東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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達磨

授業が終わり、子どもたちは既にお昼ご飯を食べ終えていた。

午後には慧音は戻ってくる、という話であったはずなのだが、いくら待っても彼女は戻って来なかった。

恐らくまた里の人達に捕まって立ち往生しているのだろう。

 

(全く、人気者も大変なんだろうな)

 

このままオレが次の授業をやってもイイのだろうが、それは慧音の判断に任せよう。

ひとまず、ちゃんと席で待っている偉い子どもたちの緊張を解くことにする。

 

「お前ら、まだ慧音先生は来ないから、休み時間だ!」

 

『『『はーい!!!』』』

 

一斉に蜘蛛の子を散らすように、中庭に降りていく子どもたち。

子どもは元気だな、と思いつつ、オレは教室に残ったひとりの子へ歩み寄る。

 

「外で遊ばないのか?」

 

チサトは小さく頷いた。

そういえば慧音が「チサトは身体が弱い」と言っていた。

だから、こうしてみんなが遊んでいる様子を見ているのだろう。

 

(でも、遊びたそうだな)

 

でなければ、こうしてずっと外を眺めていることも無いだろう。

オレは意を決して、チサトの手を引いた。

びくっと身体が揺れるも、オレの意図が伝わったようだ。

 

「よーしみんな、今から遊ぼうぜ!」

 

『『『はーい!!!』』』

 

何かしらきっかけを与えればいい。

チサトにも負担のかからない遊びで、かつ子どもが楽しめる遊び。

そして幸いにも、中庭には立派な一本木がある。

これは、神がオレに『ジャパニーズ・だるまイズローリング』をやれ、と言っているに違いない。

 

「ルールは分かるよな?」

 

一斉に頷く。流石はジャパーニーズゲームだ。

オレが最初に鬼を務め、子どもたちは寺子屋側に並ばせる。

 

「ダルマイズローリング!」

 

意外に食いつきはよく、子どもたちはイケそうなところまで攻めつつ、頑張って立ち止まろうとする。

だが、攻めすぎたことが仇となり、

 

「ポチ、テツ、動いたな」

 

元気な男子二人は「やっちまった~」と悔しそうにうめく。

次のコールをかけ、今度は少し時間を置いて眺めてみる。

これをすることで、しびれを切らした子どもが動くことがあり、

 

「ショタ、お頭が動いたぞ」

 

ショタ「うぅ~動いちゃった…」

 

大人の悪知恵をフル活用し、どんどん人質を取っていく。

最終的に残ったのは、チサトただ一人だった。

ゆっくりと堅実に動いていたのが功を奏したのだろう。

周囲からは「チサトつえー!」と称賛の声が上がっていた。

 

チサトは何度コールしても動くことは無かった。

じりじりと距離を詰められていき、後数十センチに迫った。

 

(これはチサトの勝ちかな)

 

最後と思われるストップコールを掛け、彼女は動きそうになかった。

 

?『お、随分楽しそうだな』

 

寺子屋側から声がした。

子どもたちは一斉に声がする方を向いた。それはチサトも同じだった。

 

「チサト、頭が動いたぞ」

 

チサト「え……あ……」

 

最後の人質は寺子屋からの声――慧音によって捕らえられた。

オレも攻めあぐねていたので、助かった。

 

チサト「……ずるい」

 

「人生何が起こるか分からないな」

 

チサト「……負けない…」

 

チサトにしては珍しく、悔しかったのだろう。

それでも、クラスメイトからは「頑張ったね!」と称賛の声を掛けられていたので、彼女を遊びに巻き込んでよかった。

子どもたちもつかの間のリフレッシュが出来たようで、笑顔で教室に戻っていった。

 

「悪いな、慧音。つい遊んでいた」

 

慧音「いいんだ、私も遅くなってしまってすまない」

 

「何処へ行っていたんだ?」

 

慧音「稗田家に行って会議をしていたんだ。途中でキミの話で盛り上がってしまい、気付いたら正午を回っていた」

 

「オレの話?」

 

慧音「他愛もない話だよ。とにかく、子どもたちを見てくれてありがとう。午後はゆっくりとしていてくれ。教員室にお菓子があるから」

 

そう言って、慧音は授業の準備をしに行った。

 

(稗田家、か……)

 

もし機会があれば、その家に赴いてみるか。

慧音と会議をするということは、里の有識者と考えて悪くなさそうだ。

オレは少しの間、雲一つない空を眺めていた。

 

(こんな元気な空の下で暗い顔をした奴はバカだ」と言っている奴はバカだな)

 

 

§

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