東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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新聞

翌朝。

初めて米を焚くことにした。

釜戸に薪をくべ、新聞紙に火をつけ、見様見真似で筒を使って風を送る。火は少しずつ大きくなり、やがて大きな炎となった。

 

(フィーリングとセルフイメージで何とかなったな)

 

数十分後、ご飯が炊きあがった。

少しべちょべちょこそしているが、甘みがあって美味い。

米を茶碗に盛り付け、その上に生卵を落とす。

そして一つまみの塩を少々。

加えて刻みネギ投入。そして少しかき混ぜる。

 

「やっぱりお前だTKG!」

 

食卓に減塩味噌汁と新鮮な野菜を使ったサラダも添える。

 

「ゴキゲンな朝食だ……」

 

朝ごはんをかき込み、あっという間に平らげる。

空いた食器を流しに運び、煙草に火を付ける。

 

「ふぃ~」

 

部屋で吸うのはやめようと考えたが、やっぱりそこは欲望が勝ってしまった。

我ながらクズだと思うが、今更仕方がない。19年間の経験だ。ビバ人生!

 

(……そいや)

 

ふと思い立ち、玄関へと向かう。

そこには先ほど放り込まれたであろう新聞があった。

別に契約した訳ではないが、新居に一定期間放り込む、試し読みの段階なのだろう。

 

(……あっちの世界の新聞、解約すりゃあよかったか)

 

今頃オレの家のポストは満員電車状態になっているだろう。

新聞は一応軽く読んでいる、そんな程度だ。

 

「どれどれ……」

 

幻想郷の新聞は、いかにも新聞のような新聞だった。新聞だから当たり前だが。

新聞の名前は[文々。新聞]――これまたイカしたネーミングだ。

 

「……どっかで読んだような気がするぞ」

 

訝しがる気持ちと共に、読み進めていく。

新聞は一面と二面のみで内容は薄いが、文字はびっしりと書かれている。手書きのようにも見えるが、とても読みやすい綺麗な字だ。

 

 

【幻想郷に新たな人間現る!!】

 

 

一面のタイトルにはこう大きく書かれていた。

 

「ん?」

 

嫌な予感を覚えながらも読み進める。

 

 

【突如幻想郷に現れた外来人。それは、幻想郷のことを知っていた謎の人間だった!】

と、文字は躍る。

 

 

「んん?」

 

新聞を持つ手に力がこもっていく。

 

 

【彼は何者なのか、調査した結果能力は持っていないようだが…無能力とは珍しい。

たいてい外の人間は謎の力を持つか、幻想入りして数瞬後には能力が開花する。

この人間は言い得て妙なる存在だ。前者でなければ後者でもないのだから――】

 

 

「んんんんん」

 

 

【なお、今回本記事の取材には、某博麗の巫女と、その場にいた野次馬魔法使いのお二方に協力していただきました。いつも我が新聞にご協力――】

 

 

「霊夢と魔理沙か……やりやがったな」

 

新聞紙を床にたたきつける。

なんだこの内容は。というかいつ取材した? いや取材なんてしていない、ただ知り合いから聞いただけの口コミ新聞ではないか。

しかもその見出しの写真は、オレが人里の喫煙所で一服している時の写真。

いつこんなものを撮ったんだ。

盗撮だ。不祥事だ。

 

「なんだ、このクソ新聞……反吐がで――」

 

?『お楽しみいただけましたか外来人さん!』

 

「うおぃッ」

 

突然玄関の扉がこちらに倒れてきた。家の扉はスライド式なので、こんな開き方はしない。

破壊されたといった方が適切である。

眼前には、優しい朝日の光に包まれながら、ショートヘアの女性が立っていた。

その女性はニコニコしながらオレに近づいてくる。

 

?『お楽しみいただけましたか外来人さん!』

 

「待て、扉」

 

?『お楽しみいただけましたか外来人さん!』

 

「踏んでる踏んでる」

 

?『お楽しみいただけましたか外来人さん!』

 

「人の話を聞け!!!」

 

朝っぱらからどんちゃん騒ぎで血圧が上がり、血管がぶちぎれそうだ。

煙草を吸った後だから、身体もぴぎゃァァァ疲れたもおおおん、と悲鳴を上げていた。

 

?『どうでした?新聞の中身は』

 

何かを求めているようなので、そのにっこりとした顔に最高の評価を言い渡す。

 

「星ひとつ」

 

?『え?』

 

「最低の内容だよ。取材ミスだろ」

 

