東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
午後からの授業は眠気が付きまとうものであったが、子どもたちは眠気とノートと格闘しながら授業は終わった。
寺子屋に来るときと同じように、子どもたちは荷物を持ってドタバタと寺子屋を去って行く。
慧音「今日も助かったよ、ありがとう」
見送りを終え、教室の後片付けをしながら、慧音はオレにそう言った。
「なんてことはない、オレも楽しんでやってるし」
夕焼けの教室はオレンジのペンキに突っ込んだように、赤橙に染まっている。
黒色に染まる黒板。
純白に煌めく畳。
そして、光に包み込まれた慧音――。
(……あぁ)
夕日を味方につけた慧音は、なんていうかその、一言でいえば、美しかった。
光の粒子が一つ残らず彼女を綺麗に輝かせている。
そんな美女とオレは、教室でふたりっきり。
ラブコメならばここで告白するか、「私、実は……」とヒロインの告白を受けるか、二択になろう。
慧音「本当、ミナトが来てくれて嬉しいよ」
「…どうも」
ドギマギしつつも、何とかそう返す。
黒板を綺麗にした後に、ふぅ、と吐息を漏らす慧音。
「え、えろ……」
慧音「ん?どうした?」
「い、いや。エロールという太陽の神に感謝していたんだ」
この美女を更に美しくしてくれたこの太陽にな!!
慧音「そうか……ところで」
「なんだ?」
慧音「キミ、昨日野宿したんだって?里中で噂になってるぞ」
「…あー」
先ほども思ったが、たかが野宿で何故これほどまでにとやかく言われる?
それほどまでに、夜の外は危険だということ。
そしてそんな環境で行き伸びたオレもまた危険だということ。
野宿の意味合いはこんな感じであろう。恐るべきノジュク。
「まぁ、泊まるところが無かったから、仕方なく」
慧音「それなら、私の家に泊まればよかろう」
「そうだな、仕方なく……え?」
慧音「だから、私の家に泊まればいいだろう?二度も言わせるな」
「…………え?」
はいこれきたこれ。
[里の人から嫌われ√]でこのままいけば画面暗転、そこにはBADENDの赤文字が――となりかけていた矢先にこれだよ。
10k溶けた後に虹保留引いて天下無双のプレミア予告。
やっぱりオレの愛機は慶次なんやなって……。
(いかんいかん、驚きのあまりパチカスで例えてしまった)
夕日のせいか、慧音の頬が少し赤い。
これは、完全に激レア演出期待度☆5で――ええい、こういう例えは良くない。
「……ひとつ聞かせてくれ」
慧音「あぁ、なんでも」
真っ直ぐとオレを見る慧音の目。
青い瞳をオレンジが塗りつぶした、綺麗な色彩。
「オレは外から来た人間で、まだ慧音と二回しか会っていない。そんな男を、何故そこまで信用する?」
慧音「…そうだな」
オレの純粋な疑問に、慧音は悩むことなく口を開いた。
慧音「子ども達と向き合っている君は、真剣な目をしていた。判断材料は、それだけだ」
「……参ったな」
まさか、そこを見られているとは。
半ば無意識に接していたため、自分がどういった様子か分からないが、慧音にはそうみられていたのだろう。
「オーケイ」
慧音はオレを真っ直ぐと見つめてくる。
同じように、真っ直ぐと見つめるオレ。
二つの視線が、交叉する。
「よろしく頼むよ、慧音」
慧音「こちらこそ、よろしく」
放課後の教室、夕日、そして美女。
なんてことはない、外の世界にもありふれた景色だ。
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