東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
――チュンチュン。
朝雀の可愛らしいさえずりに目が覚めた。
やけに清々しい朝だ。朝は苦手なハズだが、妙にスッキリとした目覚めだ。
人の温もりを持つ布団。その中でオレは、二度三度と瞬きを繰り返した。
頭が完全に覚めようとした所で、隣にかすかな寝息が聞こえた。
……すー……ん…。
整ったピンクの唇と、端整な顔立ち。貝合わせのように閉じられた瞼、長いまつ毛。
青い髪の毛はねこっ毛のようにクセが付いている。
寝ている無防備な彼女を見るのはこれで二度目だが、前回のような邪な感情はない。
――それも、そうか。
窓からは、煌々とした朝日が慧音の家に入り込んでいた。
「……今日もいい天気だ」
昨日も良い天気だったがな。それも満天の空に、満月に、と恵まれていた。
上半身を毛布から出そうとすると、隣にいる慧音の寝顔が見えた。
人間姿の彼女。人里で寺子屋を開き、子どもたちに勉強を教える先生。里の長のように、住民に好かれ、友好関係を築いている先生。
――慧音の正体は、そんな素敵なお人よしの妖怪。
オレが今、清々しい気持ちなのは、そんな彼女のささやかな秘密を知ったからだろう。
「二人だけのシークレット……誰も知らないってか」
しかし、問題がある。
あれから妖怪時の彼女の持つ力を教えてもらい、一夜かけて幻想郷の歴史を改竄し。
で、いつの間にか隣で寝ている。添い寝ってやつ。
言い訳をさせてほしい。断じて事後ではない。決して事故でもない。なるべくしてなった事だし、何も起こってないし、オレはまだ自分を守り切っている。故に、添フレってことで、セーフ。
何はともあれ、あれほど慧音に邪な考えは抱かないと決めていたのに、添い寝をしてしまった。
自然の理とは逆らえない人間の性に近いのかもしれない。
男とはすなわち罪そのものか。
「……う」
ふと、腕に温もりを感じた。
偶然かどうか分からないが、昨夜慧音に噛まれた所には、彼女の細い腕が組まれていた。
体温を感じる。触れている所が温かい。
布団の温かさと慧音の温かさは、じんわりとオレを微睡みにつれていく。
「ゆたんぽみたいだ」
今日の予定は特に何もない。
慧音自身、この日は満月の夜の翌日として、寺子屋を閉めている。
故に彼女も予定がない。だからこうしてぐっすり安心したかのように眠っている。二重の意味で安心しているのだろう。
本当に無防備すぎる、とオレは思う。いつか変な男を掴ませられなければ良いが……。
さて、ソフトな拘束をされている今、やるべきことはひとつ。
「セカンド オブ スレプトゥ!!」
スタンド名『
本体名――「一之瀬ミナト」
布団の魔力に捕まり、更に上白沢慧音の魔の手から逃れられず、
「……むにゃ」
この布団とゆたんぽならずっと寝ていられそうだ。
§