東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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蹴鞠

甘い饅頭と苦い緑茶によって眠気が完全に醒めたオレは、授業後の教室へと向かう。

既に昼飯を食べ終えていた子どもたちは、中庭へ出て遊んだり、室内で絵を描いたり、食後の自由時間を有意義に過ごしていた。

オレの顔を見るや否やクスクスと笑い立てる子どもたち。

 

「素敵な笑顔をどーも」

 

もれなく全員に軽いデコピンをお見舞いし、中庭へと続く廊下へ座る。

日差しは朝よりも温かく心地よい。

春の陽気というより夏の日差しに近い。

胡坐をかいて日向ぼっこをしていると、外で遊んでいた子どもたちから、赤せんせー、と呼ぶ声がした。

彼らはオレに向かって手を振っている。

ふわふわと柔らかいボールを足で弾き、落とさないようにする遊びをしていた。俗にいう『蹴鞠』というやつだ。

使う球は鞠ではなく浮きやすい球なので回数は続いている。

 

「よし」

 

腰を上げ、靴を履いて輪に入り込む。

目の前の男の子がオレにパスをする。無回転で飛んでくる球はふよふよと不規則な動きをしていた。合わせづらい。目測を図り、左足で受ける。

 

「おらっ」

 

ジャストミートした球体は大きく跳ね、左斜めへ飛んでいく。

 

『赤せんせーうまいね!』

 

「まぁな」

 

同じように来た球を、今度は右足の小指側で一度トラップし、頭上へ浮かんだ球をヘディング。ボールは隣の女の子へ。

なんだ、意外と出来るもんじゃないか。

 

「フワーッ!!」

 

その後は色々と技を組み合わせてやってみたりする。頭で受けとめた球を胸の上に置き、更に背中へと移し替えながら後ろ足で蹴る。

 

「イヤーッ!!」

 

ふわふわの球だからこそできる技が多く、だんだんオレに見惚れてた子どもたちも同じように真似しだす。

いつの間にか曲芸団の休憩みたいになってきた。

 

?『なんだなんだ?』

 

しばしやってると、背後から声がした。

振り向くと、そこにはあかいモンペに長い白髪と、夜と煙草が似合いそうな藤原妹紅が佇んでいた。

 

妹紅「蹴鞠とはねぇ、寺子屋はいつから上級貴族になったんだ」

 

「レベルは彼らよりも上だよ」

 

へぇ、と妹紅はにんまりとほほ笑む。

子どもたちからは一斉に「もこねーちゃんだ!!」との声。彼女も魔理沙と同じく寺子屋の子どもたちに親しまれているのだろう。

 

「妹紅も一緒にやるか?」

 

妹紅「流石にもう蹴鞠は出来ないな、昔はよくしてたけどさ」

 

妹紅は縁側に腰を掛ける。

子どもたちはまだまだやりたいないといった様子だったので、オレは輪から抜け、妹紅の隣へ。

吹き込んだそよ風が汗を冷やしていく。

 

妹紅「…チビッ子っは元気だなぁ、あの活力が欲しいぐらいだ」

 

呆れるような、少しの羨望を含めたまなざしを妹紅は中庭に向ける。

同感だ、とオレは漏らし、そういえば――と思い出す。

 

「妹紅、ひとついいか?」

 

妹紅「ああ?なんだ?煙草ならやらんぞ」

 

「こんな所で吸う訳ないだろ、あとこの間の煙草返せ」

 

妹紅「ああ、いいよ。恐らく竹林で灰になってるから探してきな」

 

「……自然に帰したか」

 

もはや事後であった。

土にかえった煙草たちにお悔やみ申し上げる。

話を戻す。ちょうど竹林、というワードも出てきたところだ。

 

「ちょいと質問。[迷いの竹林]ってのはどういう所なんだ?」

 

妹紅の双眸がオレに向けられた。

真っ赤に燃えるような紅い瞳は細められている。

 

妹紅「……いきなりどうした。死にに行きたいのか?」

 

「あまり大きな声では言えないが、死ぬためではない。朝、招待状が来てな」

 

妹紅「招待状……なるほどね」

 

少し考えるような素振りをしてから、妹紅はふぅん、と唸る。

 

妹紅「簡単にいえば、竹が群生した林さ。名前の通り。だけど、『迷い』って言葉が付けられてるのも名前の通りだ」

 

「簡単に迷うって事か」

 

妹紅「そ。道しるべに置く色米も意味なし。入ったら最後、永遠と同じ風景が続く竹林を彷徨い続ける」

 

妹紅は淡々と話を続ける。

まるで図鑑に載っている言葉をそのまま述べるように。

 

妹紅「しかもここには幼獣や妖怪が棲みついている。お前みたいな無力……とは言えないけれど、護身術の無い奴が行くのは、そいつらの餌になりに行くようなもんだ」

 

「…………」

 

妹紅「どうだ、ビビったか?」

 

「あぁ、正直かなり。食事も喉が通らなくなりそうだ」

 

妹紅「もう食った後だけどな」

 

オレは妖怪に対して少なからず恐怖を抱いている。それは、博麗神社前の森で痛い程経験した。

しかし、それでも行かなければならない。

差出人不明の手紙が、オレをそうさせる。

罠かもしれない手紙が、オレを動かす。

何故ここまで行こうと思うのだろうか。匿名の招待状に。

 

妹紅「ま、お前は大丈夫だろう。しぶとそうだし」

 

遠まわしにG並の生命力だと揶揄される。

今度は妹紅がオレに質問をする番だった。

 

妹紅「で、その招待状の内容は?あぜ迷いの竹林なんだ?」

 

「それは、言えない」

 

妹紅「……だろうなぁ、今夜は満月だしな」

 

「満月?」

 

なんでもないよ、と妹紅は子どもたちを眺め直す。

今宵が満月であることと、この手紙は何か関係があるのだろうか?

妹紅は何かを知っている、そんなような気がする。

 

妹紅「ま、竹林に行くなら十分気を付けろ。稀に兎っぽい奴がいるが、そいつが居たらラッキーだ」

 

「ラッキー?」

 

輝石ラッキーのどくみが型は是非とも滅んでほしいが。

 

妹紅「ん、まぁ行けばわかる」

 

結局は危険な所だけども、困ったらスペルカードを使えばいい。発動するか分からないが、死ぬ気で発動させれば何か起こるかもしれない。頼りに出来ないが、頼らなければならない。最終的に頼れるのは己の力だと気付かされる。

 

妹紅「時にミナトよ」

 

彼女の質問責めはまだ続くようだ。

しかし、先ほどの剣呑さは消え失せていた。

 

「なんだね、もこねーちゃんよ」

 

妹紅「お前、酒は強いか?」

 

「……まぁ、ぼちぼち」

 

妹紅「分かった、伝えておくよ」

 

「……誰に?」

 

妹紅は質問には答えずに、カッカと笑っていた。

嫌な予感がしたのは、多分、風のせいだ。

 

§

 

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