東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
『ねぇ、あれが外で寝てた……』
『あぁ、あぶねえ奴だ』
『おっかね…近づかないようにしねぇと』
歩いているとこんな囁き声が良く聞こえる。
もちろんオレに向けられた言葉であろう。
(野宿しただけでこれか?)
現実世界の野宿とはまた意味が違う、幻想郷の野宿。
ホームレスには厳しい世界だ。
そんな視線にイライラしてきて煙草が欲しいと思っていたが、
『でも、意外と良い男じゃない?』
『確かに…あの燃えるような髪もキュートね』
『不思議な外来人、嫌いじゃないわ』
(ほれみろ)
ミステリアスには何とやら。
得体が知れない者に興味を持つのもまた人なり。
世論(恐怖と興味の声は7:3くらい)に耳を傾けながらオレは歩く。
人里は朝にも関わらず賑わっていた。
米俵を持つ男、水を運ぶ女、紙を束ねる少年、荷台を押す老人など、様々だ。
(朝からご苦労なこと)
つくづく大学生は労働から切り離された人種だと認識させられる。
そんな賑わいの人里を歩いていると、広場に辿り着いた。
もちろん目的は情報収集なのだが。
(…忙しい&恐怖で誰も寄り付かねぇ)
オレの目の前はぽっかり穴が開いたように、人がいない。
そして恐怖しつつも、興味あるような目でちらっちらっとこっちを見ている。
(フフ、怖いか?そうだろう)
オレはポケットから煙草を取り出し、火を付ける。
道行く人も煙草を吸っているので、里内禁煙ではないようだ。
歩きタバコはすっごい迷惑だって、外の世界では言われているのだが。
(肩身の狭い禁煙から解放だぜッ!)
息を吐き出しながら、辺りを見渡す。
ちょうど目の前には、龍の形をしたオブジェが置いてある。
表札には[龍神様]とこれまたストレートな文字。
周りには待ち合わせている様子の人だかりが出来ている。
(ハチ公的なやつだな)
そんなことを思いながら煙草を吸っていると。
(……ん?)
そのハチ公の奥で、小さな影を見つけた。
煙草を靴裏で消し、人だかりを避けて(避けられて)進む。
オレが気になったのは、壁にもたれかかれるようにして、うずくまる少女だった。
何処か痛むのか、苦しげな表情をしている。
「……どうした?」
少女『っ……!』
オレに気付くや否や、びくっと身体を震わせる少女。
前髪が綺麗に整ったおかっぱ頭。
くりくりとした目が、オレの顔を見て、すぐさま下ろされる。
地面には、少女が履いていた靴が、転がっていた。
(…なるほどね)
一瞬で状況を判断する。
「…立てるか?」
少女『…………』
(…そんなに怖いか?オレ)
ホームレスが及ぼす影響は計り知れない。
ということで、まずは少女の恐怖を取り除くことにする。
「…ほい」
オレは先ほどの一輪の花を差し出した。
もちろん、鼻の方ではなく[からあげ]が落としていった方。
少女『……?』
少女は、戸惑っていた。
――なんで、花を渡してくるの?
そう言いたげな表情だ。
だが、黙ってオレは花を差し出す。
少女『……』
少女はおずおずと右手を差し伸べて、紅い花を掴んだ。
その花をまじまじと見ると、鼻の近くに当てて、目を瞑った。
それは、絵に描いたような、美しい光景だった。
(……あぁ)
道の端に座る少女と、道端で咲く綺麗な花。
そのふたつが織りなした、この光景。
少しして少女は目を開けると、じっとオレの方を見つめ、
少女『……いい、かおり…』
「…だろ?」
少女の声は小さく、鈴を転がしたようだった。
それ以上何かを思うと犯罪になりかねないので、オレはもう一度手を差し出す。
「立てるか?」
少女『……』
少女は、小さく頷いて、オレの手を掴んだ。
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