東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
『――――』
遠くで何かが聞こえる。
音として耳に届いて来るが、上手く認識できない。
(…………)
まるでトンネル奥から声になっていない声が届いて来るようだ。
オレはぼんやりとそれを聞いている。
ぼんやりと――
(……)
次第に、音の輪郭がはっきりとしてくる。
叫んでいるような声だ。
その周りはざわざわとしているように聞こえる。
どんどん、声が音として頭の中に流れ込んでくる。
(…ん)
水の底に沈んだ意識を、引き上げる。
強烈に匂う土と草の香り。
細い何かが鼻の中に突っ込まれている感覚。
「……ん?」
『あ、起きた!』
目を開けると、そこには短髪の男の子がいた。
その手には赤い花が握られている。
「…んだこりゃ?」
そして、オレの鼻に突っ込まれてたのは花だった。
奇しくも、男の子が持っている物と同じ。
状況を把握した、一気にオレの中に[冷酷]が流れ込む。
「…こんの、クソガキが!!」
『ひゃーにげろっ!八つ裂き人形にされるぞ!!』
どうやら周りにも子どもがいたらしい。
叫び声を上げながら逃げていく子たち。
「待てこらガキ」
『んひっ』
逃げ出す子どもをひとり鹵獲。
がたがたと震える眼鏡の男の子。
『ぼ、僕はただ見ていただけでっ…』
「一緒にいたんだろ?なら同罪だ」
『か、からあげー!!』
「……からあげ、か」
なんとも美味しそうな名前である。
[からあげ]はオレを見ながらあわあわと手を口に当てている。
「さて、そんな奴には…おしおきだ!」
『んひゃ!?』
バチン、とデコピンがオン眉のおでこにクリーンヒットする。
悲痛な声を上げながら、うずくまるからあげ。
『よ、よくもからあげを!!』
「これに懲りたら鼻と花は大切にしろ、クソガキども」
『くそっ…覚えてろーー!!』
男の子はからあげを担いで、舌を出しながら公園を後にする。
『……!……』
公園の外から大人たちがオレの様子を見ていたが、ハッと視線を反らしていく。
その表情は、恐怖の色を帯びていた。
(…やっぱり外で寝るのは良くないか)
――夜は短いが、外に出る命知らずはいないよ。
妹紅の言っていた言葉を思い出す。
多分、今のオレは命を顧みない外来人か、はたまた妖怪か…得体のしれない存在だから、恐怖の目で見ている。
そんなところだろう。
(ま、どうでもいいか)
地面に転がった新聞紙をまとめ、ゴミ箱へ放り捨てる。
鼻の花(鼻につっこまれた方)とからあげの花(落としていった方)は、捨てるとよくないのでポケットに入れる。
そして、オレは目覚めの一撃として、煙草を吸う。
「ふぁ~」
朝の煙草はあまり好きではない、が目覚めにはうってつけだ。
周りに子どもがいるかもしれないが、先ほどの出来事で±0。
ゆっくりと、深く息を吸う。
§