東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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甘味

オレたちは商店街を歩いていた。

まずは精肉屋に目を付ける。

 

慧音「お兄さん、このお肉ください」

 

『おうよ!先生にはおまけで1kgサービスしてやる!ついでにコロッケも!!』

 

どしり、と豚肉がオレの腕の中に積まれた。

次に標的になったのは八百屋。

 

慧音「おおう、何と立派な大根なんだ……」

 

『いっぺェ採れたから持ってってくれ!人参もやるよ!!』

 

グサリ、と根菜の数々がオレの腕の中に上手に突き刺される。

更に貪欲にも、調味料屋さえも獲物としてカウントされてしまった。

 

慧音「……」

 

『美しい瞳…是非とも我が醤油を食卓に置いてくださいまし……』

 

ズン、と醤油の樽がオレの持つ肉の下に潜り込んだ。

視界が築かれたタワーによって見えなくなりそうな中、前を歩く慧音は止まらない。

彼女の力は絶大であり、尊大であり、偉大であった。

歩くだけで物を恵んでもらえる。初めて慧音と来た時にも思ったが……

 

「……けーねって、すげぇ」

 

驚嘆の言葉が漏れた。

そして、混雑している軒並にも関わらず、彼女の前には道が出来ていた。

その中で、慧音はワンピースの裾を揺らしながら、振り向いた。

 

慧音「ほら、ミナト。早くしないと夕飯の支度に遅れるぞ?」

 

「分かってんよ。けーねが早いんだって」

 

こうと分かっていれば荷車でも借りてくればよかったな。

夕飯時の商店街は大変繁盛している。夕飯の食材を買う主婦、農業を終え居酒屋で一杯飲む農夫、売り込みに必死に売り子、チラシを配る人、歌っている人、子どもの鳴き声――。

中々に混沌とした空間である。

 

慧音「次は……お米だな」

 

「勘弁してくれ。米なんて担いだ時には身体が砕けちまう」

 

慧音「何言ってんだ、男の子だろう?あっ、おにいさーん!」

 

無意識って怖い。でも、慧音が元気ならなんだっていいか…。

 

 

 

§ § §

 

 

 

慧音「いやぁ、久々に買い物をすると楽しいな」

 

夕日が影を落とし、鴉が鳴く声が近くなっていく。

隣では、心底楽しかったと言わんばかりに慧音が笑顔を浮かべていた。

オレはお米屋の兄ちゃんから(また)借りた荷車を引きながら、つられて口元が緩む。

 

慧音「欲しい物は大方買えたな」

 

慧音「買えた、というより……全部貰ったの方が正しいな、これは」

 

通りかかった軒並全てで頂物を貰い、荷台からは今にも零れそうだ。

里の人たちは本当に人好きなもんだ。

そして、オレと慧音を見ている通行人から、

 

『なぁ、あいつ…』

『ああ、外の世界から来た、寺子屋の…』

『くそう、何食わぬ顔して慧音先生の隣を歩くな!!』

『いや、おそらく先生は騙されているんだ…そうに違いない…!』

 

などと聞こえるのも、慧音が人々から愛されてている証拠である。

オレへの嫉妬の声に聞こえるが、知ったことではない。

慧音も「そんなのうわさでしかない」と腹を括っているようだ。

 

慧音「……ふふ」

 

「どした?」

 

慧音「いーや、なんでもないよ」

 

慧音がオレをちらりと見る。

……オレとの歩く距離が近づいているのは気のせいだろうか。

凄い、積極的というか、アグレッシブというか。ぐいぐいというか、バスケのオフェンスというか。

 

「あ」

 

ふと、隣の足音が止まる。

慧音は立ち止まっていた。『甘味処』と書かれた赤い暖簾を見つめながら。

その顔を覗くと、まるで子どもがおもちゃを見つけた時の目をしていた。

少し考えているようだったので、

 

「寄るか?」

 

慧音「い、いや……ご飯前だし、さすがに…」

 

「ご飯しっかり食べられるなら」

 

慧音「食べる!」

 

ぴゅーん、と猫のように甘味処へとダイブした。

荷車を止め、石をストッパーとして置き、向かう。

甘味処[杏々]は露店のように店の外で食べるシステムみたいだ。メニューは『ぜんざい』『みたらし団子』『抹茶』と三種類だけ。

暖簾をくぐると、いらっしゃいませと綺麗な着物に身を包む店員さんに出迎えられた。

 

慧音「ぜんざいを、ひとつください」

 

慧音が頼む。

 

「かしこまりました、貴方はどうなさいますか?」

 

「……みたらし団子で」

 

初めて来る店はどれも美味そうで、決めるのが遅くなるタイプの人間だ。

店員は慣れた手つきで会計を済ませ、ぜんざいとみたらし団子、緑茶の乗ったお盆を渡してくる。

それを受け取り、番傘の掛かった椅子に腰を掛け、団子を膝の上に置く。

蜜色に輝くまんまるの団子。まるで燃えるようなオレンジ色をしている。

 

「…………」

 

慧音「じ…………」

 

「……」

 

食べようとした時、慧音がこちらをじっと見ていた。

団子とオレを交互に見て、目で何かを語り掛けている。

――もはや彼女とは言葉が無くても伝わる関係になってきたようだ。

 

「ほら」

 

慧音「!! い、いいのか?」

 

「幸せは分かち合おう、それが幸せってもんだ」

 

慧音「……ありがとう、ではお言葉に甘えるよ」

 

そういうと、慧音はこちらを向いた。そして目を閉じ、小さく口を開ける。

 

慧音「んぁ……」

 

「エ!?」

 

な、なんだこれは……団子を食べる表情じゃあなかろうて!

ぷるぷるとした唇がオレを待っている?いや、団子を待っているんだ断じてオレを迎え入れようとしている訳ではないええいじれったい早く突っ込めいや何をだ!?落ち着け状況を把握し的確に素数を数えるんだ!!

震える手を抑えつつ、団子を慧音の口元に持っていき――。

 

まくっ。

 

慧音「ん・んッ…~~~~!」

 

幸せに落ちる音がした。

オレも続くようにしてみたらしを垂らさず団子に食いつく。

もっちもちとした食感が口の中で優しく弾み、更に少し塩の入った団子と甘いみたらしが絶妙に絡んだ。

 

「美味ッ!!」

 

慧音「な!な!」

 

すかさず更なる幸福を求める慧音は、ぜんざいにパクリと食らいついた。

そして、震える。静かな感動を体の中で味わうように。

 

慧音「あぁ、幸せだ……ずっと、この餅に抱かれてたい…」

 

「ほんとそうだな……むぐッ」

 

慧音「幸せのおすそ分けだ、噛みしめてくれよ」

 

ぜんざいがオレの口に放り込まれる。

温かいあんこに絡んだもちもちの餅がふわふわと口に広がったかと思うと、一瞬にして消えてなくなる。素晴らしくほどの良い甘味を残して。

 

「おふ……よきかな……」

 

慧音「あぁ、これぞ善哉だな…」

 

和菓子の美味さに酔いしれるオレと慧音。

通行人が送る羨望のまなざしに、オレはドヤ顔で「羨ましかろうハッハッハ!」と言いたい気分だった。

 

 

§

 

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