東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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序章 Ⅲ

雲一つない快晴。

「こんな元気な空の下で暗い顔をした奴はバカだ」と言っている奴はバカだ。

誰しも心に悩みを抱えている訳であり、天気が良ければ心もすっきり!なんていう催眠術がかかれば自殺者も減るだろう。

そんなどうでもいいことを考えながら二本目の煙草に火を付けると、

 

?「ライターもらうぜ」

 

「自分の使え」

 

?「あいにくさっきライターちゃんとお別れしてきた。半年も一緒にいた、キュートで愛らしいピンクボディの彼女だったが、中身が無くなっちまえばもう用なしよ」

 

 

「薄情な奴め」

 

ジッポライターを茶髪のウェーブ頭に投げつける。

紺のトレンチコートを着た高身長はそれを受け取り、一瞬でライターはとんぼ返りした。

さんきゅ、と言った時には、彼は初火の煙を吐き出していた。

いつもこの男の点火は早すぎて見えない。

その動作が煙草依存であることを語っているのは明確だが。

 

?「なんでさっき教室を飛び出したんだ?『シミセン』あんなに引き留めてただろうに」

 

「知らん、なんか、受ける気がなかった」

 

?「受ける気ないのに前で受けるとかバカなのか?熱いの嫌だとか言いながらサウナに入るようなもんだぜ」

 

「分かりづらい例えだな」

 

?「人間分からないくらいがちょうどいーんだよ」

 

「そーかい。…わからない、ね…」

 

煙をゆっくりと吸い、空に吐く。

青空はいつまでたっても青空のままだ。

煙草の煙が天に昇っても、青空は青空のまま。

 

なんだかセンチメンタルな気分がオレの心を満たす。

 

?「そんな怖い顔すんなって、ジョークだよ、ジョーク」

 

「なぁ、凌雅」

 

ウェーブ頭の凌雅は、口を閉じてオレを見つめて来る。

黙っていれば少したれ目で顔の整った天然パーマのいい男なんだが。

 

凌雅「なんだい、ミナト?」

 

「お前さ、[げんそうきょー]って知ってるか?」

 

凌雅「げんそう、きょー…?」

 

その言葉を聞くた途端、凌雅は下を向き、煙草を口にくわえた。

そのまま深く深呼吸をし、白い煙を吐き出す。

タールをたっぷりと含んだ彼の煙草[ろうば]の煙は、とても深みのある濃い香りがする。

それを2,3回繰り返した後、天を見上げる凌雅。

 

凌雅「……聞いたこと、あるぜ」

 

「!?…本当、か!?」

 

凌雅「あくまで噂話だがな…ほら、聞くだろう?”神隠し”の話」

 

神隠し――。

人間が忽然と姿を消す怪奇現象。それを総称してこう呼ばれている。

すぐそこで遊んでいたと思えば、一瞬目を離すと居なくなっていた。

ふたりで一緒に歩いていたと思ったら、いつの間にか一人で歩いていた。など。

報告の事例は様々だが、共通しているのは、やはり突然人が居なくなる、という点だ。

 

「あぁ、知っているが……それがどうかしたのか?」

 

凌雅「つい最近、この学校でも神隠しにあった人が居る、って事あったろ」

 

そういえば、そんな噂話もあった気がする。

この学校で行方不明になった学生が二人出た、という話。

学生支援課から警告のメールが送られてきたのは記憶に新しい。

 

「でも、それと[げんそうきょー]に一体何の関係が?」

 

凌雅「そう焦るな、その神隠しは、人を選ぶらしい」

 

「人を選ぶ?どういうことだ」

 

凌雅「知りたいか?」

 

ゴクリ、と生唾を飲む。ほんのりと煙草の味がした

吸いかけの煙草はフィルター部分が少し燃えていて、指先に熱を感じる。

 

「…タダではない、だろ?」

 

凌雅「もちろん」

 

にやりと笑い、彼はピースサインの右手をオレに差し出してくる。

 

凌雅「情報料。煙草二本でどうだ」

 

