東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
慧音「では、この問題を解いてみよう」
本日二度目の算術。
午後からの授業は眠気が付きまとうものであったが、耐えられないほどではない。
子どもたちはせっせとノートと格闘している。
「ここは左から順番に計算するんだ」
『うん!ありがとう!』
その様子を各机に回りながら見て、ひとりひとりに助言する。
分からない様子の子、筆が止まっている子を見つけて再び接近し、助言する。
(みんな頑張ってるな)
算数は得意不得意で大きく分かれるため、習熟度はかなりばらつきがある。
得意な子にはジャンジャンやれ、と自主的に進ませる。
不得意な子は一緒に考え、答えへの道筋を暗に示し、自力で歩かせる。
習熟度に差が出るのは仕方ない、そのためにオレがこうして回っている。
『赤せんせー、ここまちがってる?』
「ん、どれどれ……これ、どうやって答え出した?」
『筆算使って、ここをかけてこーして…』
「そこ、何かを忘れてるぞ」
『んーと…あ、くり上がり!そっか!そうだった!』
忘れないように、と言って机を離れる。
(…真っ直ぐな目だ)
子どもはいつだって真剣だ。
間違えに気付いたらすぐに訂正する。
そして新たな学びを形成する。
慧音「答え合わせするぞ、赤い筆を用意してくれ」
子どもたちの「あってる!」とか「うわー」という声が上がる。
のんびりとした授業、しかし皆寝ずに問題と向き合っている。
オレもそんな子どもたちと真剣に向き合う。
(……ん?)
と、オレの視界に何かが映った。
いや、映った、というより、今も尚映っている。
この教室は中庭に直接出られるようになっており、その襖は全て開かれている。
柵で囲われた中庭は、大きな一本木が植えてあったり、慧音が手入れしているであろう花壇があり、休み時間に子どもたちはそこでボールを蹴ったり縄跳びをしたり、様々な遊びに夢中になる。
その映っているものは、一本木の傍。
?『…………』
黒色の服を着た金髪の女の子が、こちらを見ていた。
(……子ども?)
金髪の頭からは赤いリボンがにょきりと生えている。
寺子屋の生徒には見えない。
となると、近所の子どもだろう。
(話してみるか?)
と、思ったが授業中なので教室から抜け出せない。
金髪の子はじっとこちらを見つめているが、動く気配はない。
『赤せんせー、ちょっとー』
「あいよ」
子どもに呼ばれ、その子から意識を外す。
(後で話してみるか)
子どもへの助言を終え、ふと思いだしたように中庭を見る。
その金髪の子は既にいなくなっていた。
§