東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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和室

部屋は居間の隣を使ってもいいとのことなので、そちらに移動する。

先ほどオレが襖に激突した部屋だ。

居間よりも少し小ぢんまりとしているが、寝る所としては十分すぎるほど。

さっそく布団を敷いて、寝る準備をする。

 

(……)

 

霊夢は二階で寝るとのこと。

「へっへっへ…ふーじこちゃーん!!」などと考えてはいけない。

オレは紳士なんだ、そうだオレは場をわきまえる紳士……。

 

悪魔『おい!霊夢の寝顔を見たくないのか!!』

 

オレの脳内に紳士的悪魔が顔を出す。

コイツは悪い事と女の下着が好きな紳士的悪魔。

バカでかい声で騒いでいる。

 

天使『ダメです!そんなことしたらミナトさんが殺されてしまいます!』

 

隣に飛び出してきたコイツは紳士的天使。

紳士的悪魔を抑制しようとするのが仕事。好きな物はふわふわしたもの。

声が小さいせいで損をするタイプだ。

 

『ノンノン、天使ちゃんよ。これは男として試されてるんだぜ?』

『た、試されているって…何をですか!?』

『モチロン、据え膳ドントイートはメンズの恥ってな!』

『す、据え膳…ドント…?』

『Year! こういう状況になったら男として行動しろっていう先人からの教えさ』

『お、教えは大事です!でも、夜這いは悪いことだし…』

『そんなことないぜ、霊夢も待っているぞ?だから別々に寝る、ってことにしたんだ』

『な、なるほど!!さすがは悪魔さんです!!』

『ハッハッハッハ』

 

オレの頭の中で答えが一つになる。

だが、脳内でいくら天使と悪魔が話し合おうが、オレの行動には影響しない。

ちなみに、天使は頭が悪く、いつも悪魔に言われるがままである。

 

「…煙草でも吸うか」

 

机に置いた煙草とジッポライターを手に取り、縁側に移動する。

少し肌寒い春の風を浴びながら、胡坐をかき、煙草に火を付ける。

白い煙が、宵闇に溶け込んでいく。

 

「ふィ~」

 

何度か息を吸い、吐き出す。

メンソール系のツンツンした味が口全体を満たす。

無駄にタールの高いストレート系よりも味に変化のある方が楽しい、というオレの考え。

この考え方は高貴なるおっさん方にはあまりよく思われていない。

 

(まったく、メンソ系は最高だぜ!!)

 

心の中で呟きながら、煙草を吸う。

暗闇に包まれた神社の境内はひっそりとしている。

桜が風で擦れる音がする。

ひんやりとした空気。

紺色の空には黄色の満月が浮かんでいた。

 

「…そうか、今日は満月なのか」

 

外の世界も同じ満月だったはずだが、雲のせいで見えなかった。

幻想郷の月は、そんな外の世界の月よりも美しく見える。

恐らく春だから空気が澄んでいるのだろう。

 

(春だから、か)

 

外の世界では夏だった。

夏の暑さに、夏虫の鳴き声に、怒る教授。

どれも夏の風物詩だ。

今は春。

幻想郷の季節と外の世界の季節は、少しずれているらしい。

 

「ふい~」

 

煙草に口をつける。

脳裏に浮かんでくるのは、仲間の姿。

霧島 凌雅。

御船 ナギ。

鳳 ソラ。

ついさっきまで一緒にいたはずなのに、三人の名前が遠くに感じる。

オレは三人を置いて、一人で幻想郷にやってきた。

もう少し経てばニュースにでもなるだろう。

 

【某大学で再び神隠しが発生しました。京都府庁は誘拐事件として調査を開始し――】

 

とかそんな感じだろう。

まぁ、どんなに騒がれようが今のオレには関係のない話だ。

 

「……まずは情報収集だな」

 

明日こそは神社の森を抜け、人里へ向かう。

人集う場所に情報有り。

父親の事を片っ端から聞き出して、尻尾が掴めたらディモールト・ベネ。

根掘り葉掘り聞きまわってやろうではないか。

 

「春の喜びを知りやがって!許さんぞ!」

 

煙草を揉み消し、布団の中へと潜り込む。

天井を見つめながら、しかし昼間気絶していたにも関わらず、睡魔はしっかりとやってきた。

考え事をする時間は、無くなってしまったようだ。

 

 

§

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