東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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葉巻

「まんーてんーのーそーらーにきみーのこーえがー、ひびーてーもいーよーなきれいなーよるー」

 

寒空の星々を見上げながら、煙草屋で買った葉巻に火をつける。

made in幻想郷の葉巻。

吸ったことは無いが、別名『シガー』と呼ばれるぐらいだ、もしかしたら砂糖みたいに甘いのかもしれない。

そんな興味の元、ゆっくりと息を吸い込む。

 

「…………」

 

ガツンと頭を殴られるような苦味に襲われた。

そして吐き出したくなるような臭みが口の中に広がる。

しかし苦くも味わい深く、外国の紳士が淹れ立てのエスプレッソと一緒に味わっていそうな、そんな味。

とてもコクのある滑らかな害煙だ。

 

「嫌いじゃないな」

 

再びゆっくりとふかしながら、帰路を歩く。

もうすぐ日を跨ぐ頃だ。勿論外には人どころか家の灯りさえも付いていない。

 

(また外来人確定、とか言われそうだな)

 

いつぞやの美女が頭に思い浮かぶが、すぐに消えた。

煙草は喫煙所で吸うのがマナーだが、誰もいない時、そして少しセンチメンタルな時はこうやって歩きながら煙草を吸いたくなる。

何でセンチメンタルなのかは分からないが、幻想郷の夜がそうさせるのだろう。

 

「…………」

 

改めて人里をゆっくりと眺める。

街灯がぱちぱちと点滅する光には、蛾や虫たちが集う集会場になっている。

外の世界では、よく深夜に自販機に行くと、歩行者天国ならぬ虫けら天国になっていた。

お釣りの10円を取り出したと思ったらコオロギだったなんてザルにあった。

そんな事を想い出しながら砂道を歩く。

 

 

後ろから近づいてくる足音に耳を傾けながら。

 

 

「……何の用だ?」

 

暗闇の中、振り返ると、そこには女性が立っていた。

表情は真っ暗で見えないが、白のシャツにダボダボとした紅いズボン、そして頭に乗った紅いリボン。

月光に照らされた白く長い髪には小さなリボンが幾つも結んであった。

見たことがある。

というより、先ほど思い描いていたあの美女だった。

 

?『結局、外来人として生きることにしたんだな、ミナトちゃん』

 

「ちゃん付けはやめろ。そういうアンタも人間離れしてるぜ、妹紅」

 

カッカと笑いながら、妹紅はオレの隣にやって来た。

頭上の星空と相まって、彼女は以前より美しく見えた。

 

妹紅「で、美味そうなモン吸ってんじゃん。ひとつくれよ」

 

「お前は街灯に集まる虫か」

 

妹紅「虫、というより白アリだな」

 

「……オレは食い散らかされるのか?」

 

よく分からない会話を交わしながら葉巻を差し出す、さんきゅ、と妹紅は笑った。

なんだか彼女はよく笑う。

笑顔は素敵だが、どちらかといえばダウナー系だと思っていた。

ギャップというのは、いつも不思議な感情にしてくれる。

 

妹紅「飛んで火にいる夏の虫、ってね」

 

気付けば妹紅の葉巻は着火されていた。

手品のような速度だ、なんだか騙されている気分になる。今日は素直に聞くことにした。

 

「おい、いつもどうやって火を付けているんだ?」

 

妹紅「あァ? そりゃ、炎だろうよ」

 

「にしてはライターを付ける素振りを見せないな」

 

妹紅「らいたー? らいたーって、なんだ?」

 

妹紅の前でライターを擦ってみる。

炎が出ると、「おぉ」と驚嘆の声が上がった。

 

「……マッチも使ってないんだろ?」

 

妹紅「何だ、気になんのか? 私がどうやって炎を付けているのか」

 

「……指先から火を生み出すことが出来る能力、に花京院の魂を賭けよう!」

 

妹紅「はは、結果はいつか教えてやるよ」

 

葉巻は相変わらず苦かったが、妹紅は関係なしに笑いながら吸っている。

煙草を吸う美女は風情だが、葉巻を吸う美女もまた趣がある。

ハードボイルドとセクシーを掛けて出来上がったハイブリッド体だ。

 

妹紅「でさ……そういえばさっき、けーねとお楽しみだったな?」

 

「むほぁッ」

 

煙草の煙が変な方向に行き、思いっきりむせる。

葉巻の煙は素晴らしく肺に来る、最高にハイってやつだ。

 

「お前、見てたのか? というより、慧音のこと知ってんのか」

 

妹紅「そりゃあね。腐れ縁……とか、そんなとこだ」

 

「へぇ……妙なところで繋がってんだな」

 

妹紅「あんな慧音の喘ぎ声、初めて聞いたよ」

 

「話を戻すな!」

 

ばっちり聴いてるじゃねぇか、と心の中で叫ぶ。

途端に頭が熱くなってきた。

先ほどまで忘れていた慧音のことを思いだして、居たたまれない思いに駆られる。

 

「ま、まぁあれはマッサージの一貫だしな。慧音も疲れていたし、別によからぬことはしてないでござるよ?」

 

妹紅「分かってるよ。ちゃんと手を出さなかったところで偉いさ」

 

なんだ、これ?

妹紅の眼は騙せないようだが、何故か褒められている。

それほど妹紅は慧音の事を心配している、ということだろうか。

まだ妹紅のことがイマイチ分からない。

 

(……分からない、か)

 

妹紅のことだけではない。

慧音のことも、オレはまだ分かっていない。

 

――彼女が見せた、あの暗い顔が、ずっと脳裏に焼き付いているからだ。

 

幾分吸ったところで葉巻の火を消す。

二本目を吸いたい気分だったが、葉巻を吸う気分ではない。

仕方なく、外の世界で愛用していた残り少ない煙草を取り出し、ライターで火をつけて深く息を吸う。ドギツイ物を吸ったせいか、なんだか物足りなさを感じた。

 

薄い煙が、紺の空へたなびいていく。

 

 

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