東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
これは満漢全席ですか?
いいえ、慧音の手作りご飯です。
それにしては、凄まじい量ではないのでしょうか?
いいえ、これはお前の為に作られたのです。
(オーケイ、やるときにはやるんだ、男の子ってのはなぁ!!)
慧音が台所から戻ってきたところで、合掌をする。
「いただきます」
「いただきます!!」
「随分と気合が入ってるな」
「美味しそうなご飯を前にしたら誰だってこうなるさ、オレだってそうする」
ご飯、大根の味噌汁、レタスのサラダ、鶏のから揚げ、揚げ出し豆腐、茄子の漬物、小魚のごまだれ和え……頭で分かったのはこれぐらいだ。
後は恐らくかなり手が掛かっているであろう料理が数品置いてある。
帰ってから数十分しか経っていないが、いつ作ったのだろうか?
(魔法だ、慧音は台所でのみ時間を止める力を持っているに違いない)
とにかく慧音の作る飯は美味い。
美味すぎて、言語能力が低下してしまうほどだ。
「初めての授業はどうだった?」
「んむっ…みんな素直で助かるよ。はぐ、まるでスポンジみたいに吸収してくれる」
「あいつらは本当に無垢だ。教えがいがあるぞ」
「慧音の教えがあってだな」
「ふふ、ありがとう。ご飯はまだまだあるから食べてくれよ」
「おう、さんきゅ(まだあるのかよ……)」
揚げ出し豆腐を口に運ぶ。
濃厚な醤油だれにふんわりと鰹節が香ってくる。まるで豆腐のステージで二者が躍っているみたいだ。
慧音も自分で作って納得がいっているのか、その箸は止まることを知らない。そりゃそうだ、こんなに美味いのだから。
「で、仕事を任せたいってのは?」
「はむっ…そうだった、ミナト。算術以外にも教えられるか?」
「ああ、パッションがあるから余裕だ」
「そうか、そしたら国語を任せてもいいか? 最初に授業の補助をしてくれた時から頼みたかったんだ」
「オーキイドーキイ、任せてくれ」
上司から頼まれる部下は良い部下だって相場は決まっている。幻想郷じゃあ常識なんだよ!
教材はご飯の後で貰うことになった。
「それにしても、慧音の作る料理は美味いな」
「そうか? 人並みにやっている程度だけどな」
「オレも作っているが、どうしても味が単調になっちまうんだ。どうすれば上手くいく?」
教育者として試しているわけではないが、オレの純粋な疑問に慧音は真剣に考えてくれる。
「そうだな……まぁ、食材や調味料の良さはあるな、後は……愛情だな」
「あ、あいじょう」
「そうだ。……ん? どうした、どんなことでも愛情は必要だろう?」
「う、うむ。ジャパニーズ愛情。勉強になるぜ」
慧音は真っ直ぐな目でオレを見ている。
よくも恥ずかしい台詞を真っ向からぶっこんでくるもんだ。
オレは味噌汁に手を伸ばす。白味噌と大根の相性は抜群だ。
「まぁ、後は続けることだろうな。忙しくても、疲れていても、続けるんだ」
「継続は力なり、っていうもんな」
「どんなことでも続けていれば身に付く。日々こつこつと積み重ねていくんだ」
「お、先生らしい言葉。真似させてもらおう」
「私が先生と呼べるのか、果たして疑問だがな」
満漢全席はあっという間に減っていき、全てのお皿が空になった。
まるで次郎系ラーメンを食べたような気分だが、それを上回る満足感に満たされた。
これも、慧音のいう『愛情』のおかげなのだろう。
どういう種類の愛情なのかは、この際考えないようにした。
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