツって言うな」
何やかんやして、魔理沙は帰ることになった。
魔法の箒(おそらくニンバス2000)に跨り、「じゃあな!」と夜の空へ飛びだっていった。
箒から星の粒子が帯状に広がっていく。
部屋にはオレと霊夢が残された。
§