東方礼夜鈔~nothing's written in the extract~   作:ようひ

76 / 122
路地裏

大通りは正午すぎだったが、中心部なだけあって、人であふれかえっていた。

外界の都心部と同じぐらい、人口密度が高く、まるでスクランブル交差点みたいだ。

その中を、オレは文字通り血眼になって探す。

荷物を運ぶ男、水を運ぶ女、風車を持っている子ども、手押し車を押す老婆、新聞を歩き読みしている男……。

 

「どこだ……?」

 

雑踏の中にそれらしき人間は見当たらない。

オレは先程の巫女っぽい少女が言った[大通りの向こう]へ向かう。

大通りの向こう側、というのは東で、中心から寺子屋へ向かう方角である。

探しやすくはなかったが、それでもまだ広場に近いため、人を見ない場所はない。

もう一度、目を凝らして周囲を窺う。

 

――見つけた。黒い外套!

 

阿求が言う通り、遠くの場所で[黒い外套]を羽織っている姿を見つけた。

[赤い髪]というのは、唐笠で全体が見えないが、ちらちらと毛先が日の光で輝いているのが分かる。

 

(あいつか!!)

 

肌がザワリと総毛立つのを感じ、気づけばオレは走っていた。

数百メートルほど離れているが、見失う距離ではない。

 

「ど~けどけどけィ!てやんでいッ!!」

 

『うお!?』

『ったくにーちゃん!気を付けろよっ!』

 

「すまん!」

 

荷車を押す兄さんや、手を繋いでいた親子にぶつからぬよう、しかしスピードを保ちながら走る。

少しずつ距離が縮んでいく。

親父らしき人は歩いているが、少しして左の道へと曲がった。

 

(…………)

 

幼少期に追い求めていた親父。

オレや家族を滅茶苦茶にした親父。

今、ここで会ったらオレは何と言うのだろうか。

先に拳が出てしまうかもしれない。

 

「……追いついたら、まずはぶん殴ってやる」

 

曲がった所へ辿り着く。

その通路は、道と呼べるものではなく、建物と建物の間、つまり裏路地だ。

 

(クソ……あのまま行けば……)

 

人里の路地裏は複雑に入り組んでいる。

このまま奥深くまで潜り込まれては、見失ってしまう。

生唾を飲む。行かなければならない。

小さな希望、掴みかけた好機を信じ、オレは辛うじて小さく見える黒い外套を追いかける。

 

「くぉ、うお……」

 

路地裏はとてつもなく狭い。人ひとりやっと通れるぐらいだ。

焼酎の瓶や煙草の吸殻、判別できないゴミなどが散乱していて、あまり管理されていないように思える。

その光の通らない暗い世界を進む。

 

?『…………』

 

道端には、ゴミ以外にも、人がいた。

身なりは里の人よりも汚れており、はっきりと貧困者であることが分かる。

まるで精気を吸われたかのような、生きているのさえも怪しい顔で、地面に蹲っていた。

 

(ゴロツキか……)

 

恐らく表の世界で仕事をクビになったり、罪を犯した奴らなのだろう。

里の外に出れば妖怪に喰われる。だから、ここに住むしかない。

 

「……意外とブラックだな、人間の里も」

 

そう思っていると、視界の先で[黒い外套]が右に曲がった。

場所を記憶し、ゴミや人を避けつつ、同じ所を右に曲がる。

 

「は?」

 

曲がった先は、行き止まりだった。

確かに[黒い外套]と同じ所を曲がったはずだ。間違えるはずがない。

しかし、目の前には、白塗りの壁があるだけで、人影などひとつも存在しない。

 

「……つっかえ!」

 

急に込み上げるストレスに耐え切れず、オレは煙草を咥えた。

地面に転がるゴロツキ達が「た、たばこ……」とオレを羨望の眼差しで見つめてくるが、構っているほど余裕はない。

――親父は、この先へ逃げたのだろうか。

――掴みかけた希望が、掌から零れ落ちて行く?

 

「……クソッたれが……」

 

と、煙を吐きながら白い壁を睨んでいると、オレは有ることに気付いた。

壁は、見る限り新しい物だ。

最近になって壁を作ったのだろう。白い石を繋ぎ合わせ、白塗りを施したように見える。いや、こんなにも白い壁など幻想郷で作ることが出来るのか? まるでコンクリートで塗ったような壁を?

 

「…………」

 

白い壁に触れてみる。

何故かほんのりと温もりを感じる。路地裏に日差しは届かないため、太陽光のせいとは言えない。

煙草の煙を吐き、壁の隅々を目で追っていると、文字を見つけた。

白い壁に筋のような線が書かれている。

チョークで書かれたように、同色の白い文字で。

 

 

【[Raccoon]開店・こちらに→】

 

 

右を見る。

木造の扉があった。

こんなところに、扉なんてあっただろうか?

 

「……この中か?」

 

最後の一口を納め、煙草を携帯灰皿へ押し込む。

茶色に塗られた、西洋風の扉。

再び鼓動を強める心臓の位置を感じながら、オレは一息ついた。

 

――頼む、居てくれ。

 

扉の取っ手を捻り、引っ張る。カランカランと乾いたベルの音が鳴った。

 

 

『いらっしゃいませ』

 

 

§

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。