東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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醤油

夕方の遅いおやつを終え、オレたちは夕食の準備に取り掛かる。

荷車を返しに行って、食材たちを慧音の指示であるべき場所へと采配終えた。

 

慧音「さぁ、ご飯の準備だ!」

 

「よ、待ってました」

 

意気揚々と包丁を掲げる慧音。

オレも料理番組の補佐役兼合いの手役として人肌脱がねばな

 

慧音「じゃあ、ミナトは待っていてくれ」

 

「なんでや!オレも手伝う!なんでもするぞ!」

 

慧音「ここは私の家だ。家主に従え、いいな?」

 

「くゥん……」

 

合いの手役にもなれない、この気持ちはなんだろう?

と言っても、初めての慧音の手料理を食べる機会なので、超楽しみってのが正直な気持ちだ。

 

「……煙草吸ってくる」

 

慧音「あまり遠くに行くなよ?」

 

「うぃっす」

 

トントン、と包丁を使う家庭的な音を耳にしながら、外に出て、煙草に火をつける。

 

「漆黒の消えない焔よ…!」

 

一対の煙が天に伸びていく。

久しぶりに吸う煙草はいつもと違う味がした。

吸う場所によって煙草の味は変わる。場所が場所だからだろう。背徳感ってやつだ。

 

「寺子屋で吸った時も美味かったなぁ」

 

?『お、快楽に溺れる若者を発見』

 

「誰が犯罪者予備軍だコラ」

 

スタスタと歩いてきた白と赤の少女――藤原妹紅と合流する。

偶然ではなく、彼女も慧音の家を目指してきたようだ。

到着するや否や煙草に手を覆い、見えない着火をする。

 

妹紅「ふゥゥ……けーねん家で吸う煙草ってやっぱうめぇ」

 

「お?わかるか藤原さんよ」

 

妹紅「あぁ、なんだろうな。この……背徳感?」

 

「全力で同意するぜ」

 

二人で談笑していると、家の中から「妹紅か?」と慧音の声。

煙が二対になっているから彼女だと気づいたのだろう。妹紅は「あぁー」と声を上げ、煙草を咥える。

そういや、と妹紅は言った。

 

妹紅「ありがとな、ミナト」

 

「何が?」

 

「何がって、けーねの事だよ。ちゃんとアイツのこと、分かってくれてさ」

 

妹紅はオレの目をしっかりと見据えている。

慧音の正体が妖怪であることを言っているのだろう。

 

「……オレは何もしてない。慧音が勇気を出して言ってくれたんだ」

 

妹紅「そうだな。でも、そうさせる力がお前にはあった。それはつまりお前のおかげじゃあないか?」

 

「そういうもんか?」

分かってくれてさ、だと。なんともおかしな響きだ。

妹紅はカッカと笑いながら、オレの肩に頭を置いてきた。

ふわりと女の子の甘い香りと竹の青い香りがした。心臓が少しだけ暴れる。

 

妹紅「それついでに私の正体も知っとく?」

 

「……予想を立てよう。アンタは…そうだな、炎を操る妖怪だ」

 

「おお、いい観察力だ」

 

「当たってるのか?」

 

と、妹紅は右手の平を突き出すと、何の前触れもなく掌から炎が上がった。

それは真っ赤な炎で、透き通ったような深紅とさえ感じる。

 

妹紅「半分正解で半分不正解、と言っておこう」

 

「もどかしさ全開だな」

 

妹紅「そのうち知る時がくるさ、そのうちな」

 

果たして本当に彼女の正体を知ることが出来るのだろうか。

話を戻すように、妹紅は「でさ」と言う。

 

妹紅「本当によかったよ、人里で慧音の本心を知る奴がいて」

 

「今までいなかったのか?」

 

妹紅「あぁ。ずっと、あいつは隠してたんだよ。みんなに好かれながら、みんなに嫌われないように」

 

先ほどの商店街で人気だった慧音。

それは、今までずっと妖怪だと言わずに、人間として人間の為に生きてきた、積み上げたからこそのもの。

何処までも妖怪離れした妖怪だな、とオレは思う。

 

妹紅「だから本当によかった。これからも慧音をよろしく頼む」

 

「……了解致した」

 

オレの煙草と妹紅の煙草を交叉させる。

 

慧音「ミナト、ご飯出来だぞ。あと妹紅も入ってこい、ろくに飯食べてないだろう?」

 

家の中から慧音の声がした。

煙草の匂いより強い、醤油の効いた芳ばしい香りがした。

 

 

§

 

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