東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
『すいません、今は満員でして……』
第一の宿、満員。
『うちは休憩所しかありません』
第二の宿、宿泊NG。
『لم يكن قادرا على البقاء في بيتي』
第三の宿、話が通じないため断念。
他に探したが、泊まれるところはないようだ。
「んほぉっ」
オレは一息つくために大広場にあった公園のベンチに腰を下ろす。
この時間だからか子どもはみあたらない、なので煙草を吸う。
(ぬかったな…)
煙草を吸いながらベンチに落ちていた新聞を拾う。
[文々。新聞]――可愛らしい名前の新聞だ。
中身は…。
【博麗霊夢!まさかの大貧乏説!?】
【あなたの心に宗教を……第二の聖徳太子に電撃取材!!】
【魔法の森、新種の妖怪か!?】
なんてことの無い、まるで地方新聞のような素朴な内容だ。
まぁ、政治はしてなさそうだし、国勢調査も「妖怪消えてくれ!」ぐらいしかないだろう。
新聞を畳み、ベンチに置く。
今日は野宿だから、この新聞も役に立つだろう、中身ではなく。
「ま、悪くないね」
煙草の煙を燻らせて、見上げた夜空に浸ってみたりする。
ガラじゃない、オレは自嘲気味に笑った。
?『確かに悪くないね』
「あぁ……あ?」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
いつのまにかオレの隣に人がいた。 な…何を言っているのかわからねーと思うが、いつからそこにいたんだが、オレには分からなかった…。
?『どうした?私の顔になんかついてるか?』
オレをみつめる女性。
白銀色の綺麗な長髪が、月光に煌めいている。
顔も整っていて美しい。
しかし何処か剣のような鋭さを持ち合わせていた。
こんな人が外の世界に居たらウェイ系共はたまらず飛びついてしまうだろう。
んで簡単に返り討ちにされる訳だ。
「別に……ただ、驚いただけだ」
?『ん、そうか…じゃあ、煙草くれよ』
「接続詞が接続してないぞ」
と言って銀髪美人に煙草を渡す。
まさか、こんな雪のような白い美人が煙草を吸うとは思う得ない。
(アンバランスっていうのも一つの美だな)
女性が煙草を口にくわえる、と、同時に火が付いた。
(…いつ着火した?)
どこぞの友人を彷彿とさせる。
?『……やっぱり、私の顔になんかついてるのか?』
オレの視線に気づく女性。
「…いや、別に。煙草を吸うようには見えなかったから」
?『あぁ、残念。とびっきりのヘビースモーカーさ』
「…気が合いそうだな」
二対のたなびく白い煙が、満月へと吸い込まれていく。
?『アンタ、名前は?』
「オレは一之瀬ミナトだ」
?『ん、ミナトちゃんね』
「ちゃんづけはやめろ」
妹紅『私は藤原妹紅。妹紅でいいよ』
「人の話をきけ!」
妹紅「まぁそう怒るなって」
カッカと笑う妹紅。
笑った顔も素敵で、まるで光にあてられたダイアモンドみたいだ。
妹紅「んで、にーさんはどうしてこんな時間に外をうろついてんの?」
「うろついたらいけないか?」
妹紅「はい、外来人確定」
どうやら見抜かれたらしい。
どうでもいいが、確定という言葉はパワーワードのような気がする。どうでもいいが。
妹紅「夜は短いが、外に出る命知らずはいないよ」
「…妖怪に襲われるからか?」
妹紅「ご名答」
オレは灰を落とし、妹紅は煙草に口をつける。
「…妖怪、ねぇ」
博麗神社の前の森で、妖怪に襲われた時を思い出す。
確かに普通の人間が妖怪に立ち向かうことは難しい。
そしてそんな存在に恐怖を抱くのも必然だ。
次第に、『いくら里の中でも、妖怪がいるかもしれない』という念が生まれる。
だが、本当に妖怪はいるのか?
ただ単に自身で敵を作り出しているだけなのではないか?
「妹紅」
妹紅「なんだ?」
「この里の中にも、妖怪はいるのか?」
オレの質問に、妹紅はカッカと笑った。
そしてそのまま短くなった煙草を右手でグッと握りつぶした。
(おいおい…!?)
右手のスキマから零れ落ちる、灰。
明らかにフィルターまで燃え尽きている。
妹紅「いるよ、たぶんね」
その前にその右手について質問させてくれ。
「…ようはいるってことだな、んでセカンドクエスチョン。アンタもそのうちの一人か?」
妹紅「さぁ、どうだろう?そもそも、妖怪と人間の定義はなんだ?」
「定義」
いきなり現実味のある単語が出てきて面を喰らう。
確かに、人間と妖怪の定義はなんだ?
人の形をしていない?――もしこの人が妖怪なら、定義は崩壊する。
なら人を食べる?――確かに、妖怪は人間を喰らいそうだ。
「…人を食べる?」
妹紅「残念、人を食べない妖怪だっている」
はい論破。
そんな簡単に定義づけられないようだ。
妹紅「ま、その答えは今後アンタが見つけなよ」
そういって妹紅は立ち上がる。
月光に煌めく彼女の全身。
それは、不思議な香りと、怪しい光に包まれ、オレの目を釘付けにした。
と同時に、彼女は炎に包まれた。
「ッ!!」
そして炎が消えた時、そこに銀髪の姿はなかった。
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