東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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第21話

靈撃で吹き飛ばされた男。

または、能力を持っていない男。

だけども、神社の森で妖怪を退治した男。

 

(やっぱり能力を持っている、と思うのよねぇ…)

 

今日のあの反応は、本当に[能力]を知らない様子だった。

私からしたら、彼は絶対に何かの能力を持っている。

ただ、今はその存在に気付いていないだけ。

自分に嘘をついてるってわけじゃあなさそうだけど。

 

(…眠れない)

 

布団に入っても睡魔は降りてこない。

気分を変えて布団から抜け、窓の縁に腰を掛ける。

暗闇に包まれた神社の境内はいつもどおりひっそりとしていた。

普段なら霊の一人二人、出て来るんだろうけど。

遠くで、桜が擦れる音がする。

ひんやりとした空気が、私の頬を撫でる。

紺色の空にはいつもの満月が浮かんでいた。

 

「あら、満月」

 

満月を綺麗だと思うようになったのはいつからだろう?

おそらくそれは、ある異変を解決した後の事だ。

私もお酒を呑んでいた時だったから、詳しくは覚えてないけど、確かにその時だ。

月は闇を照らしている。

闇だけじゃない。

博麗神社も、人間も、妖怪も、全部、あの光が照らしている。

 

(…なんでこんな寂寥の感に囚われているのかしら)

 

やっぱり寝れない理由がある。

思い当たりはもちろんある。

今、下で同じように満月の光に照らされているであろう、男。

そりゃあただ普通の外来人だし、能力については全く無知だし、妖怪に殺されかけたけど…。

 

――幻想郷に、自らやってきた。

 

この信念が、執心が、決意が、あの男にはある。

ここが、私が出会ってきた人間の中でも異質だと思える所。

眠れない原因であった。

 

(父親を捜しに、か…)

 

父親。

私にとっての父親は、いったいどんな人なのだろう?

もはや追おうとしても追える距離には居ない。

そもそも記憶から完全に抜け落ちているのだ。

会いたい、とも会おう、とも思ったりもしない。

それは、一生会えないと分かっているからであり、一種の諦め、だ。

 

だけども、あの男――一之瀬ミナトは違う。

本当に会おうと決意している目をしているのだから。

会えないかもしれない、そんな未来を彼は見つめていない。

 

(…ホント、私らしくないわ)

 

寝間着を整え、窓を閉める。

最後に窓越しに空を見上げる。

満月は、やはり美しい。

そう思える。

 

(……明日の朝ごはんは少し張り切ろうかしら)

 

布団に入り、目を瞑る。

脳裏に浮かぶ、さっきの光景。

靈撃に吹き飛ばされた一之瀬ミナトの必死な顔。

不思議と笑みが零れた。

 

さて、明日は何を作ろうかしら。

 

 

§

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