東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~ 作:ようひ
?『遅い!いつまで女の子を待たせるのよ!』
目的地に着くや否や飛んできた罵倒と拳。
オレはすかさず事前に伏せておいたリバースカードをオープンする。
「罠発動、聖なるバリア・ミラーフォース!」
凌雅「おい待てダイレクトアタックかよウボア!?」
凌雅という名のトラップカードは拳によって派手にきりもみ回転しながら、後方へ吹き飛ばされる。
「強靭!無敵!最強ォォォ!」
某社長の気分を味わいながら、オレは凌雅を吹き飛ばした女性を見る。
そいつは金色に染まった長髪を後ろで束ね、黒のスタジャンにホットパンツと、「アメリカン系オサレJD」をその体で表したような恰好をしていた。
いつもは黒い帽子もセットなのだが、足元のリュックに括りつけられている。
オサレ系JDは頬を膨らませながらオレを睨んでいる。
?『ちょっと、避けないでよミナト!』
「避けてないぞ。な、凌雅」
凌雅「ぅぐッ……つか、まず来てやった事に感謝しろ、ナギ」
ナギ「それは当たり前でしょ?あたしが呼べば人間が集まるのは世の理よ!」
(…相変わらずぶっ飛んでやがる)
這いつくばる凌雅を絶対零度の目で見下す女。
これがオレたちを10kmもの遠方の地から召還した張本人、【御船 ナギ】その人である。
彼女の性格を四字熟語で表すなら傍若無人、天真爛漫。二字熟語なら暴君という言葉で表せる、まさに破天荒な性格だった。
ナギ「でも、よく来てくれたわ!」
ナギが手で金髪を優雅に靡かせる。
かなりの上から目線。これもナギの性格――高飛車で我がままである。
この女が口を開くと、大抵災いが発生する。
ナギ「今失礼な事考えてたでしょ」
「…別に」
そしてナギは中々に勘が鋭い。
彼女の目の前で隠し事をすることは不可能だ。
?『……』
と、そのナギの後ろで、ゆらりと影が動いた。
「…ナギ、そこの子は?」
?『っ!!』
指摘されるや否や、その影はナギから一瞬離れる、がまた後ろへと隠れた。
?『っ…えと、その、私は……』
とてもオドオドとした様子で前髪を弄り始める影――茶髪のおかっぱ少女。
白いふわふわとした、いかにも女子大学生らしい服装をしていた。
少し垂れ目で、オン眉。表情からも温和な雰囲気をかもしだしている。
(初めてみる顔だな)
この子もオレ達と同じ大学なのだろうか。
逃げるおかっぱ少女を掴み、前へと押し出すナギ。
ナギ「この子はアタシの友達の【鳳 ソラ】ちゃん。今回は一緒に来てもらったのよ」
凌雅「へぇソラちゃんってゆーの?可愛いチャンネェだガッ」
ナギ「黙れ!!」
凌雅の言葉をナギの鉄拳が黙らせる。
ソラ、と呼ばれた女の子はあわあわとしつつも、深々と一礼をした。
ナギ「す、すいません……今夜は、よろしくお願いします…」
第一声から察するに、かなりの人見知りの女の子のようだ。
あまり派手ではないけれど、温和で優しい性格なのだろう。
(ま、それだけだが)
意識をナギに向ける。
ナギは携帯で時刻を確認すると、一息置いて、
ナギ「さて、と…今夜集まってもらったのは他でもないわ」
ナギがこんな夜中にオレたちを呼び出した理由はまだ分かっていない。
彼女は突然呼び出しこそするものの、肝心な内容を教えないというエンターテインメント性を持っていた。
(今明かされる衝撃の真実ゥ!)
某真のゲス的心持ちでナギの言葉を待つ。
ナギ「最近ここらへんで妙な噂が立っているから、それを確かめに来たの」
「妙な噂?」
凌雅「……いわゆる、『神隠し』だろ?」
神隠し――昼に凌雅からも聞いた話だ。
整理しておこう。
神隠しとは、人間の在る行動によって異次元の扉が開き、何者かによって連れ去られた人間はまるで神に隠されたかのように、忽然を姿を消す現象。
その現象には諸説諸々ある。
例えばただの誘拐であったり、実は宇宙人が連れ去っている、など。
ナギ「最近私たちの大学で神隠しに会った人がいるじゃない?」
「あぁ、二人いたな」
さきほどの凌雅の話にも出た噂だ。
ナギ「その子たちが、どうやらこの神社に頻繁に訪れていたみたいなの」
あぁ、だからこんな夜遅い時にこんな山奥にある神社を選んだわけか。
元々頭の良いナギだが、その思考は一般人とは少しずれている。天才の発想とは人を突発的に巻き込むらしい。
ナギ「そ、だから今回はこの現象を起こすために、神への扉を開くのよ!」
凌雅「オイオイそんな好奇心になんで俺らが関わんなくちゃ――」
ナギ「なんか言った?さ、逝きましょう?リョーガ君?」
凌雅「悪かった俺が悪かったから髪を引っ張らないでくれぇぇぇぇぇ!!」
凌雅はナギに引きずられ、颯爽と闇に消えていった。
真夜中だというのに、賑やかな裏山である。
静かになった空間、残されたオレとソラ。
とりあえず、隠れる壁の無くなったソラに声をかける。
「…ソラ、だっけ?まぁ、ナギが飽きるまで適当に過ごすか」
ソラ「…ミナト、さん」
オレの名前を呼ばれる。先ほどとは違って、ハリのある声だ。
オレは携帯電話を弄りながら無意識を装って返事をする。
「なんだ」
ソラ「実はあっちの方にもうひとつ、小さな神社があるんです。そこに行ってみませんか?」
「へぇ……」
気付かないフリをして煌々と光る画面を眺めるオレ。
動くのは面倒だ、実際かなり眠い。
――適当に時間が来るまで過ごそうぜ。いつか帰れるよ。
と言いくるめようとしたが――その思いは、次のソラの言葉によってかき消された。
ソラ「…ほら、行きましょうよ。というか、行かなきゃ…いや、行くぞ」
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