東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
「今宵、月は何処を照らすの~」
夜。
空はより雲が増え、白光は地上に降り注ぐことなく、天だけを灰色に照らしている。
あの向こう側に満月がある。
ふと、里の外に光源が見えた。その灯りは、賑やかで、暖かいように思えた。
今ごろ博麗神社で飲む酒は不味かろう。
「オレという華(ネタ)が無いからな」
人気のない道、煙草を吸いながら歩く。もう片方の手には酒。慧音と商店街で買った時の物だ。あまりにも満月が綺麗だから、暇があれば晩酌と洒落こもうと持ってきた。
「送り主がパーティ希望だと嬉しいんだがな」
バチバチと街灯が発光する。夜の里は驚くほど人がいない。当たり前だ、夜は妖怪が跋扈する時刻であろう。
煙草に口を付ける。夜に吸う煙草は美味く、実に昼の1.7320508倍である。
「あ~頭が元気になるんじゃあ~」
酔わずとも夜はハイテンションになる。満月が人の本当の姿をさらけ出す。
歩いていると、人里の関門へとたどり着いた。
木造で作られた大きな扉、御城の門前に建てられていそうなほど大きい。
まるで「この先は許可なく出られる場所ではない」と、そう語っているように。
「…………」
門の前には槍を構えた男が二人立ち構えていた。
――人がいる。門番は夜でもおかまいなし、か。
煙草の火を消さず、そのまま門の前まで歩く。
『待て』
『貴様、何用だ?』
二双の槍が交叉し、オレの行く手を阻んだ。
仕方なく立ち止まる。眼前でギラリと暗輝する刃。
「ちょいと外に出たいんだけど」
『ならん!』
『この先は里の外だぞ、出るには稗田家当主様のご許可が必要だ!』
「ご許可なんて要らない。……お前らこそ、分かっているのか?」
『なんだと?』
『なに?……いや、待て、こいつ…!』
男たちはハッと顔色を変える。
その表情は、「何故この男は夜に出歩いているのだろうか」と「何故里の外に出たいのか」という二つの疑問の答えが混ざり合った結果を表していた。
たじろぐ門番人。槍がカタカタと震えだす。
『その赤い髪……!』
「お、気づいたか。そうさ、オレァ……”紅魔”のモンだ」
言葉は魔法だ。
紅の悪魔の名の元に、門番人は血相を変えてその場にへたり込んだ。
そして、震える声で、
『か、開門!!!」
眼前の大きな扉が軋みながら内側に開いた。
「さんきゅ、恩に着るぜ」
『た、頼むから、命だけは…命だけは!!』
「そんなもん取らん、逆にくれてやる」
と言ってへたり込む彼らの前に一本の一升瓶を置く。
茶色の一升瓶には[滿月]の文字。自分で飲もうと思っていたが、気が変わった。
「せっかくの満月だから気楽にいこうぜ」
門をくぐると、オレを里から追い出したかのように、すぐさま門は閉められた。
“紅魔”というブランドが示す力は絶大なようだ。赤い髪に共通して人は恐怖するらしい。これからも少々利用することにしよう。ビバ紅魔館!
「う、さみ」
冷たい空気が頬を撫でる。
里の中よりも若干気温が低く、しかしそれは単なる寒さではない事に気付く。
これより先は、妖怪たちの住む世界――。
今感じているのは冷気、というより妖気、という方が正しいのだろう。
迷いの竹林は、この妖怪の生きる場所にある。
「さぁて、行きましょうかね」
東に昇る恥ずかしがり屋の満月を背中に、オレは闇の世界へと足を踏み入れた。
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