東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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序章 Ⅱ

「…………」

 

あれから十数年の月日が流れた。

その後、女の子とどうなったのか。

どんな風に別れたのか、そもそもどういう間柄であったのかは――全く覚えていない。

疎遠になって、成長していくうちに忘れてしまったのだろう。

 

それはともかく、どうして今、こんな昔のことを思い出しているのだろう?

水色のポールペンを弄りながら、オレはふと妄想のきっかけを思い出す。

 

教授『――で、あるからして、8月15日の北の空には今プリントに描いて貰ったさそり座が見えるわけです』

 

黒板の前で大学の教授が教科書を持ち、説明をしている。

 

(…あぁ、星ね)

 

授業で『天体』を勉強していたからだ。

星、という言葉にどっか引っかかるな…と思って少し過去を思い出していた訳だ。

 

――大きくなったら絶対父さんに会いに行く!

 

(……くだらねぇ)

 

十年前のオレはあんなことを平気で、恥じらいもなく大声で叫んでいる餓鬼だった。

父親を見つける、という叶わない夢が本気で叶うと信じていた、バカ野郎だ。

恥ずかしい想いを消し去るために、オレは顔面を机に当てる。

冷たい机が、オレの頭を冷やしていく

 

(…親父、か…)

 

オレの記憶から抜け落ちた存在。

かなり前に失踪し、忽然と姿を消した。

失踪の理由は不明。借金をしていた訳でもなければ、殺された訳でもない。

唐突に起こった、謎の失踪だった。

 

(……)

 

父親に会いたいという気持ちも次第に薄れていった。

結局、父親を見つけるという夢は叶わず、現にこうして大学に通っている。

いつからその夢を諦めたのだろうか?

物心ついた頃には完全に忘れていたような気がする。

 

(…たぶん、養父のせいだな)

 

養父。

実の父親の代わりにオレを育てた男。

厳格で小さな悪事も見逃さない、正義心に強い養父だった。

 

上京するまでに実の親父のことを聞きたかったのだが…なんだか触れるのはタブーのような気がして、結局聞けずじまいになってしまった。

知っているのは、”親父は燃えるような紅い髪をしていた”、ということだけ。

 

(……)

 

しかし何故、このタイミングで父親の事を思い出しているのだろう?

もう会えない人間の事を考えても仕方がない。

オレは大学の講義を受けている訳だし、未来は何となく決まりかけている。

それ以上を望む必要はないのだ。

親父はオレの未来には不必要だから。

 

教授『天文の単元は難しいですから、寝てると置いてかれますよー』

 

もう知る必要などない。

オレたちを捨てた奴の存在などどうでも――

 

 

 

 

――げんそうきょー!

 

 

女の子の声が脳裏に響く。

 

(げんそうきょー…)

 

そうだ、[げんそうきょー]だ。

オレたちに見つからないように、[失われた物たち]が旅行へ行っている、この世界とは別の世界。

そこはこの世で失くしたものが流れ着く、駅の終点のような場所と言っていた。

あくまで幼い頃の女の子の妄想、幻想の混同。

 

時代に失われた、失踪した父親も、そこにいるのだろうか。

 

教授『……そこの君、しっかりと授業を受けているのかい?』

 

女の子は、[げんそうきょー]へ行くには[切符]のようなものが必要だと言っていた。

それは、何か特別な乗車券なのだろうか?

どこかで販売している訳ではないだろう。そうすると、誰かから貰う必要があるのか?

いやしかし、普通の方法ではいけない場所へ電車が通っていることすらも怪しい。

乗り場は何処だ?山の中?それども海の中とか?

[げんそうきょー]とは何処にあるのだろうか?そもそも本当に実在するのだろうか――

 

教授『君!!!いい加減起きないか!!!』

 

「いつつッ!?」

 

突然の怒鳴り声。

そして強引に髪の毛が上へと引っ張られる。

たまらず立ち上がると、そこにはこめかみをぴくぴくさせ、真っ赤に染まった教授の顔が。

……あ、考え事してたら、先生の注意を無視しちまってたのか。そりゃあ怒るよなぁ。

教授は大きく息を吸った。

 

(ミナトは みを まもった!!)

 

教授『君ねぇ僕はいつも真剣に講義内容を考えて、学生が如何に眠くならないような授業にするか必死に考えて今講義しているんだその気持ちを踏みにじってまで睡眠不足をここで挽回させようだなんておかしい話だと思わないかしかも僕の目の前で!授業をしっかりと聞いていると思ったら寝始めるしいくら注意しても起きないし本当どういうことだよああもう言おう君は人としてあるまじき行為をしている君は何のために大学に来ているのかいバイトのためか恋愛のためか!?それはおかしいことだと早く気づかないとあっという間に4年間は――』

 

(グッドタイミングジャストガード…)

 

まさにドラゴンの咆哮。

防御してなければ致命的な一撃が確定、まさにチート技である。

 

「…教授」

 

教授「あァ!?なんだね!!」

 

このままオレが頷いて謝れば平たく収まる。が、なんだか話が長くなりそう(というより周りの学生も迷惑そうにオレを見ている)だ。

オレは黙って教科書類をリュックに流し込み、席を立ちあがる。

 

「すいません、失礼します」

 

教授『ああ逃げる気かい君は!!なんて頭の悪い生徒なんだそれでも教育学部の生徒か!?髪の毛も紅いしいつまでも大学生気分が通用すると思うなよっておーい!本当に出ちゃうの?確かにもう出席採ったから今日は大丈夫だけどさほら期末テストだってあるしってここまで説得しても行くんかーい!!!』

 

軽く会釈をして、オレは教室を後にする。

父親の失踪、女の子の記憶、そして[げんそうきょー]。

 

(所詮は子どもの戯言か……)

 

教室を後にする。

ちなみに……この紅い髪の毛は地毛である。

唯一、父親から受け継いだ”色”だ。

 

 

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