?『そんなこと!霊夢さんと魔理沙さんに聞いた話ですから間違いないでしょう!』

 

「やっぱりあいつらか……まぁ、間違いはないけど、間違いだ」

 

首をかしげる女性。頭のボンボンがゆらりと揺れる。

話の筋から、この人がこの新聞【文々。新聞】を書いた発行者に違いない。

 

?『それは間違っていない、ということでは?』

 

「内容に間違いはない。だがピックアップする処が間違っている、というわけだ」

 

今度は逆側に首をかしげる女性。

ふわりとした風が吹き、自然の香り、木々の香りがした。

 

?『うーむ。頑張って書いたんですが、本人に否定されちゃいました……ってことで!』

 

「て、ことで?」

 

嫌な予感はいつも的中するものだ。

 

?『今から清く正しく取材させていただいてもよろしいですか!』

 

「断る」

 

オレは女性を軒並みへ追いやり、倒された玄関の扉を起こそうとする。

が、彼女の紅い高下駄がそれを踏みつぶした。

 

?『何でですか!ご本人様が不満ならご本人様から直接取材した方が納得のいく形になりましょう!』

 

「最初からそれをやらなかったアンタへの信頼度は皆無なんだよ!」

 

?『それならこれから築いていきましょうよ?長城は一日にして成らず、です!』

 

「一生築かなくていいそんなもの!というか足!だから扉踏みつぶしてんだよ!」

 

?『知ってますよ、わざとやってますから』

 

「ドヤ顔でいうな!」

 

ぐい、ドン、ぐい、ドン、と扉を巡った一進一退の攻防を繰り返す。

Q「今の扉の気持ちを答えよ」と来たら、A「やめて!私を巡って争わないで!」というのが模範解答になる。もちろん試験には出ない。

 

(……待てよ?)

 

激戦を繰り広げている中、オレの脳裏に一筋の光が弾けた。

それは希望の光であった。

加えてナイスでグッドなエレガントを秘めた究極奥義でもあった。

 

「…………」

 

外れた扉から手を放す。

ばた、と風圧で砂埃が舞い上がる。

 

?『お、なんですか?ようやく取材に応じてくれますか?』

 

「……その新聞は、人里全戸に配ってるのか?」

 

?『ええ、人里どころか幻想郷全土にお届けしておりますよ』

 

「……オレの発言が、一面で、全土に広がる訳だよな?」

 

?『そう思っても差し支えありません。新聞の力、侮るなかれです!』

 

ホホホ、と笑う女性に、オレはにったりと笑みを浮かべた。

新聞。

情報。

拡散性。

情報は非常に速く、広く拡散する力を持っている。

マスコミは情報操作やら世論調査などと言葉こそすり替えているが、要は情報は武器だ。ペンは剣より強い。

幻想郷にネットはないが、新聞はある。その特性、使わせてもらおう――。

 

「一之瀬ミナトだ、よろしく頼む」

 

文「射命丸文です。ギャラは、はずみますよ?」

 

オレたちは固い堅い握手を結んだ。

 

 

§

 

 

 

 

§

 

 

ついに、外来人の全てが明かされる!

 

今回取材に応じてくれたのは、今最もアツい外来人、『一之瀬ミナト』氏。

つい先日に幻想郷の土を踏んだばかりの青年だ。

氏は外の世界では『大学生』という役職につき(いわゆる寺子屋の生徒のようなもの)、その自身の知識に磨きをかけていた。

外の世界では友と言い切れる友人が三人ほどいたそうだ。今はどうしているか分からないが、叶うならまた会ってみたい、と一之瀬氏。

(*人間は繋がりを求める生き物なのである)

 

そして注目の氏の”能力”について。

念入りに念入りに調査を行ったが、『能力なし』と筆者は判断した。

しかし取得している技術は多く、運動遊び全般から学問、生活術など幅広い。

外ではひとりで生きていたらしく、幻想郷に失踪したと思われる父親を捜している。

 

筆者の印象としては、とても適当な人物のように思えた。

しかし、心の中に自分の目指しているものがはっきりとしていて、揺るぎない心がその瞳を照らしているのでは、と感じた次第だ。

一之瀬ミナト。彼は幻想郷で愛される存在になろう。

 

ちなみに彼は根っからの愛煙家なので、農夫の皆さん、ぜひ彼をこき使ってあげてください。

 

 

 

(【文々。新聞】第****号 二面記事より)

 

 

§

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