「…現金なやつめ。自分で買えよ」

 

凌雅「今月ピンチなんだよ。借りた金も返さないとだしな」

 

「オレからも数万借りている癖にな」

 

凌雅「ま、それは置いといて…な?」

 

オレはポケットから煙草ケースを取り出し、二本抜き取って凌雅の人差し指と中指の間に挟む。

まいどあり、と凌雅は笑うと、一本を口に咥えた。

 

凌雅「神隠しは、法則性がある。と言ってもあくまで噂でしかないけどな」

 

「いい。早く教えてくれ」

 

凌雅「…基本、若い連中が中心だ。男女は問わない。比較的優れた能力を持つ者が神隠しに遭うらしいぜ」

 

うちの大学で神隠しに遭った二人も能力を持っていたらしい。

詳しいことは分からないが、頭の良い二人で、不思議な目を持つ者だと聞いたことがある。

そんな学生が神隠しに遭った。

 

(オレが神だったら、間違いなく隠すだろうよ、その二人を)

 

凌雅は口から煙を出しながら続ける。

 

凌雅「んで、その神隠しの先の世界がどうなっているかは分からない。さっきミナトの言った[げんそうきょー]とやらに続いてたりしてな」

 

「…………」

 

凌雅「あ、それと電車が迎えに来るって話もあるぜ」

 

「電車!!?」

 

喫煙所で吸っていた他の人が一斉にこちらを向いた。

凌雅もさすがに驚いたのか、目を見開いて口に指を当てる。

 

凌雅「ここは公共の場だぞ。声のヴォリュームには気をつけろよ」

 

「…今の話、もう少し詳しく」

 

凌雅「そっちの話はよくからん。だけど、電車ってことは切符が必要なんじゃねぇの?その場合、切符を持っている人が神隠しに遭うとか、そういうことじゃねーか?」

 

「ずいぶんと適当だな」

 

凌雅「こっちの話はよく分からん。ってか今のはついさっき俺が思いついた作り話――」

 

「ふッ!!」

 

むき出しになった凌雅の額にオレはチョップをお見舞いしてやる。

▼かいしんの いちげき! こうかは ばつぐんだ!

 

凌雅「っちゃア!?」

 

見事にクリーンヒットし、悶える凌雅。

 

「お前、真剣な話をしてるのにそれはないだろう」

 

凌雅「いったぁー、暴力はいけないぜ暴力は!ただ怖すぎるお前の顔をほぐしてやろうと――」

 

「十分ほぐれたぞ、そのお礼だ!!」

 

再びチョップを食らわせてやる。

どうやらそれ以上凌雅は知らないらしい。おそらく[げんそうきょー]の事を聞いてもこれ以上の情報は無いだろう。

[げんそうきょーと神隠しは関係あって同じ世界ですよ]説と、凌雅の[げんそうきょー電車で行けますよ]説。

とても興味深い話だ。

 

「ま、ちょっとの暇つぶしにはなったか」

 

凌雅「それは何より…ってやべ。もう次の授業始まってんじゃん。出席リーチかかってんだよなぁー…あーでもめんどくせぇなぁ」

 

「必修だろうが。来年後輩に後ろ指刺されながら授業受けるか?」

 

凌雅「それは絶対いやや!ってことでウチ、行ってくるさかい!」

 

キャラ崩壊するほど焦っている凌雅は、じゃな!と右手を掲げて走って行った。

【霧島 凌雅(キリシマリョウガ)】

同じ学部学科で同じクラスの男。人と話すのが得意で、どちらかと言えばノリノリ系。

台風のような男だが、性格は意外にも冷静沈着、情報が幅広く、誰からも愛されるような存在。

オレの苦手なタイプ、であったハズなのだが…今はオレの親友と言っても良い存在。

 

(まさか、これほどの仲になるとはな…)

 

そんなことをしみじみと思いつつ、三本目の煙草に火をつけようとしたが、ライターが付かない。

しばしオレは空を見上げる。

 

「…………神隠し、か」

 

そっと、煙草を箱に戻した。

 

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