東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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挨拶

和服に身を包んで、寺子屋を目指す。

寺子屋は、オレの家から少し離れた場所にある。人里の中心部分に寺子屋があるのに対し、オレの家はそこから東側へと突き進んだ、外れの方に位置している。

遠いというほどの距離ではないが、必然的に建物が密集する地帯であるため、縫うようにして向かわなければならない。

ちなみに、慧音の家は寺子屋の西側に位置する。ちょうど反対側だ。

 

「今日もいい天気」

 

太陽に照らされた道を歩く。

ぽかぽかと春の陽気は暖かく、眠りを誘うような心地よさだ。

『春眠暁を覚えず』という言葉があるが、人々は朝早くから起き、活動していた。

水を汲みに行く者、家の前で薪を割る者、荷物を背負って関門へ向かう者など、幻想郷の朝は早いようだ。

『早起きは三文の徳』の方がしっくりくるのかもしれない。

さて、オレも彼等同様に朝早くから寺子屋へと向かっている。偉いぞオレ、と自己肯定感を挙げていると、

 

『やぁ、おはよう。赤先生』

「どうも、こんにちは」

 

道行く人と挨拶をする。

外来人は珍しい、という理由でオレの存在は知れ渡っているようで、たまに挨拶をされる。

それは寺子屋で先生をやっているからであり、『文々。新聞』によって情報が拡散されたからだろう。

と言っても、まだ怖がられてはいるが、「赤い先生」ということで興味のある人はこうして話をしてくれる。野宿をして恐れられていた頃が懐かしい。

 

男『今日は満月みたいですね』

 

荷物を背負った男性が、会釈をする。

同じように会釈を返した。

 

「どうやらそうみたいで」

 

男『外の世界の満月よりも凄いと思いますよ』

 

ほう、と息が漏れる。

里の人が言うのだからその迫力は間違いないだろう。

外の世界の満月は美しいと呼べるほどではなく、第一に、人々は月に関する興味を失いつつある。

一体、幻想郷の満月はどれほどなのだろうか。

 

男『春の満月は素晴らしい。今宵博麗神社で宴会を開くそうです。先生も行ってみたらどうでしょう』

 

「博麗神社で、宴会」

 

霊夢の顔が浮かぶ。

恐らく魔理沙も宴会に行くのだろう。久々に彼女達に会いたい気持ちはある。

しかし、あの[手紙]の存在が引っかかった。

 

「楽しそうですね」

 

『まぁ、博麗神社に行けたらの話ですよ。神社前の夜の森はとても危険だから』

 

霊夢が案内をしてくれないのか。

魔理沙の言っていた「人があまり来ない」ってのはそういうことなのだろう。位置的に損をしている神社である。

男性と別れ、再び歩みを進める。

頭の中は既に切り替わっていた。今朝の『手紙』の内容が浮かぶばかりだ。

 

(迷いの竹林、奥地……)

 

迷いの竹林――。

全く聞いたことの無い場所だ。「迷い」とついているのだから、一筋縄ではいかないだろう。RPGでも「迷いの森」等のマップは法則性に沿って進まなければ入口に戻されてしまう。

知らない所に飛び込むのは自殺行為に等しい。ましてや、人里の外にある竹林なのだから妖怪に出くわせば命の保証は出来ないだろう。

――これは誰かに相談すべきなのかもしれない。

ただ。手紙の送り主は不明なため、何が起こるか分からない。慎重に情報を集めねば、いつどこでオレの行動がばれ、報復を受けるか分からない。

朝早く家を出たのもそのため。寺子屋には立派な先生がいる。その人に迷いの竹林について詳しく聞こうではないか。

 

(いつも頼ってばかりですまないな、先生)

 

想いに耽っていた所で、寺子屋に到着した。

 

§

 

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