東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「ここのぽん吉はどんな気持ち?」
「うーんとね…悲しい、と思う」
「悲しいそうだな、そんなぽん吉がどうしてこんなことをしたんだ?」
「…投げやりな気持ちだからかな?」
「よし、少しずつぽん吉のことが分かってきたじゃないか」
「うん!もっとしっかり読んでみる!」
§
「せんせー」
「ん?」
「せんせーのにがおえー」
「お、上手いな。将来は絵描きになれるぞ」
「絵、だいすき!」
「そっか、今度は休み時間にいい絵を描いてくれよ」
「うん!」
§
「…………」
「慧音先生がみてるぞ」
「ッ!!うわぁ、寝てた…ありがとう、せんせい」
「どういたしまして、眠いのか?」
「うん…夜、本を読んで遅くなっちゃったから…」
「そっか、そういう時は人差し指の先を押すと良い、眠気が覚めるから」
「指先?やってみる!」
§
チリンチリン。
慧音が手元のベルを鳴らした。
慧音「はい、それでは今日の授業はここまで!」
『『『ありがとうございましたー!』』』
授業が終わり、子どもたちが教科書類を鞄に入れる。
オレは後ろで礼をした。
魔理沙は中庭側の縁側で昼寝をしている。
子どもたちは帰り支度を済ませて、ドタバタと玄関に向かっていく。
オレは慧音と二人で子どもたちを見送る。
せんせーさよーならー!
――はい、さよなら。
赤いせんせーもさよーならー!
――うい、さよなら。
こうしてすべての子どもが寺子屋を後にし、教室は空になった。
慧音「今日はありがとう、とても助かったよ」
「なんもしてないよ、ただ回って見てただけだ」
慧音「キミは外の世界では先生だったのか?」
「正しくは[先生になるつもりだった]だな」
慧音「なるほど、先生のたまごという奴だな」
もちろんこの後も暇なので、教室の掃除をする。
その間は慧音と話をした。
幻想郷に来る前の事。
幻想郷に来た後の事。
どうやって幻想郷に来たか。
何故幻想郷に来たか。
慧音「父親を捜しに、か……」
掃除も終わり、今は奥の部屋でお茶を飲んでいる。
春の煎茶は香りが良い、生徒の親が作った物らしい。
慧音「髪が赤くて、一之瀬と名乗っている男…」
「何か知ってないか?」
ようやくあり着いた里の知識人。
しかし彼女は首を振った。
慧音「…少なくとも、私の知っている限り、人里では見たことが無いな」
「人里では、見てないってことか」
慧音「あぁ。里の外にならいるかもしれないが…」
もう一度慧音は首を振る。
(…死んでるかもわからないってことか)
里の外には妖怪が蔓延っている。
そんな場所にただの人間が生き続ける可能性は限りなくゼロだ。
父親が霊夢の言う[能力]を持っていたら、話は別だが…。
「でも、列車で出会った女性が[幻想郷にいる]って言っていたんだ」
慧音「それなんだが…その女性とやらはどんな人だった?」
「それは……ん…?」
と言って、オレは不思議な感覚にとらわれる。
いくら記憶を辿って見ても、その女性の姿が思い出せない。
車内の様子や車掌の恰好ははっきりとわかるのに、その女性の姿だけがぼんやりとにじんでいる。
まるでその女性の記憶だけがそのまま無くなったかのように…。
「…思い出せない」
慧音「そうか。まぁどんな人であれ、いるって明言しているのであればいるのかもしれないな」
「里の外、か」
近いうちに里の外へ行くことになる。
そのためには、スペルカードに頼らないチカラ――[能力]が必要だ。
(どうやったら能力は発動するんだろうか)
湯呑みに口をつけ、円卓の上に置く。
「とりあえず、もう少し聞きまわってみるよ」
慧音「あぁ、チカラになれなくてすまない」
「いいや、今日は楽しませてもらったよ」
オレは立ち上がる。
反対側の慧音も一緒に立ち上がった。
片づけた教室に向かい、魔理沙を起こす。
「ほら魔理沙、行くぞ」
魔理沙「あぁ?私は普通の魔法使い…だぜ……」
「分かった分かった」
寝ぼけた眼を擦る魔理沙を引き連れて、玄関へ向かう。
慧音「一之瀬ミナト、といったな」
「?」
オレが靴を履いて扉を開けた時に、慧音は口を開いた。
その顔は、まるで母親のような優しい顔をしている。
それに、オレは謎の既視感を覚えた。
「また、時間があれば、寺子屋に来てくれよ」
「…あぁ。ありがとう」
幻想郷の人間は、優しい人ばかりかもしれない。
寝ぼけた魔理沙と、寺子屋を後にする。
§