東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

60 / 122
春眠

春眠不覚暁

 

 

処処聞啼鳥

 

 

夜来風雨声

 

 

花落知多少

 

 

 

しゅんみんあかつきをおぼえず

 

 

しょしょていちょうをきく

 

 

やらいふううのこえ

 

 

はなおつることしんぬたしょうぞ

 

 

 

春の心地よい眠りのため、春は明け方が来たのがわからない。

 

 

あちらこちらで鳥が鳴くのが聞こえる。

 

 

夕べは雨や風の音が聞こえた。

 

 

どれだけの花が散ったのかは、わからない。

 

 

 

(孟浩然『春眠』より)

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

オレは空を飛んでいた。

 

比喩表現などではなく、幽体離脱~的な意味でもない。

 

間違いなく、風を感じていた。

 

遥か下には小さくなった大地が広がっている。

 

空を飛ぶのは初めてなのだが、俺は当たり前のように飛んでいる。飛んでいるから当たり前なのだが、その感覚はまるで呼吸やまばたきと同じく、当たり前のように。

 

風圧で息が出来ない。

 

空を優雅に飛ぶ鳥はどうやって呼吸をしているのだろうか?

 

もしかしたらエラ呼吸ってやつか。そうしないとこんなに空気がいっぱいある空で呼吸困難になる。

 

思えば鳥は嘴が尖っているから、風を受け流すのかもしれない。海の中でイカが自由に泳げるのも槍状の頭で水圧を受け流しているから。同じかどうかは分からないがそういうことだろう。

 

眼下に広がる大地は幻想郷だった。凸凹とした大地だ。山が多く平地が広い。100人に聞けば98人がザ・田舎と称すだろう。残りの二人は幻想郷、と答えるかここは日本じゃないと答えるか。どちらも正解ではあるが。

 

ただ、かなり広く見える幻想郷には『結界』が張られている。陸続きに見えてもある所から先は結界によって進めない。

 

見えているもの全てが現実とは限らないのだ。

 

結界に触れた時、人間はどうなるのだろうか?と素朴な疑問。試す事はないだろう。なんだかそんな気がする。

 

空を飛んでいると、俺よりも早いスピードで何かが横切る事が多い。それは風を切る音が聞こえたり、風圧を感じたりと高速で動くから起こる現象だった。姿は黒かったり白かったりする。スカイフィッシュとかいう幻の魚かもしれない。今じゃあそれは光の屈折による光の可視化として片づけられているが、はてさて。

 

飛行を続けて、ようやく俺は大地に降りる事にした。行く宛てもなく流れるように飛んでいたので、そろそろ人間生活に戻ろうとする。

 

空の生活も良いが、大地に足が付かないのは少々不安だ。やはり人間は遺伝子的にも大地で暮らす生き物なのだろう。鳥とは一生相いれることは出来なさそうだ。

 

地面が近くなってくる。降りるポイントはちょうど人里の真ん中だった。

 

上空数百メートルで速度を落とし、ゆっくり、ゆっくりと降りていく。しかもそこは寺子屋の中庭。さすがオレ。良い所に着地しようとしていた。

 

徐々に距離を詰めていく。寺子屋から子どもたちが外に出て、オレを指さしたり手を振ったりしている。

 

温かい歓迎に笑いながら、地面に足を付こうとする――が。

 

 

 

体勢を崩し、頭から地面へと着陸する――。

 

 

……

…………

 

 

「はにゃにゃフワッ!!!」

 

粒の粗い砂が口の中に入り込む。

咄嗟に砂を吐き出す。

目の前、そこには大地があった。

空からの着陸は失敗し、顔面から地面と激突したオレは、なぜか頭の中はぼんやりとしていて、何が起こったのか分からない。

砂の味、地面の匂い、その次に五感が捉えたのは、音。

上の方から湧き上がる笑い声だった。

その声は中庭の方に向かって放たれている。よく聞くと、子どもの声がした。

 

『わ、だっせ~~』

『赤せんせーってば、落ちてやんのー!!』

『いたそ~大丈夫かなぁ?』

 

だんだん意識がはっきりとしていく。

身体を起こすと、そこには子どもたちが教室と中庭の間に位置する廊下に並んでいた。

見る限り筆とノートを持っている、授業中だったようだ。さしずめ授業を中断しオレの事を見に来たのだろう。

状況を理解すると同時に、頬が熱くなる。

子どもがわいわいと囃し立ててくる中、授業を仕切っていた先生が手を差し伸べてきた。

 

慧音「大丈夫か?ミナト」

 

「……あ、あぁ」

 

慧音「とても気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのも悪いかなって」

 

慧音の手を掴み、立ち上がる。子どもたちからは「おお~」という謎の歓声が上がった。計画は無事成功だ。だがオーディエンスが湧いていることは予想外だ。

太陽はいつの間にか真上に昇っており、正午前まで時は進んでいた。

授業を中断させたままなので、子どもたちには「たまにはいっぱい寝る事も大事だぞ」と言うと、はぁいという返事をしてそれぞれの席へ戻っていく。

 

「……悪いな、慧音。授業の邪魔しちまって」

 

慧音「いいよ。子どもたちも少し退屈そうにしてたから、いい息抜きだ」

 

「そういってもらえるとありがたい」

 

慧音「職務室に頂いた茶菓子があるよ、おひとつどうぞ」

 

授業が再開される。オレは身体の砂埃を払い、再び笑いが起こる教室をそそくさと抜ける。

そういえば、オレは寝相が最高に最悪だった、って事を忘れていた。誰か寝相を直す方法があれば教えてくれ。幻想郷では[googre]は開けないのだから。

 

§

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。