東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「……」
暗闇の中でぽつりと浮かんだ黄色の球体が通り過ぎていく。
また生まれた黄色の玉。
同じく光の帯を作りながら、視界に移っては消えていく。
少し暖房の効いた車内はほんのりと暖かかった。
「……んん…」
ナギの指定した集合場所、学校の裏庭にある神社。
そこは繁華街とは学校を挟んで反対側に位置する山に存在している。
学校裏とはいっても、その神社の場所は距離にして10㎞程あり、バスを使わなければならないほど遠い。
まぁ、そこまで行きたい!という物好きは大抵神社巡りを趣味としている人か、ランニングに訪れる人か、オカルト好きなゲーマーのみ。
だから、神社の山へと通ずるこのバスは、一時間に一本しか通っていない。
「ふわぁ……」
オレはひとつあくびをする。
隣で頭を抱える凌雅のおかげで、最終バスに乗り遅れてしまうところだった。
「……ねみィ…」
凌雅「ああああぁぁぁ…バイト、さぼっちまったよ。[真面目な凌雅くん]として名をはせていた俺が、こんな不真面目になっちまったよ…」
「そう落ち込むなよ」
凌雅「これが落ち込まずにいられるか!!今日バイト先のかわいい後輩とシフトがかぶってたのによォ…あぁ神よ、日頃の俺の行いは完璧なのに、道端で見つけたタバコの吸い殻をすべて拾って携帯灰皿に入れているぐらい徳を積んでいる俺に救いの手を…」
「タバコ吸えばすべて解決だぜ」
凌雅「お、そうだな」
バスの中にはオレたち以外に誰もいない、普段人がたくさんいる場所だからか、新鮮味を感じる。
運転手にタバコを吸っていいか聞くと、快く了承してくれた。
彼の服から漂う煙草の匂いが、同業者であることを伝える。
凌雅「いい運転手だな」
「全くだ」
凌雅とオレは窓を全開にし、煙草に火をつける。
煙は風に乗って靡いていく。
夜の煙草は昼のとは別の味がした。
凌雅「ふぃ~…いつも吸わない場所で吸う煙草は美味いぜ」
「これでオレたちは反社会勢力だ」
凌雅「ささやかな犯行だぜ。それなら豪快にバスジャックでもするか?」
「いいねぇ。そして日本を一周するやつ」
凌雅「運賃どんぐらい掛かっちまうんだろうなぁ」
「普通に乗ってんじゃねぇか」
そんな会話をしていると、バスの電光掲示板が切り替わり、赤い文字が点滅する。
――次は、伏見山、伏見山。綺麗な山々に囲まれた豊かな自然が――
アナウンスが流れ、オレたちは煙草を携帯灰皿に押し込める。
やがてバスは止まる。
運賃を払い、運転手に軽く会釈する。最後の客だったのか、彼は帽子を脱いでその光輝く頭をオレたちの方に向けた。
『頑張ってくださいね』
凌雅「え?あ、どうも」
なんかよく分からない励ましを受け、バスを降りる。
降りた途端に、冷気が頬を撫でる。
季節は春こそ過ぎたものの夏とは言えない、曖昧な季節。
夏に向かって時は流れているが、夜はまだ名残惜しそうに春の気温を残していた。
凌雅「さてと、これからは肝試しといくかー」
ナギとの約束の場所は森を抜けた場所に位置する山の頂上。と言ってもそれほど高くなく、元気なお年寄りが朝にウォーキングするのに絶好の高さ。
目の前に広がる暗き森は、おどろおどろしく不気味な雰囲気が漂っている。
「誰が寂しくて男とやらにゃならんのだ」
凌雅 「叫んでいいぜ?そしてオレの胸の中に飛び込んできて――ぐゆッ」
オレの放った手刀が凌雅の鳩尾にしっかりと食い込む。
「ついて来いよ、落単マン」
凌雅「やめろミナト、その術は俺に効く…ってか今更だけど俺心霊写真とか百物語とか暗い場所で思い出しちゃって動けなくなるタイプなんだってオイ待てよミナト!!」
森の中へと足を踏み入れていく。
道はしっかりと整備されている、少なからずオレたちを山へと導いてくれるようだ。
(…かったりいな)
早く要件を済ませ、睡眠を取りたい、とオレは考えていた。
§