東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

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茶柱

晩御飯は肉じゃがと葱の味噌汁。

醤油が染み渡った肉じゃがは蕩けてしまうほどに美味で、葱と味噌汁のコンボは凄まじい破壊力だ。

 

「うめ、うめ、うめっ」

 

慧音「おかわりもあるぞ、いくらでも食べてくれよ」

 

あっという間におかわりも含め、全て平らげてしまった。

オレと妹紅は腹をさすりながら、慧音をほめる。

 

妹紅「やっぱりけーねの飯が一番美味いな」

 

「あぁ、まったくだ。料理の上手さだけじゃなくて、慈愛を感じた」

 

慧音「なんだか恥ずかしいな……ほ、ほら! お茶もどうぞ」

 

食後のお茶が卓袱台に置かれる。

ほうじ茶だ。オレの好きなお茶である。

 

「お、茶柱」

 

湯呑を取ると、真ん中に波紋を立てながらぷかぷかと一本の茶葉が浮かんでいた。

縁起がいい、明日はいいことがありそうだ。

少し癒されてから、「そういえば」とオレは思いだしたように聞く。

 

「なぁ、妹紅」

 

妹紅「ん?なんだ」

 

最近忘れていたが、オレの幻想郷に来た目的は親父を探すことだ。

慧音に聞いても成果は得られなかったが、聞く人は多ければ当たるかもしれない。

 

「オレの親父…について、何か知っていないか?」

 

「親父? なんで私にお前の親父のことを訊くんだ」

 

そういえば、妹紅に父親の事を話していなかったので、簡単に説明する。

幼い頃に失踪、幻想郷にいる。

妹紅は訝しげな表情をしていた。もう慣れた反応だ。

 

「と、まぁそんな感じだ」

 

妹紅「一之瀬と名乗るか、髪色の赤い奴、ねぇ…情報が少なすぎるな」

 

「それな」

 

少し考えた素振りを見せた妹紅は、ゆっくりと首を横に振った。

 

妹紅「知らねぇなぁ。少なくとも、名前はこちら側で換えているかもしれないだろ?」

 

「名前は定かじゃない。でも、髪色は確定だ。オレと親父は同じ髪色で」

 

オレは自分の赤い髪を指しながら言う。

その他、記憶に残っている情報を何とかひねり出し、伝える。

それでも、妹紅は「知らない」と言った。

 

慧音「……単に私たちが忘れているだけかもしれないな。稗田に会ってみたらどうだ?」

 

「稗田?」

 

慧音「稗田阿求。この人里の御屋敷に住む阿礼乙女だ」

 

稗田とは人里のお嬢様で、由緒ある家系であるらしい。

そのお屋敷に行けば、親父の手がかりが掴めるかもしれない。

湯呑を口に当てる、茶柱は既に沈んでいた。

 

慧音「阿求もミナトに会いたがってたし、好都合だな」

 

妹紅「それにアイツなら何でも”覚えてる”し、幻想郷の人間全て知ってるかもな」

 

「……そうか、明日行ってみる」

 

稗田阿求。

人里では言わずと知れたお嬢様。

明日は寺子屋の恰好で、無礼の無いように訪問しよう。

持っていく菓子折を考え、店が閉まる前に買うことに決める。

 

「晩飯ごちそうさん、美味しかったよ」

 

慧音「あぁ、もう行くのか?」

 

「たまには妹紅に慧音を譲ろうと思ってな」

 

妹紅「お、気の使える男だな。来世では女に惚れられるぞ」

 

「出来れば今世からがよかったな」

 

最近はオレと居すぎたせいで、妹紅は慧音と話せていないだろう。

 

「一之瀬ミナトはクールに去るぜ……」

 

妹紅「おう、またな」

 

慧音「寺子屋で待ってるぞ」

 

あいよ、と一言かけてから玄関の扉を閉めると、夜風が顔を撫でた。

夏が近づいてきたのか、暖かい風だ。

煙草を取り出し、火をつけようとする。が、中々火が付かない。

 

「……オイル減ってきたか?」

 

数回擦ってようやく火が付く。

幻想郷に来てからオイルを足していないので、そろそろ足さねばならない。

マッチもいいのだが、煙草の味が変わってしまうのが残念だ。

 

「ま、そのうち入れっか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妹紅「……行ったな」

 

妹紅が言うと、慧音は溜めていた息を吐き出した。

まるで見えない何かに縛られて、それから解き放たれたように。

 

妹紅「親父、ねぇ……大変だな、ミナトも」

 

慧音「…あぁ」

 

妹紅「親父さん……見つけられるかね」

 

慧音「たぶん、いや、絶対無理だ」

 

妹紅「……ま、そうだろうね」

 

自分の言葉を深く噛みしめるように、慧音は手に持った湯呑を見つめる。

水面には、茶色に染まった彼女の悲し気な表情が浮かび上がっていた。

煙草に火を付けた妹紅は、その表情を傍目に、煙を吐いた。

 

妹紅「アイツの歴史を消したんだから、幻想郷で知っている奴はいないよな」

 

慧音「……」

 

ガタガタと窓ガラスが音を立てる。

風が強くなってきたのだろう。

まるで、これから起こることを予期しているようだった。

 

 

 

慧音「ミナトには会わせられない。あの人間に会わせれば……大変なことになる」

 

 

§

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