東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
朝はどうしても苦手だった。
血圧が低く身体が起きないにも関わらず、身体を起こそうとして血圧を上げなければならない。
矛盾した現実を突きつける朝は、嫌だった。
「……っむ、ん…」
しかし朝は雀の鳴き声が綺麗だとか、気温的にも気持ちのいい時間帯だとか、個人的には好きだった。身体との相性が悪いだけである。
「……眠眠…」
オレは闇雲に布団から片足を突き出した。布団という悪魔に囚われた一般人。
せめてもの抵抗、脱出の一途となる決定打は繰り出せないでいた。
硬直状態、冷戦、鍔迫り合い。
様子を伺い、相手のミスを誘う。
ふと、毛布がその拘束力を弱めた――かのように見えた。
これを好機と呼ばずして何になろうか。
「眠眠打破ァ!!!」
ぼふん、と毛布を蹴り上げ、直後に立ち上がって拳と蹴りを繰り出す。
「喰らえ、獅子連弾!!」
残りの6発の打撃を受け、コンボ技の締めはかかと落とし。
もふぅ……と毛布は力尽きた、と思う。
「鍛え直せ、うすらトンカチ」
なんやかんやして身体は起きた。
台所に向かい、顔洗いを済ませ、歯を磨く。磨いている間に貯蔵庫の中身を確認。
昨日寝る前に考案したねこまんま(毒抜き米なし)とサラダがある。
「朝食は君に決めた!」
直後、設定したアラームが鳴ったので急いで止める。目覚ましは五分間隔で鳴るのでそれら全てを停止させる。
そして最後に玄関へと向かう。
「ゴ―ホームクイックリィ」
玄関には、この間取材を受けた新聞 [文々。新聞] が放り投げられていた。
取材後に購読を勧められ、お世話になったから、という理由で読んでいる。
その内容は情報新聞、というよりほのぼのとした地方新聞のようなもので、何処かの誰かさんの花畑が綺麗だとか、この人は魔法の研究に勤しんでいる、などといったものが多い。
オレのように外来人を取り扱った内容はレアなのだという。これは同じく購読している慧音から聞いた話。
一面記事には、慧音と昼食を取った定食屋[無頼]が載っていた。
「お、この間の定食屋じゃん」
大きく[無頼]と書かれた暖簾の前で、店員一同が笑顔でピースしている。
記事はグルメ誌のような質問と応答が載っており、お店の魅力などを語っているが、「このお店の利益は?」とか「どういった年代の方が集まるのか?」などと質問が意外と鋭いように思えた。何だかんだ射命丸はしっかりとした新聞記者なのだな、と思う。
ふと新聞を広げると、ひらりと何かが落ちた。
「おん?」
玄関に落ちた物を拾い、土埃を払う。一通の手紙のようだ。
茶色の封筒の表紙には何も書かれていない、差出人不明。
([文々。]新聞の付録か?)
新聞を朝食の置いた卓袱台と一緒に置き、封を開ける。
出てきたのは、一枚の便箋だった。
「あ?」
内容も、とても短い一文だけ。
――今宵、迷いの竹林奥地にて君を待つ――
単純で明快な一文だった。
しかし同時に、複雑性と暗示性を持っていて、オレの頭には?マークがいくつも生み出された。
「迷いの竹林?オレを?待つ?」
食卓に向かい、ねこまんま(毒抜き米なし)に卵を落とし、かき混ぜる。
手紙は招待状のようだった。招待、という軽々しい物ではないのかもしれないが、文面からして誘われていた。
ただ、素敵なパーティをしましょ?というより、決闘だァ!!といった方がしっくりくる。
「……そんなに恨まれるようなことしたか?」
サラダをかき込む。
心当たりは全くない。恨まれるどころか、こちらに来て間もないのだから恨まれる筋合いはないはずだ。
――いや、一つだけあった。それは、喫煙所のオッサン達だ。
[紅魔館]という名を借りて追っ払った時の、その仕返しと考える事も出来る。
「でも、この書き方…どっかで見たことあるんだよなぁ」
淹れた冷茶を啜る。
妙に引っかかったのは、文字の書き方だ。手紙の文字はかなりの達筆で、はっきり言って読み辛い。かろうじで何とか読めるが、日常的に文字と関わりのない一般人がこのような文字は書けないだろう。
農夫も然り、彼らがこれほどの字を書けるだろうか?
「でも、気を付けた方がいいな」
ねこまんま(毒抜き米なし)は美味だった。これをあのクロネコに上げるのは少々勿体ない気がする。後に改良して[一之瀬風ズボラ飯]に仲間入りさせよう。そして次は、米を入れよう。やはり日本人は米が主食である。米の焚き方を学ぶ必要がありそうだ。
手紙を封筒にしまい、卓袱台に置く。
「……頭がコンテニューしねぇ」
まだ醒めきっていない頭で考えても進まない。
「寺子屋で考えるか」
授業は昼からだが、朝から寺子屋に行って色々と雑務をしていよう。作業しながら考え事をすれば二つとも捗る、まさに一石二鳥。
「貴方の為のパーソナルAI、発火ドールッ!!」
食後の煙草を吸い、オレは仕事用の和服に袖を通した。
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